M&Aでよくあるトラブルを回避する方法は?売り手、買い手に分けて解説

M&Aでは、売り手企業と買い手企業ともにさまざまなトラブルが起こりやすいです。そのため、事前にM&Aでよくあるトラブルを回避する方法を知っておく必要があります。

そこで本記事では、

  • M&Aのよくあるトラブル・ミス
  • M&Aにおけるトラブルが起きる要因
  • M&Aにおけるトラブル・失敗を避ける方法
  • M&Aのトラブルを事前回避するための進め方

など全般的にわかりやすく解説します。

M&Aのよくあるトラブル・ミス|売り手企業

M&Aの売り手企業でよくあるトラブル・ミスには、主に以下の6つが挙げられます。

  • 相性の悪いM&A仲介会社を選ぶ
  • M&Aに関する情報が外部に漏れる
  • 買い手企業の選定を誤る
  • 不利な条件で交渉される
  • 譲渡金額の再交渉が必要になる
  • 交渉に時間がかかりすぎる

それぞれ詳しく解説します。

相性の悪いM&A仲介会社を選ぶ

M&Aで相性の悪いM&A仲介会社を選んでしまうと、契約に不利となる情報を与えてしまうなど不都合な状況になってしまうケースもあります。そのためM&A仲介契約を結ぶ前には、得意領域や過去の実績など契約内容や実績を確認しておきましょう。

またM&A仲介会社を選ぶ際には、自社の業界・業種に精通しているところを選べば安心して相談しやすくなります。

M&Aに関する情報が外部に漏れる

M&Aを進める中で、交渉相手に自社の企業情報を提供する必要があります。しかし、その過程で外部に情報が漏れてしまうことがあるため、情報漏洩が発覚すると取引が不成立になりやすいです。

取引を安全に進めるために、情報は慎重に管理する必要があります。

買い手企業の選定を誤る

M&A戦略をいい加減に決めてしまうと、買い手企業の選定で失敗するリスクが高くなってしまいます。そのため事前にM&A戦略を細かく立てておき、買い手企業の業務内容・財務状況などを確認して双方がマッチしているか確認しておきましょう。

不利な条件で交渉される

売り手企業のM&Aでは、不利な条件で交渉されるケースが多いです。そこで初めから不利な条件を提示されている場合なら妥協しないポイントを作り、自分たちの意見を伝えておけば不利な交渉は回避しやすいです。

しかし、不利な条件を後出しで伝えられることもあります。後から条件を付け足すことは容易ではありませんが、内容によっては押し通されてしまう場合もある点には注意が必要です。

譲渡金額の再交渉が必要となる

基本合意書を締結した後は、基本的に内容が大幅に変更されることはありません。しかし、M&Aの過程で問題などが発覚した場合は、再交渉が進められることがあります。

再交渉になると、M&Aの全体の期間が延びてしまう場合があり、その分コストも増えやすくなりますので気をつけましょう。

交渉に時間がかかりすぎる

売り手企業のM&Aでよくあるトラブル・ミスとして、交渉に時間がかかりすぎる点があげられます。

じっくり交渉を進めすぎて交渉に時間をかけすぎてしまうと、M&Aが不成立になりやすいです。その原因には、M&A仲介会社などが必要書類を提出してくれなかったり、希望価格が合致しなかったりすることが挙げられます。そのため、交渉に時間がかかっている要因がすぐに解決できるものであれば、早めに対処するように心掛けてください。

M&Aのよくあるトラブル・ミス|買い手企業

一方でM&Aの買い手企業でよくあるトラブル・ミスには、主に以下の5つが挙げられます。

  • 買収企業の選定ミス
  • デューデリジェンスによる情報の差異
  • 市場相場よりも高い金額で交渉する
  • 買収後の従業員の離脱
  • 買収後の経営悪化・放置

それぞれ詳しく解説します。

買収企業の選定ミス

買い手企業のM&Aでよくあるトラブル・ミスとして、買収企業の選定ミスがあげられます。

M&Aで企業成長を考える場合には、シナジー効果の発揮が必要となります。しかし、実際にはシナジー効果が見込めない相手とM&Aを実施して失敗してしまうケースが多いです。そこで自社のM&A戦略を細かく決めておけば、企業選定のミスマッチが起きにくくなります。

デューデリジェンスによる情報の差異

デューデリジェンスとは、企業の内部情報の調査を指します。買い手企業が買収する企業の財務状況などを正確に把握するために行われます。しかし、対象企業は経営状況をよく見せようとするため、貸借対照表などの書類には記載されていない簿外債務を抱えているケースが多いです。

また、従業員への未払い給与や残業代を抱えているケースも見られます。

これらのようなリスクを抱えた企業と交渉を進めないように、買い手・売り手ともにデューデリジェンスを徹底しましょう。

市場相場よりも高い金額で交渉する

M&Aの価格の算定・評価を怠ってしまい、適切な価格で取引できなくなってしまうケースもあります。相場よりも高い金額になってしまうと、買い手企業が一方的に損する事態になりかねません。そのため、市場調査を怠らないように気を付けてください。

買収後の従業員の離脱

M&Aの実行後には、内容に納得できずに従業員が大量に辞職してしまうケースも珍しくありません。しかし、一気に従業員が離脱してしまうと、知識・ノウハウの引き継ぎがうまくいかなくなります。

それだけでなく、事業運営の継続すら危うくなってしまうため、事前に従業員にM&Aの詳細について説明しておくことが重要です。

買収後の経営悪化・放置

M&Aで取得した企業でも、すぐに業績悪化してしまうことがあるため、買い手企業も損失を受けてしまうケースがあります。また買収後の経営統合作業を怠ってしまい、全体的に業績が下がってしまうことも珍しくありません。そのため、事前にどのように経営統合作業を進めればうまくいくか計画を立てておきましょう。

M&Aにおいてトラブルが起こる要因

M&Aにおいてトラブルが起こる要因を把握しておけば、トラブルを避けやすくなります。M&Aにおいてトラブルが起こる要因には、以下のものがあげられます。

  • M&Aの知識が足りていない
  • M&Aの準備ができていない
  • デューデリジェンスが不足している

以下で詳細について解説します。

M&Aの知識が足りていない

M&Aの基本的な知識が不足していると、些細な部分でトラブルを引き起こしてしまうリスクがあります。できる限りトラブルを防ぐためには、情報収集やリスク分析を進めることが大事です。そのため、M&Aにおける一連のプロセスの中で必要な知識を身に付けておきましょう。

M&Aの準備ができていない

株主の準備不足が原因で株式譲渡ができなかったり、企業調査を怠って交渉相手のミスマッチが起きたりするケースも見られます。M&Aの下準備をしっかりしてトラブル・ミスが防げるように気を付けてください。

デューデリジェンスが不足している

デューデリジェンスを実施しても、細かな部分に気づけない場合があります。情報調査が完了しても、そこから必要な情報を知り得るためには専門的な知識が必要です。そのため、専門家に相談してデューデリジェンスを実施することをおすすめします。

M&Aにおけるトラブル・失敗を避ける方法

M&Aにおけるトラブル・失敗を避ける方法には、以下のものが挙げられます。

  • 事前にM&A戦略を立てる
  • 適切な買い手・売り手の調査を行う
  • デューデリジェンスを必ず実施する

以下で詳細について解説します。

事前にM&A戦略を立てる

事前にM&Aの戦略を立てておけば、戦略に合わせたM&Aが実現しやすく、M&Aで失敗する可能性を低くできます。M&Aの戦略を立てる際の流れは、以下の通りです。

  • 1.自社分析
  • 2.M&Aの目的を明確化
  • 3.市場分析
  • 4.戦略を立てる
  • 5.財務や会計を確認

まずは自社の状況を分析し、自社の状況を踏まえてM&Aの目的を明確に設定します。目的は満たせても企業成長に繋がらないと意味がないため、市場分析も行いましょう。

また市場の状況も踏まえた上で、M&Aの戦略を立ててください。合わせて、財務や会計も確認して再現性のある戦略かどうかも判断しましょう。

適切な買い手・売り手の調査を行う

M&Aでは。適切な買い手・売り手の調査を行う必要があります。売り手側は、買い手を選ぶ際には経営状況・市場・自社の経営戦略などを考慮すべきです。

一方、買い手側は売り手を選ぶ際に相手企業について詳しく調べてください。自社にとって適切な買い手・売り手を選ぶことを意識して、企業調査を怠らないように気をつけましょう。

デューデリジェンスを必ず実施する

買い手企業は簿外債務を引き継ぐことがないように、徹底したデューデリジェンスが求められます。内部調査を徹底して行うことで、M&Aで失敗するリスクを減らせます。

内部調査を進める際には、役員・経営者などの重要人物にヒアリングしておきましょう。

M&Aのトラブルを事前回避するための進め方

M&Aを実施する場合にトラブルを回避するためには、適切な手順でM&Aを実施してください。M&Aのトラブルを事前回避するための進め方は、以下の通りです。

  • 1.M&A仲介会社に相談・契約
  • 2.売り手・買い手を選定
  • 3.企業価値算定
  • 4.トップ面談の実施
  • 5.基本合意書の締結
  • 6.デューデリジェンスの実施
  • 7.最終契約
  • 8.PMIの実施

以下で詳細について解説します。

1.M&A仲介会社に相談・契約

まずはM&A仲介会社に相談して、仲介契約を行います。M&A仲介会社の担当者との面談を行い、売却・買収の相談を進めましょう。

相談して自社のM&Aを任せてよい相手だと判断できたら、仲介契約を結んでください。M&A仲介会社などの専門家を選ぶ際には、以下のポイントを押さえて相談先を決めましょう。

  • M&A支援実績の有無
  • 自社で扱っている業界・業種に精通しているかどうか
  • 相談時の料金体系
  • コミュニケーションが取りやすい担当者の有無

十分な実績がある専門家ならば、アドバイスしてもらった内容を受け止めやすいです。専門家の公式サイトなどを調べれば、実績について確認できます。

また、単に実績があるだけでなく、自社で扱っている業界・業種に精通している専門家に相談することをおすすめします。そのため、自社で扱っている業界・業種に精通しているかどうかを意識して実績の有無を確認してみてください。

2.売り手・買い手を選定

次に、売り手・買い手を選定します。売り手は案件の概要書を作成して、買い手の候補となる企業に提出します。

概要書を渡す際には、取引を本格的に進めるかはっきりしていないため、匿名の状態で書類を提出してください。

一方買い手は、概要書や独自の調査に基づいて条件に合致する買収対象を探します。条件に合致する買収対象がなかなか見つからない場合は、ある程度妥協するポイントを決めておくことをおすすめします。

3.企業価値算定

売り手・買い手が決まったら、企業価値を算定してください。企業価値算定とは、買収対象企業の価値を金銭的に評価することです。

主に以下のアプローチ方法で計算して企業価値を算定します。

  • コストアプローチ:貸借対照表に基づく純資産額等の計算による企業価値評価
  • マーケットアプローチ:類似企業の市場価値あるいは過去の取引を参考にした企業価値評価
  • インカムアプローチ:将来のキャッシュフローを現在価値に換算した企業価値評価

事前に大まかに買収価格の上限下限の目安を定めておき、計算した企業価値が決めた価格の範囲内にあるか確認しましょう。

4.トップ面談の実施

M&Aの方針・条件をすり合わせた後は、基本合意を結ぶために経営者同士のトップ面談が行われます。トップ面談で互いの意思を確認しておけば、M&Aの中身を決める際にトラブルが生じにくくなります。

一般的に、M&Aはトップダウンの形で意思決定が進められます。そのため、トップ面談は早い段階で進めておくと、交渉がスムーズに進めやすいです。

5.基本合意書の締結

トップ面談の中で、M&A契約を進める合意が固まったら、M&Aのやり方・条件などの時期を定めた基本合意書を交わします。基本合意書には、主に以下のような内容を記載します。

  • M&Aのスキームと取引対価
  • M&Aのスケジュール
  • 独占交渉権を付与する内容
  • 株価
  • 対象会社の役員についての待遇
  • デューデリジェンスの協力内容

基本合意書を作成すれば、どのような内容でM&Aが進められるか双方が確認しやすいです。

6.デューデリジェンスの実施

基本合意書を締結したら、デューデリジェンスを実施します。デューデリジェンスで法務・財務・税務・ビジネス・環境・ITなどのさまざまな方面でのリスク・問題点を調べます。内部情報を調べると思わぬリスクが判明することが多く、デューデリジェンスによりM&Aの実行後にトラブルに巻き込まれてしまうケースを回避しやすいです。

一般的に買い手側の主導でデューデリジェンスが行われ、売り手側は資料の提供などの協力に応じる必要があります。売り手が協力するように促すために、基本合意書にデューデリジェンスの協力内容を記しておきましょう。

7.最終契約

デューデリジェンスを実施して交渉相手として問題ないと判断できたら、最終契約に向けた交渉を行います。最終的な取引内容が決まったら、最終契約書を締結します。

最終契約書には譲渡方法や譲渡価格などのより細かい情報を記載しておいてください。最終契約が結ばれるとM&Aのキャンセルができなくなるため、取引内容に不安がある場合は遠慮なく事前に伝えましょう。

8.PMIの実施

最終契約を結んだら、PMIを実施します。PMIとは経営統合作業を指し、最終契約を結ぶだけでは新体制での事業運営ができないため、経営資源の移転などを進めます。

M&Aの準備段階から組織・既定、定款、人事・労務、経営管理などの見直しを進めてください。合わせて、3年から5年程度の計画策定を進めましょう。

まとめ

M&Aを実施する際には、さまざまな要因でトラブルが発生するリスクがあります。主にM&Aの知識が足りていなかったり、デューデリジェンスが不足していたりすることでトラブルが発生しやすいです。

そこで、事前にM&A戦略を立てたり、デューデリジェンスを徹底したりすることでトラブルを回避しやすくなります。他にもさまざまな要因からM&Aにおけるトラブルが発生する場合があります。そのため、専門家に相談するなどしてそれぞれの状況を分析し、問題解決のための対策を施すことを意識してM&Aを実施しましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。