第三者承継とは?失敗しない?メリットや成功事例を紹介
事業を継いでくれる人が見つからない場合は、M&Aの一種である「第三者承継」の活用がおすすめです。親族でも社員でもない第三者に事業を継ぐことで、自社の事業を次の世代に残せます。
しかし、事業を承継するためには、さまざまな準備や交渉が必要です。M&Aを検討している人のなかには「第三者承継はよくわからない」「うまくいくか不安」と感じている人もいるでしょう。
この記事では、第三者承継の概要やメリット・デメリット、成功事例について紹介します。後継者探しに頭を悩ませている経営者の人は、ぜひ参考にしてください。
第三者承継とは何か?
第三者承継とは、後継者のいない人が親族や社員以外の第三者へ事業を引き継ぐことです。事業の合併や買収を行うM&Aの手法の一つとされています。息子や孫などの家族に引き継ぐ親族内承継や、社員に後を継がせる従業員承継ができない場合の選択肢として有効です。
第三者承継は、経済産業省も積極的に薦めている手法です。中小企業庁が2019年に第三者承継支援総合パッケージを公表しており、承継できる環境が整備されています。
第三者承継は全業界の大きな課題
先述のとおり、後継者が見つかっていない中小企業は127万社ほどあるにもかかわらず、第三者承継などのM&A件数は年間4,000件程度に留まっています。このため、事業を引き継げずに廃業を選択する企業も増えているようです。実際、2018年には約46,000社の中小企業が廃業や解散を選択しました。
第三者承継の実施はすべての業界で早急に対策すべき課題となっています。なかでも農業・畜産業などの第一次産業は個人事業や家族経営が多いため、子どもがいなかったり違う仕事に就いたりしていると、後継ぎ問題に悩まされてしまいます。この状況を踏まえて、農業公社や独立行政法人などが第三者承継に関するサービスを積極的に打ち出しているようです。
第三者承継は、他人事とはいえなくなっているほど重要な課題になっているといえるでしょう。
第三者承継のメリット
第三者承継のメリットは、以下の5つです。
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メリットを理解して、事業を引き継ぎたい人はぜひ第三者承継の実施を検討しましょう。
後継者に関する悩みを解決するチャンスがある
第三者承継は親族や社員以外の人に事業を継いでもらうため、後継者の選択肢が広がります。自社の事業や会社に価値を見出してくれる人がいれば、手続きが一気に進んで承継が完了するケースもあります。
承継が合意できれば廃業も防げるため、自分の事業や長年培ってきたノウハウを次の世代へ引き継ぐことも可能です。第三者承継のサービスや相談窓口の利用だけでも、十分にチャンスがあるのも嬉しい点です。
事業を売却して利益を得られる
第三者承継では事業を新たな会社へ売却するため、利益を得られます。廃業して事業資産を売却しても相応の利益を得られますが、承継したほうがより高い金額で売却が可能です。
売却して得た資金は新しい事業への投資費用や退職金などに活用できます。リタイア時に得られる利益を少しでも増やしたいのであれば、ぜひ第三者承継に挑戦してみましょう。
事業の成長を期待できる
事業を新たな会社へ移すことで、承継先の会社のノウハウや手法がマッチし、事業が大きく成長する可能性があります。これまで事業の弱点だった箇所が克服されたり、強みがさらに磨かれたりすれば、自分がしてきた事業が社会の役に立っていることを実感できるでしょう。
従業員の生活を守れる
事業を別会社へ引き継げれば廃業を防げるため、従業員の雇用を維持でき生活を守れます。会社環境などは変わりますが仕事内容は大きく変わらないため、突然の廃業で従業員が路頭に迷うこともありません。
売却先の企業の規模によっては、給与や福利厚生などの待遇が改善される可能性もあります。
従業員が新たなノウハウや知見を得られる
事業を引き継ぐと従業員は承継先の会社に移ることとなります。承継先で新たなノウハウや知見を得られるため、事業業績の拡大や従業員自身の成長につながる可能性があるでしょう。
事業を承継してリタイアしたのちに、元従業員が新しい会社で活躍している姿を見られれば、従業員の成長や事業の順調さを実感できるでしょう。
第三者承継のデメリット
第三者承継のデメリットは、以下の3つです。
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第三者承継を実施する際は、デメリットを把握して対策をしましょう。
必ず後継者が見つかるわけではない
第三者承継サービスは、事業承継の相談やM&Aの仲介、後継者とのマッチングプラットフォーム提供など複数のサービス形態があります。しかし、直接後継者を見つけてくれるわけではないため、必ずしも後継者が見つかるとは限りません。
仮にマッチング希望者と交渉することになっても「信頼して事業を任せられない」「熱量や想いに差がある」といった理由で、承継を見送らなければならない場合もあるでしょう。
サービスを使っても承継希望者が現れない場合は、業績や事業価値を見直したり、会社の見せ方を変えたりといった工夫が必要です。
培ってきた風土や環境が変わる可能性がある
事業を売却すると、従業員は新しい会社に勤めることになります。会社が変わると、これまでの風土や職場環境がガラッと変わります。周囲の急激な変化により、ストレスを感じる従業員も出てくるでしょう。
事業を引き渡す側、引き継ぐ側ともに「会社の風土が事業に対してマッチするか」「事業を売却・買収することで従業員や取引先にどのような影響をおよぼすか」を考えたうえでマッチング交渉に臨む必要があります。
専門家の力を借りないと手続きが難しい
第三者承継は誰もが経験するような手続きではありません。資料の用意や会社の調査、交渉などすべき準備は多いです。税理士や行政書士、司法書士など税務・法務に詳しい専門家の助言を仰ぎながら進めないと、承継に挫折してしまう可能性があるでしょう。
日頃から専門家と付き合いがある場合は頼ることができますが、もし付き合いがない場合は専門家探しも並行して行わなければなりません。手続き事務に追われて後継者探しに時間を要することも考えられるでしょう。
第三者承継を進める手順
第三者承継は、以下の手順で行います。
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手続きの流れを理解して、スムーズに進められるよう準備しておきましょう。
1.承継の仲介者・アドバイザーを探す
はじめに、承継仲介者やアドバイザーに事業承継をしたい旨を伝え、承継する事業や会社の現状について把握する必要があります。
承継を仲介してもらうには会社プロフィールを充実させる必要があります。事業の詳しい内容や会社の従業員数、承継時の希望売却価格などを明記しておきましょう。
2.会社の価値を算出する
会社の価値を算出しておくのも、買い手へのアピールに有効です。収益や資産評価などから、会社のおおよその価値を示しておきましょう。
現預金や債権、有形資産、無形資産、債務、経営計画、今後の展望などを明記しておくと、買い手が価値を見出してくれる可能性が高まります。嘘偽りなく現状を正確に伝えるようにしましょう。
3.承継先とのマッチング交渉を行う
承継を希望する人が現れたら、マッチング交渉を行います。互いに話し合うことで条件面の確認ができたり事業への熱意を感じ取れたりできます。「この人であれば事業を継いでもらいたい」と思う人とマッチングできたら、何度か交渉を重ねてより具体的に話を進めていくとよいでしょう。
マッチング希望者と交渉を重ねるなかで「譲れない箇所」「妥協できる箇所」が見えてきます。条件面でどこまで妥協できるか自社で基準を設けておくと、スムーズに交渉できるでしょう。
4.承継の事前調査を受ける
マッチングの結果、事業を承継することで合意できれば、事業を移す側の会社が承継にあたって事前調査を受けます。この事前調査は「デューデリジェンス」とよばれるものです。事業売却をする会社に対して財務・税務・法務といったあらゆる分野での調査が入ります。企業価値や経営に対する重大なリスクがないかを確認し、問題がなければ正式契約へと進みます。
5.契約を締結して社員や取引先に報告する
デューデリジェンスが完了し会社に大きな問題がないと判断されれば、正式に事業を売却する契約を締結しましょう。契約の締結後は従業員に第三者継承が決まったことを報告し、引き継ぎや今後のスケジュール、新会社の経営方針などについて説明をしてください。
もし契約締結後の説明で従業員からの反発を招きそうであれば、正式契約前に第三者承継に入ることを従業員へ伝えておいてもよいでしょう。
第三者承継の成功事例を紹介
第三者承継に成功した事例を紹介します。承継実施時の参考にしてください。
◼️有限会社よしだ商運の例
承継を実施した会社 | 承継先 |
有限会社よしだ商運 | 起業希望者 |
石川県河北郡内灘町の有限会社よしだ商運は、後継者不在により、事業承継引継ぎ支援センターに相談。譲渡条件整理やマッチング機会の提供などのサポートを受けた結果、県内へのUターンを希望する起業希望者とマッチングしました。
交渉では事業の現状や懸念点、承継への思いを両者がぶつけ合いました。承継のイメージが明確になった両者は、事業の承継に合意。よしだ商運は無事に後継者に事業を引き継げたのです。
「事業を継ぎたい」「この場所で起業したい」という互いの高い熱量が、第三者承継の成功要因といえるでしょう。
◼️ストアー菊竹の例
承継を実施した会社 | 承継先 |
ストアー菊竹 | 木屋商店 |
熊本県の球磨郡球磨村一勝地地区で唯一の小売店であったストアー菊竹は、店主婦人が体調を崩したことにより廃業を検討。しかし、地区唯一のお店をなんとか残したい気持ちは日に日に強まっていきました。
村役場や商工会、熊本県事業引継ぎ支援センターが協力して後継者を募ったところ、店主の地区商工会の先輩であった木屋商店が後継に名乗りをあげました。
事業の拡大を狙う木屋商店とストアー菊竹は無事承継に合意。5年ほどかけて事業が軌道に乗るのを地区全体でサポートしました。
第三者承継で事業を次世代へ残そう
第三者承継の概要やメリット・デメリット、成功事例について解説しました。第三者承継は、後継者のいない人が家族や社員以外の第三者に事業を引き継ぐことです。「後継が見つからないけれども事業は引き継ぎたい」と考えている人にぴったりのM&Aです。マッチングがうまくいき承継が決まれば、事業の存続や従業員の雇用維持を実現でき、安心して退けます。
一方で、必ず後継者が見つかるとは限りません。買い手を見つけるには就職活動のように自社の価値を正しく伝える努力が必要です。専門家を頼る機会も多くなるでしょう。
プロの力で事業を後世に残したい人は、料金の安さと豊富な買い手リストが特徴の「TSUNAGU」をぜひ活用してください。
ディスクリプション:事業を第三者へ引き継ぐ第三者承継。後継者問題の解決や事業売却での利益獲得が期待できます。この記事では第三者承継の概要やメリットなどを紹介します。後継者探しに困っている経営者はぜひ参考にしてください。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。