ゼロゼロ融資とは?返済できないときの対応策まで解説!
ゼロゼロ融資のスタートから4年以上が経過し、返済開始が本格化しています。融資件数は約245万件とされており、そのうち倒産した事業者数はすでに1,200件を超えています。割合は多くはありませんが、中には「今のところ返済の見込みは立っているが、完済までは不透明」と不安を抱えている経営者の方もいるでしょう。
そこで本記事では、万が一の場合のために、ゼロゼロ融資についてさらに知識を深められるよう仕組みや概要などを詳細に説明します。また、ゼロゼロ融資が返済できない事態に備えて、対応策についても解説します。
ゼロゼロ融資とは?
ゼロゼロ融資とは、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて売上高が減少した事業者を支援するために設けられた融資です。融資対象となるのは中小企業や個人事業主で、金融機関に支払う利子は都道府県(一部市町村もあり)が3年間負担、返済できない場合は信用保証会社が肩代わりするという仕組みになっています。実質的に無利子(利子ゼロ)・無担保(担保ゼロ)ということから、ゼロゼロ融資と呼ばれています。
ゼロゼロ融資は、政府系金融機関が窓口となって2020年3月に開始。日本政策金融公庫では申請期限が再延長されており、2024年6月30日まで申請の受付をしています。一方、政府系金融機関の窓口に申請が殺到したため、民間の金融機関でもゼロゼロ融資の取り扱いを2020年5月に開始し、2021年3月31日で受付を終了しています。
中小企業庁の発表によると、ゼロゼロ融資の融資実績は約43兆円で、融資件数は約245万件です。東京商工リサーチでは、無利子期間が終了し、元金の返済開始もピークを迎えていることから、ゼロゼロ融資利用後に倒産した企業は2024年1月時点で1,260件と発表しています。
出典:東京商工リサーチ
ゼロゼロ融資のメリット
ゼロゼロ融資の大きなメリットは、条件に当てはまれば実質無利子・無担保で資金調達ができることです。売上高が減少した事業者の中には、仕入れや人件費などの支払いができず事業継続が困難なケースもあるため、資金調達ができれば事業を続ける目処が立てられることになります。
実際に、帝国データバンクの調査によると2021年の倒産件数は6,015件で前年比23.0%減、負債総額は1億1,633億円で前年比1.5%減となっています。1966年以来、半世紀ぶりの歴史的低水準とされています。
なお、帝国データバンクの調査「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2022年8月)」によると、ゼロゼロ融資を含む新型コロナウイルス感染症関連の融資を利用した企業規模の割合は以下のようになっています。
企業の規模 | 割合 |
小規模企業 | 57.7% |
中小企業 | 54.1% |
大企業 | 23.4% |
調査は2022年8月18日~31日の間で、調査対象は全国2万6,277社に対して行い、有効回答企業数は1万1,935社(回答率45.4%)としています。
出典:帝国データバンク
ゼロゼロ融資のデメリット・注意点
ゼロゼロ融資は実質無利子・無担保が特徴ですが、無利子の期間は3年間です。4年目からは利子が発生するため、返済額が増えることになります。当然、業績が回復しないと返済額の用意ができないため、資金繰りに行き詰まってしまうというデメリットがあります。
前述したように、ゼロゼロ融資を利用した企業が倒産した件数は1,200件以上を数えており、円安がさらに進行してエネルギー高が続く、人材不足が解消できない、人件費が高騰するなどの状況が進めばさらに倒産企業数が増えると考えられます。そのため返済中の企業は早期に業績を回復することが欠かせません。
ちなみに、帝国データバンクの調査「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2023年2月)」によると、「返済に不安」と感じているのは12.2%で、「全額返済できる予定」と回答したのは85.4%となっています。
出典:帝国データバンク
ゼロゼロ融資の種類
ゼロゼロ融資の取り扱い窓口は、政府系金融機関と民間金融機関です。それぞれ対象者や融資条件、融資限度額、返済期間などの概要が異なっています。
そこでこの項目では、
- 日本政策金融公庫
- 民間の金融機関
- 商工組合中央金庫
におけるゼロゼロ融資の概要について解説します。
日本政策金融公庫(新型コロナウイルス感染症特別貸付)
政府系金融機関の日本政策金融公庫では、「新型コロナウイルス感染症特別貸付」としてゼロゼロ融資を行っています。申請期限は再延長が繰り返され、2024年6月30日となっています。以下が概要です。
項目 | 概要 |
対象者要件 | 最近1カ月の売上高または過去6カ月の平均売上高が前5年のいずれかの年の同期と比較して5%以上減少している人、など |
資金の使用用途 | 新型コロナウイルス感染症の影響に伴う社会的要因等により必要とする設備資金および運転資金 |
融資限度額 | 8,000万円(別枠) |
利率(年) | 基準利率 ただし、6,000万円を限度として融資後3年目までは基準利率-0.9%、4年目以降は基準利率 |
返済期間 | 設備資金 20年以内(うち据置期間5年以内) 運転資金 20年以内(うち据置期間5年以内) |
なお、売上高が20%以上減少した中小企業者および売上高が15%以上減少した小規模企業者、および個人事業主は特別利子補給制度の利用が可能となっています。特別利子補給制度とは、当初3年間の6,000万円以下にかかる利子が支給される(実質無利子)制度です。
出典:日本政策金融公庫
民間の金融機関(新型コロナウイルス感染症対応資金)
新型コロナウイルス感染症関連融資は政府系金融機関のみで行われていましたが、申し込みが殺到し実行までに時間がかかるため、都道府県等による制度融資を活用して民間金融機関でも取り扱うようになりました。以下がその概要です。
項目 | 概要 |
対象者要件 | セーフティネット保証4号(売上高20%減)・5号(売上高5%減)、危機関連保証(売上高15%減)いずれかの認定を受けた、個人事業主と小・中規模事業者(売上5%減は保証料1/2負担) |
融資期間・据置期間等 | 10年以内(うち据置期間5年以内) |
融資上限額 | 4,000万円(拡充前3,000万円) |
補助期間 | 保証料は全融資期間、利子補給は当初3年間 |
担保 | 無担保 |
都道府県によって制度・資金名が異なっており、例えば神奈川県では「神奈川県新型コロナウイルス感染症対応資金」、栃木県では「新型コロナウイルス感染症対策パワーアップ資金」、秋田県では「秋田県経営安定資金危機対策枠」などとなっています。
出典:経済産業省
商工組合中央金庫(新型コロナウイルス感染症特別貸付)
主に中小企業支援を行っている商工組合中央金庫(商工中金)も政府系金融機関の1つです。商工中金で取り扱っているのが「新型コロナ感染症特別貸付」で、以下が概要です。
項目 | 概要 |
対象者要件 | 最近1カ月の売上高が前年または前々年の同期と比較して5%以上減少した、など |
資金の使用用途 | 運転資金、設備資金 |
融資限度額 | 3億円 |
利率(年) | 当初3年間 基準金利▲0.9% 4年目以降基準金利 ▲1.11%→0.21% ※2020年4月1日時点、貸付期間5年、信用力や担保の有無にかかわらず一緒 |
返済期間 | 設備資金 20年以内(うち据置期間5年以内) 運転資金 15年以内(うち据置期間5年以内) |
なお、日本政策金融公庫と同様に、売上高が20%以上減少した中小企業者および売上高が15%以上減少した小規模企業者、および個人事業主は特別利子補給制度の利用が可能となっています。
出典:商工中金
ゼロゼロ融資の返済開始はいつ?
ゼロゼロ融資の返済開始は、融資を受けた時期と貸付期間、据置期間によって決まります。2020年5月に貸付期間10年・据置期間3年で借りた場合、返済開始は2023年6月から元本の返済が開始されるということになります。例えば、2020年4月に融資が実行され、据置期間を設定しない場合は2020年5月から返済を開始している企業もあると考えられます。
ただし、実際には2023年5月〜7月と2024年2月〜4月の間に返済開始のピークがきているとされています。それはゼロゼロ融資の申し込みが、2020年3月に受付が開始された直後の2020年4月〜6月、民間金融機関での受付が終了する直前の2021年1月〜3月にかけて多かったこと、さらに据置期間を3年に設定しているケースが多かったからです。
ちなみに帝国データバンクの「新型コロナ関連融資に関する企業の意識調査(2023年2月)」によると、融資を受けている企業5,065社の返済状況は以下のようになっています。
返済状況 | 割合 |
すでに返済開始 | 69.2% |
2023年6月末までに返済が始まる | 12.3% |
2023年12月末までに返済が始まる | 10.0% |
2024年1月以降に返済が始まる | 7.1% |
この表から推測すると、2023年12月末までに91.5%の企業で返済が開始されており、残りの企業も2024年に入ってから返済が開始されていると考えられます。
出典:帝国データバンク
ゼロゼロ融資の返済期限について
ゼロゼロ融資の返済期限は、借り入れた融資の種類によって以下のように異なっています。
-
- 日本政策金融公庫「新型コロナウイルス感染症特別貸付」…設備資金・運転資金ともに20年以内
<li>商工組合中央金庫「新型コロナ感染症特別貸付」…設備資金は15年以内・運転資金は20年以内
- 民間金融機関「新型コロナウイルス感染症対応資金」…10年以内
そのほか特徴的なのが無利子期間と据置期間の設定です。次の項目で詳しく解説します。
無利子期間の返済は最長で3年間
ゼロゼロ融資の最大の特徴である実質無利子・無担保ですが、利子に関しては返済期間中がすべて無利子になるわけではありません。最長で3年間となっています。また、無利子になる方式が各都道府県で異なっており、以下の2つの方式があります。
- リアルタイム方式…事業者は金利を払わず、金融機関が都道府県から事後補給を受ける方式です。
- キャッシュバック方式…事業者が金融機関へ金利を支払い、事業者が都道府県に対して金利分の補給を申請する方式です。
キャッシュバック方式の方が手間がかかりますが、金融機関のシステムが対応できない都道府県ではキャッシュバック方式が採用されています。
元金返済開始までの据置期間は最長5年
ゼロゼロ融資は実質無利子・無担保が最大の特徴ですが、もう一つの大きな柱は元金返済を開始するまでの据置期間を設定できることです。ゼロゼロ融資は2020年3月に開始されましたが、その時点では新型コロナウイルス感染症の終息時期が見通せなかったことから、業績が回復するまでに元金返済に猶予を与える目的で据置期間が設けられたのです。
据置期間は最長5年まで設定できますが、実際には3年以内で設定した事業者が多いとされます。また、業績が回復しない事業者のために政府から金融機関に対して据置期間延長などの金融支援要請が出されており、据置期間および償還期間が延長された事例もあります。
ゼロゼロ融資が返済できないときの対策
ゼロゼロ融資の返済が本格化していますが、会計検査院が公表した「日本政策金融公庫等が実施した新型コロナ特別貸付等の状況(特定)」によると、政府系金融機関が融資したうち倒産などで回収不能になっているのが2022年度末時点で1,943億円、回収不能の可能性がある「リスク管理債権」が8,785億円としています。
そこで政府は、2024年3月末までとしていた資金繰り支援策の期限を6月末までに延長しています。具体的には以下の支援策が対象です。
- コロナ借換保証の延長
- 新型コロナ特別貸付の延長
- 資本性劣後ローンの延長
劣後ローンとは、優先順位の低い特殊なローンのことです。代表的なのは日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付(新型コロナ対策資本性劣後ローン)」で、こちらの申し込みも2024年6月末まで延長となっています。
次からは、ゼロゼロ融資が返済できないときの代表的な対策である「コロナ借換保証」「公庫融資借換特例制度」について解説します。
出典:日本政策金融公庫等が実施した新型コロナ特別貸付等の状況(特定)
出典:日本政策金融公庫
コロナ借換保証
コロナ借換保証とは、民間金融機関によって融資を受けた融資金の借換を支援する保証制度です。正式には「民間ゼロゼロ融資等の返済負担軽減のための保証制度」と言います。民間金融機関のゼロゼロ融資等を利用した事業者の返済負担を軽減するために、2023年1月からスタートしています。
借換とは、今までの融資を返済するために新しい融資に切り替えることです。コロナ借換保証は、事業者が融資金の借換を行う際に、金融機関が融資しやすいように保証協会が保証する仕組みです。当初の申請期限は2024年3月31日までの予定でしたが、6月30日までに延長されています。
制度の概要は以下の通りです。
項目 | 概要 |
保証限度額 | 1億円 |
保証期間 | 10年以内 |
据置期間 | 5年以内 |
金利 | 金融機関所定 |
保証料(事業者負担) | 0.2%等(補助前は0.85%等) |
要件 | 売上または利益率が5%以上減少 など |
その他 | ・100%保証の融資は、100%保証での借換が可能 ・経営行動計画書の作成 ・金融機関の継続的な伴走支援 |
申請は、自社の財務分析、今後の具体的なアクションプランを記載した経営行動計画書を作成して金融機関に行う流れになっています。
出典:中小企業庁
公庫融資借換特例制度
一方、日本政策金融公庫から受けた融資の返済が厳しい場合に、借換ができる制度が公庫融資借換特例制度です。利用できるのは日本政策金融公庫の融資を受けている事業者で、ゼロゼロ融資だけが対象ではありませんが、新型コロナウイルス関連では「新型コロナウイルス感染症特別貸付」「新型コロナウイルス感染症対策挑戦支援資本強化特別貸付」が対象になります。
借り換えをするメリットは、融資の返済期日を延ばせることに加えて、低い利率で資金が調達できる可能性があることです。毎月の返済額も抑えられるため、事業の見通しも立てやすくなります。
出典:日本政策金融公庫
まとめ
新型コロナウイルス感染症拡大によって事業の見通しが立たない場合に、資金調達方法として活用されているのがゼロゼロ融資です。3年間は無利子、担保が必要がないなど事業者にとっては有利な条件で資金が調達できるため、業績回復を果たした事業者も多かったことでしょう。
しかし好条件だったとは言え、返済義務のある融資であることは変わりません。そのため、業績が想定通り回復しておらず、元金返済が開始されて資金繰りが困難になった事業者もいるようです。
そこで本記事では、ゼロゼロ融資の返済が難しい場合の対策方法についても紹介しました。返済額が抑えられる可能性もあるので、検討してみてください。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。