コロナ融資の返済猶予は?据置期間などは変更可能?借換保証制度についても解説
コロナ融資とは、新型コロナウイルス感染症の影響により業績悪化に陥った事業者を対象とした融資制度です。実質無利子・無担保のため、「ゼロゼロ融資」とも呼ばれます。据置期間を通常の融資よりも長めに設定できる点も特徴です。
現在はコロナ融資の返済が本格化しつつある状況ですが、融資の返済期間の始まりにあわせて、コロナ融資の返済難に陥る企業が急増しています。原則として、コロナ融資は返済免除が認められません。そのため、返済難の恐れがある場合は早めに何らかの対処をする必要があります。
今回は
- コロナ融資の返済状況
- コロナ融資据置期間・返済期間の延長の可否
- コロナ融資の返済が難しいときの対処法
等を詳しく解説します。
コロナ融資とは
コロナ融資とは、新型コロナウイルス感染症の影響により業績悪化に陥った事業者を対象とした融資制度の総称です。実質無利子・無担保のため、別名「ゼロゼロ融資」ともいわれます。
コロナ融資は政府系金融機関の制度と、民間金融機関の制度の2種類に分けられます。政府系金融機関のコロナ融資は2020年3月、民間金融機関のコロナ融資は同年5月に始まりました。
政府系金融機関の制度と民間金融機関の制度の大きな違いとして、設定できる返済期限の長さが挙げられます。政府系金融機関のコロナ融資で設定できる返済期限は20年以内、据置期間5年以内でした。民間金融機関のコロナ融資は、返済期限が10年以内、据置期間が5年以内となっています。
「実質」無利子・無担保という表現のように、利子がすべて免除されるわけではありません。民間金融機関のコロナ融資の場合、無利子が適用されるのは当初3年間のみです。日本政策金融公庫のコロナ融資については、融資後3年間は基準利率-0.9%、4年目以降は通常の融資と同様に基準利率が適用されます。
コロナ融資の返済状況
帝国データバンクの調査によると、コロナ融資を「現在借りている」と回答した企業について、返済状況は以下の通りです。
- 5割以上:24.7%
- 3割~5割未満:15.7%
- 3割未満:41.5%
- 未返済・今後返済開始:17.6%
- 不回答:0.4%
出典:帝国データバンク
経済産業省の中小企業庁 金融課が公開した資料では、コロナ融資の返済開始のピークについて以下のように説明されています。
- 日本政策金融公庫のコロナ融資返済ピーク:2021年6月、2022年6月に到来
- 民間金融機関のコロナ融資返済ピーク:2023年7月~2024年4月に到来
出典:中小企業庁
コロナ融資で設定できる据置期間は最長5年です。現在はコロナ融資の据置期間が明け、返済が始まった企業が増えている状況といえます。
中小企業庁の同資料内では、業種別の民間コロナ融資の返済状況も公表されています。
2023年時点、民間コロナ融資返済中の事業者は融資利用者のうち約5割です。全体のうち2.7%は2023年3月末時点で完済しています。
コロナ融資の元金返済中の割合が低い業種として、宿泊業が挙げられます。2023年3月末時点で、返済中の割合は33.6%でした。宿泊業は、据置期間中の割合だけでなく、条件変更をした事業者の割合も他の業種に比べて大きいです。
返済難に陥る企業が急増している
コロナ融資の返済開始時期のピークを迎える中、返済難に陥る企業が急増しています。
東京商工リサーチの調査によると、2023年のコロナ融資利用後の倒産は631件でした。コロナ融資利用後の倒産は2022年にも発生していましたが、2023年は前年の約1.4倍となっています。
コロナ融資を利用した事業者の倒産件数は、2023年は毎月40件を超えるペースで推移しています。初めて倒産が発生したといわれるのは2020年7月であり、それから3年半での累計件数は1,216件です。
なお、コロナ融資利用後の倒産件数が最も多いのは飲食店を含むサービス業で、累計221件、全体の3割超を占めます。コロナの5類移行により客足は戻りつつありますが、食材費および光熱費の高騰や賃金上昇等の影響により、コロナ前に比べて経営が苦しくなっている状態です。
コロナ融資の据置期間・返済期間は延長できる?
コロナ融資の返済が難しい場合に企業がまずやるべきことは、据置期間・返済期間の延長の相談です。コロナ融資の据置期間については、国から金融機関に対して柔軟な対応をするよう要請が出ています。コロナ融資の返済が難しそうな場合は、早めに据置期間・返済期間の延長について交渉しましょう。
ただし、据置期間・返済期間の延長を必ずしも受け入れてもらえるとは限りません。返済猶予が認められなかった場合の対策についても知っておく必要があります。
ここではコロナ融資の据置期間・返済期間を延長する方法や、延長ができなかった場合の対策について紹介します。
据置期間・返済期間の延長措置
コロナ融資の据置期間は金融機関との交渉により延長できるケースがあります。資金繰り改善までに時間がかかりそう、現時点では返済が困難である等の場合、早めに金融機関へ相談しましょう。
据置期間・返済期間の延長については、内閣総理大臣、経営産業大臣等からの要請が出ています。要請は全部で7項目で、そのうち新型コロナウイルス感染症について触れているのは最初の2項目です。内容を紹介します。
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- 新型コロナウイルス感染症に加え、ウクライナ情勢・原油価格上昇等により、(中略)こうした事業者の資金繰りに支障が生じないよう、(中略)返済猶予や条件変更を含む資金繰り相談に丁寧かつ適切に対応する(後略)
- コロナの影響が3年目に入る中で、2度目、3度目の返済猶予や条件変更の相談が増えているところ、(中略)資金繰りが厳しい事業者の状況を十分に勘案し、(中略)事業者の立場に立った最大限柔軟な資金繰り支援を行うこと。
出典元:金融庁
また、事業者からの返済期間・据置期間延長の相談に対する対応は5番目の要請項目で詳しく記載されています。5番目の要請項目のポイントとなるのは以下の4点です。
- 返済期間・据置期間延長の相談について、申し込みを断念させるような対応をとらない
- 返済期間・据置期間の長期の延長等の積極的な提案等、事業者の実情に応じた迅速かつ柔軟な対応を継続する
- 据置期間終了後の返済負担増大を恐れて据置期間延長を躊躇する事業者がいる場合、返済期間の延長についても提案する
- 制度上の返済期間・据置期間を超えた延長についても柔軟な相談に応じる
なお、コロナ融資の据置期間として設定できるのは最長5年です。
据置期間の延長を受けてもらえない時
コロナ融資の据置期間や返済期間は、交渉によって延長できる可能性があります。しかしあくまでも可能性であり、必ずしも据置期間の延長を受け入れてもらえるとは限りません。据置期間や返済期間の延長について、最終的な判断は各金融機関に任されています。
据置期間の延長を受けてもらえない場合の対処法として、以下の3つが挙げられます。
- 返済条件の見直し
- 廃業
- M&A
まずやるべきことは、返済条件の見直しです。返済条件の見直しについて、詳しくは次の項で解説します。
どうしても返済が難しい場合、廃業を視野に入れる必要もあります。廃業によって法人格がなくなれば、法人に紐づく債務の返済義務も消滅する仕組みです。コロナ融資は原則として無担保で経営者保証(経営者が連帯保証人になる仕組み)もないため、廃業後は返済義務がなくなります。
条件次第ではM&Aの選択肢も存在します。M&Aの可否を判断するには様々な要素を考慮する必要があるため、当事者のみで判断しようとせず、必ずM&Aアドバイザーや弁護士等の専門家に相談しましょう。
返済条件の見直し
コロナ融資の据置期間の延長ができなくても、返済条件の見直しはできる可能性があります。返済条件の見直しは一般的にリスケジュールといい、略してリスケと呼ばれる場面も多いです。
コロナ融資の返済条件見直しにおいては、経済産業省の新型コロナ特例リスケジュール支援制度を活用できます。新型コロナ特例リスケジュール支援制度は、コロナの影響で業況が悪化した事業者を対象とした制度です。再生支援協議会が融資を利用している事業者と金融機関の間に入り、特例リスケ計画の策定支援や金融機関との交渉等を行います。
新型コロナ特例リスケジュール支援制度を利用する際の注意点として、以下の2点が挙げられます。
- 相談申込書や売上減の実態がわかる資料等、様々な書類を用意する必要がある
- 特例リスケ計画の策定後、毎月計画遂行状況のヒアリングが行われるため、やや手間となる
返済免除は可能か?
コロナ融資の返済免除は基本的に受け付けてもらえません。返済猶予を設けるための様々な対策手段は存在しますが、いずれの方法でも最終的には返済が必要です。
例外として、廃業や倒産により法人格を失った場合はコロナ融資の返済義務が消滅します。コロナ融資に限らず、法人の債務は法人格とあわせて消滅するためです。
ただし会社の債務のうち経営者保証がついたものは、法人格の消滅後に返済義務が経営者に移ります。廃業・倒産により会社がなくなったからといって、すべての債務が無条件で消滅するわけではない点にご注意ください。
「据置期間の延長を受けてもらえない時」でも紹介したように、コロナ融資は基本的に経営者保証がついていません。そのためコロナ融資は廃業・倒産によって返済義務がなくなる、すなわち返済免除になると考えて良いでしょう。
コロナ融資借り換え保証制度とは?
コロナ融資の据置期間の延長や条件変更が難しい場合、コロナ融資借換保証制度を活用するのも1つの手段です。
コロナ融資借換保証制度(以後「コロナ借換保証」)は一定の要件を満たす事業者が利用できる保証制度で、以下の特徴があります。
- 保証限度額が最大1億円と一般的なコロナ融資よりも高額
- 保証期間等は10年以内、うち据置期間は5年以内
- 事業者負担の保証料率は0.2%等 補助前は0.85%
出典元:中小企業庁
ここではコロナ借換保証の条件や、利用に際しての注意点を紹介します。
コロナ借換保証利用の条件
コロナ借換保証は、2023年1月に開始された制度です。利用するためには、以下のうちいずれかに該当する必要があります。
- セーフティネット4号の認定
- セーフティネット5号の認定
- 最近1カ月間と前年同月を比較して売上高が5%以上減少している
- 最近1カ月間と前年同月もしくは直近2年分の決算書を比較して、売上高総利益率/営業利益率が5%以上減少している
セーフティネット4号は最近1カ月間(実績)とその後2カ月間(見込み)と前年同期を比較して、売上高が20%以上減少している場合に認定されます。トータル3カ月間で比較をしますが、そのうち2カ月分は見込みの点にご注意ください。
セーフティネット5号は、以下2つの要件を満たした場合に認定されます。
- 指定業種に該当する
- 最近3カ月(実績)と前年同期を比較し、売上高が5%以上減少している
セーフティネット4号と違い、5号で比較に用いる売上高は実績のみです。
コロナの影響を受けた事業者は、セーフティネット4号および5号に該当するかの判定において、前年同期ではなくコロナ前との比較も認められます。
出典元:中小企業庁
コロナ借換保証利用の注意点
コロナ借換保証は通常のコロナ融資よりも条件が厳しく、必要な手続きが多い点にご注意ください。
コロナ借換保証を利用するためには、前述したいずれかの条件に該当することに加え、以下の2つも必要です。
- 金融機関による伴走支援
- 経営行動計画書の作成
なお、コロナ借換保証の手続きは大きく以下6つの流れに分けられます。
1.事業者が融資申し込み・経営行動計画書を作成
2.金融機関が与信審査・書類準備
3.金融機関から市区町村へセーフティネット保証の認定申請
4.金融機関から保証協会へ保証審査の依頼・経営行動計画書の提出
5.金融機関から事業者へ融資実行
6.金融機関による伴走支援
コロナ融資は返済猶予の交渉が難しい場合の対処法
コロナ融資の返済が難しい場合の対処法として、据置期間や返済期間の延長、返済条件の変更等を紹介しました。いずれの方法も最終的な判断をするのは金融機関であり、金融機関との交渉が必要不可欠です。
しかし、何らかの事情で返済猶予の交渉が難しいケースもあるでしょう。また、金融機関との交渉が上手くいかない恐れもあります。
ここでは、コロナ融資の返済猶予の交渉が難しい場合の対処法を3つ紹介します。
弁護士に相談してみる
返済できる見込みがなく返済猶予の交渉が上手くいかなかった場合は、弁護士に相談しましょう。
どうしても返済ができない場合、廃業や倒産を視野に入れるべきと解説しました。コロナ融資は基本的に経営者保証がついていないため、廃業・倒産により返済義務が消滅するためです。
しかしコロナ融資以外の債務について、経営者保証がついているものは経営者個人に返済義務が移る仕組みです。債務額によっては自己破産の必要が生じる恐れがあり、弁護士の力が必要になります。
ケースによっては廃業や倒産をせずとも、補助金の活用のような別の対処法を取れる可能性があります。どのような対処法を取れるかの判断を当事者がするのは難しいため、弁護士のような専門家のサポートを受けるのが良いでしょう。
コロナ融資について弁護士に相談すれば、別の対処法の可能性を含めた具体的なアドバイスを受けられます。自己破産のような法的手続きの必要が生じた場合も、スムーズに依頼できます。
現在の借入状況の把握
現在の借入状況の把握も大切です。
漠然と「コロナ融資の返済が難しい」「資金繰りが苦しい」と考えているだけの状態は、状況を正確に把握しているとはいえません。まずは完済の見込みが本当にないのか、返済がどれほど負担になっているのか等を知る必要があります。
コロナ融資について、最低限以下の内容を確認しましょう。
- 現在の借入残高
- 月々の返済額や利率
- 返済予定日
- 据置期間、返済期間
これらを正確に把握することで、完済の見込みを正しく判断できるようになります。
また、現在の借入状況を整理できるため、専門家や金融機関への相談時に要点を伝えやすくなります。
事業再構築補助金に申請する
事業再構築補助金とは、中小企業等の事業再構築の支援を目的とした補助金制度です。コロナの影響で厳しい状況にある中小企業者等を対象としています。
事業再構築補助金には複数の申請枠があり、それぞれ細かな要件が定められています。すべての申請枠に共通する必須要件は以下の2つです。
- 事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受ける
- 付加価値額を向上させる
補助金は融資と違い返済義務がなく、資金調達手段として有用な方法といえます。ただし以下の3点に注意が必要です。
- 申し込みが採択数や予算を超えた場合は審査が行われ、必ずしも受給できるわけではない
- 申し込みに際して必要な書類が多い
- 補助対象経費や事業の範囲が定められており、対象外とみなされた場合は採択取り消しになる恐れがある
まとめ
- コロナ融資の返済難に陥る企業が増えている
- コロナ融資は据置期間・返済期間の延長が可能。ただし金融機関との交渉が必要であり、必ずしも延長が認められるとは限らない
- 基本的に返済免除は不可能。債務が消滅するのは廃業や倒産といったイレギュラーなケースのみ
- コロナ融資の返済や返済猶予の交渉が難しい場合、別の対処法を取る必要がある
コロナ融資の返済難に関しては様々な対処法が存在します。それぞれの対処法についてメリットや注意点を把握し、自社で取れそうな方法を選ぶことが大切です。判断に迷った場合や疑問・不安がある場合は、専門家に相談し、自社に適した対処法についてアドバイスを受けましょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。