「経営者をやめたい」と思ったときに考えたい5つのポイント

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「経営者をやめたい」そんな思いを抱えていませんか?事業が思うように伸びない、体力の限界を感じる、事業に飽きてしまった…。こうした悩みを抱える経営者は決して少なくありません。

特に、後継者不在に頭を悩ませる中小企業の経営者にとって、この問題は非常に切実なものです。でも、経営から降りることは簡単ではありません。

事業をどうするのか、従業員の雇用はどうなるのか、様々な課題が山積みです。

本記事では、「経営者をやめたい」と思ったときに考えたい5つのポイントを詳しく解説します。

経営者をやめたくなる瞬間

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経営者が「もうやめたい」と思う瞬間は、人それぞれ異なります。よくある理由をいくつか挙げてみましょう。

①事業が思ったように伸びない

売上が伸び悩み、利益が出ない。新しい顧客が獲得できない。こうした状況が続くと、「自分には経営者の才能がないのでは」と自信を失ってしまうこともあるでしょう。特に、同業他社が順調に成長している様子を見ると、焦りや疑心暗鬼に駆られるものです。「このまま事業を続けていいのだろうか」そんな不安が頭をよぎります。

②体力の限界を感じている

経営者は、常に決断を迫られます。販路拡大のための投資をするか、新事業に乗り出すか、赤字事業から撤退するか…。その判断の連続に、心身ともに疲弊してしまうこともあります。朝起きるのが辛い、会社に出るのが憂鬱だ、そんな日が続くようでは、経営者としてのモチベーションを維持するのは困難です。

③事業に飽きてしまった

長年同じ事業を続けていると、「もう新しいことがしたい」という思いが芽生えることもあるでしょう。若い頃は情熱を注いでいた事業も、時間の経過とともに、ルーティンワークのように感じられるようになります。新しいチャレンジへの渇望が、経営者をやめたい一因になることも少なくありません。

④社内の人間関係がストレス

社員との意見の食い違いや、コミュニケーション不足から生まれるストレスは、経営者の大きな悩みの一つです。部下をうまく育成できない、社員の士気が上がらない、といった問題を抱えていると、自分の経営者としての資質を疑ってしまいます。社内の人間関係の改善に努めても、なかなか成果が出ない。そんな状況が続くと、「自分には経営者は向いていないのでは」と思い悩むこともあるでしょう。

⑤取引先との人間関係がストレス

取引先との交渉事や、トラブル対応に疲れてしまうこともあります。値下げ要求や、無理な納期の押し付けなど、経営者は様々な要求にさらされます。時には、取引先の担当者との人間関係に悩まされることもあるでしょう。「もう取引先と顔を合わせたくない」そんな心境になることもあります。

⑥メンタル不調

常に高いストレスにさらされる経営者は、メンタル不調に陥るリスクが高いと言えます。不眠や食欲不振、気分の落ち込みなど、心の健康に警鐘を鳴らすサインが現れることもあります。自分の感情をコントロールできない、判断力が鈍ってきたと感じたら、それは危険信号かもしれません。メンタルヘルスの問題は、経営者をやめたいと思う大きな理由の一つと言えるでしょう。

⑦責任・重圧

経営者は、常に会社の将来を決断しなければなりません。従業員の雇用、取引先との関係、株主への責任…。その全てが経営者の肩にかかっています。

常に正しい判断を求められる重圧に、耐えられなくなることもあるでしょう。「もう決断したくない」「この責任から逃れたい」そんな思いが、経営者をやめたい気持ちを後押しすることもあります。

このように、経営者が「やめたい」と思う理由は実に様々です。でも、安易に経営から降りるわけにはいきません。会社の行く末、従業員の雇用、自分の人生設計…。慎重に考えなければならない問題が山積みです。次に、経営者をやめるための選択肢を詳しく見ていきましょう。

経営者をやめたい時のアクションは3つ

経営者をやめたいと思ったとき、主に3つの選択肢があります。それぞれのメリット・デメリットを詳しく見ていきましょう。

①そのまま続ける

まずは、現状のまま経営を続けるという選択肢です。「やめたい」と思っても、すぐに行動に移せないこともあるでしょう。事業に対する責任感や、従業員への情愛から、経営を続けることを選ぶ経営者も少なくありません。

メリット

    • 事業を継続できる:事業をやめずに済むので、会社の存続が可能です。ブランドや顧客基盤を維持できます。
    • 従業員の雇用を守れる:事業を続ける限り、従業員の雇用を守ることができます。従業員とその家族の生活を守れます。
    • 取引先との関係を維持できる:事業を続けることで、取引先との関係を維持できます。安定した取引を続けられます。

デメリット

    • 経営者のストレスがさらに高まる可能性がある:「やめたい」と思っているのに経営を続けることで、ストレスがさらに高まる恐れがあります。心身の健康を損なうリスクもあります。
    • 事業の先行きが不透明である:事業に対するモチベーションが低下している状態で経営を続けても、事業の成長は望めないかもしれません。先行きが不透明な状態が続く可能性があります。

②廃業・清算

事業をやめて、会社を清算するという選択肢もあります。会社を整理して、経営者としての責任から解放されるという道です。

メリット

    • 経営者としての責任から解放される:会社を清算することで、経営者としての責任から解放されます。ストレスから解放され、新しい人生を始められます。
    • 新しいことにチャレンジできる:会社を清算して、時間的・精神的な余裕ができれば、新しいことにチャレンジするチャンスです。新しい事業を始めたり、趣味に没頭したりと、様々な可能性が広がります。

デメリット

    • 従業員の雇用が失われる:会社を清算すれば、従業員は職を失います。長年連れ添った仲間を路頭に迷わせることになるでしょう。
    • 取引先に迷惑をかける:会社を清算することは、取引先にも大きな迷惑をかけることになります。代替の取引先を探すのに苦労するかもしれません。
    • 清算の手続きが煩雑である:会社の清算には、様々な手続きが必要です。債権者への支払い、残余財産の分配、税務処理など、煩雑な事務作業を行わなければなりません。

③会社や事業を売る(M&A)

会社や事業を他社に売却するという選択肢もあります。いわゆるM&A(合併・買収)です。事業の存続と、自身の経営者としての責任の解放を同時に実現できる可能性があります。

メリット

    • 事業を存続させられる可能性がある:会社や事業を売却することで、事業を存続させられる可能性があります。ブランドや顧客基盤を引き継ぐことができます。
    • 従業員の雇用を守れる可能性がある:事業が存続する限り、従業員の雇用を守れる可能性があります。新しい経営体制の下で、従業員が活躍できる場を提供できるかもしれません。
    • 売却益を得られる可能性がある:会社や事業を売却することで、売却益を得られる可能性があります。その資金を新しい事業や投資に活用できます。

デメリット

    • 買い手を見つけるのが難しいことがある:会社や事業の売却先を見つけるのは容易ではありません。特に、業績不振の会社や、ニッチな事業の場合、買い手を見つけるのに苦労するかもしれません。
    • 思うような価格で売れないこともある:買い手市場では、思うような価格で会社や事業を売却できないこともあります。期待していた売却益を得られない可能性もあります。
    • 買収後の従業員の処遇が不透明である:買収後の従業員の処遇は、買い手企業の方針次第です。雇用が守られるという保証はありません。リストラの対象になることもあり得ます。

このように、それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがあります。どの道を選ぶにせよ、慎重な判断が求められます。自社の状況、業界の動向、自身の人生設計など、様々な角度から検討する必要があるでしょう。

経営者をやめたいと思った時の相談先

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経営者をやめるにあたっては、様々な準備が必要です。法的な手続き、税務処理、従業員への説明、取引先との交渉など、一人で対処するのは大変な労力を要します。そこで、専門家に相談することをおすすめします。経営者の悩みに寄り添い、適切なアドバイスをしてくれる相談先を紹介しましょう。

①よろず支援拠点

様々な経営課題に関する相談に対応するワンストップ相談窓口として、中小企業庁が各都道府県に「よろず支援拠点」を設置しています。経営全般の相談に乗ってもらえるだけでなく、専門家の派遣や、セミナーの開催など、様々な支援を受けられます。経営者をやめたいと考えている方も、まずはよろず支援拠点に相談してみるのが良いでしょう。

②商工会議所や都道府県商工会連合会

商工会議所や都道府県商工会連合会では、「経営安定特別相談室」を設置し、中小企業の経営相談に応じています。弁護士や税理士など、各分野の専門家が、法的手続きや税務処理に関するアドバイスを行っています。事業の継続や廃業の手続きなど、経営者をやめる際の実務的な相談に乗ってもらえます。

③事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターは、中小企業の事業承継や事業引継ぎをサポートする機関です。M&Aや経営資源引継ぎの可能性を探るほか、これらが困難と見込まれる場合には廃業についての相談対応も行っています。後継者不在で事業の存続に悩む経営者は、事業承継・引継ぎ支援センターに相談することをおすすめします。

④弁護士

法律の専門家である弁護士は、事業の整理や契約関連の手続きに強いです。会社の清算手続きや、事業の譲渡契約の作成など、法的な側面からサポートしてもらえます。また、経営者個人の資産保全についてもアドバイスがもらえるでしょう。弁護士選びのポイントは、中小企業の経営支援の実績があるかどうかです。経営者の立場に立って、適切な助言をしてくれる弁護士を探しましょう。

⑤行政書士

行政書士は、各種の許認可申請や手続きのサポートを行う専門家です。廃業の手続きや、事業の譲渡に関する書類の作成など、行政手続きに関する支援を受けられます。事業の譲渡先を探す際の秘密保持契約の作成など、M&Aに関連する書類の作成を依頼することもできるでしょう。行政書士を選ぶ際は、中小企業支援の経験が豊富かどうかがポイントです。

⑥中小企業診断士

中小企業診断士は、経営コンサルタントとして、事業の評価や改善提案を行う専門家です。経営者をやめる前に、自社の事業の現状を分析してもらうのも一つの方法です。強みや弱み、事業の将来性などを冷静に評価してもらうことで、経営者としての判断の材料が得られるかもしれません。また、事業の譲渡先を探す際にも、中小企業診断士の知見が役立つでしょう。

⑦税理士

税理士は、税務のスペシャリストです。事業の譲渡や廃業に伴う税務処理は非常に複雑です。適切な税務処理を行わないと、後でトラブルに巻き込まれる恐れがあります。税理士に相談することで、税務リスクを最小限に抑えることができるでしょう。また、経営者個人の相続対策や資産管理についてもアドバイスがもらえます。

⑧金融機関

日頃から取引のある金融機関は、事業の状況をよく知っています。経営者をやめる際の資金繰りについて相談に乗ってもらえるでしょう。事業の譲渡先を探す際にも、金融機関の network を活用できる可能性があります。ただし、金融機関としては、融資金の回収が最優先の課題です。経営者の立場に立ったアドバイスが得られるとは限りません。

⑨M&A仲介会社などの専門家

事業の譲渡先を探す際は、M&A仲介会社などの専門家に依頼するのも一つの方法です。M&A仲介会社は、買い手企業の開拓から、譲渡価格の交渉、契約書の作成まで、一連のM&Aプロセスをサポートしてくれます。ただし、仲介手数料がかかるため、コストと効果を見極める必要があります。また、仲介会社の選定も重要です。自社の事業内容を理解し、適切な買い手を探してくれる仲介会社を選びましょう。

⑩独立行政法人中小企業基盤整備機構

独立行政法人中小企業基盤整備機構は、中小企業支援を行う政府系の機関です。経営相談や、事業引継ぎのマッチング支援など、様々な支援メニューを用意しています。特に、「中小企業事業引継ぎ支援事業」では、後継者不在の中小企業と、事業を引き継ぎたい企業とのマッチングを行っています。費用負担も少なく、安心して相談できる先の一つと言えるでしょう。

このように、経営者をやめる際には、様々な専門家に相談することができます。一人で抱え込まず、適切な支援を受けることが大切です。自分一人では気づかなかった解決策が見つかるかもしれません。また、専門家に相談することで、経営者としての責任を果たす方法も見えてくるでしょう。

まとめ

「経営者をやめたい」と思うことは、決して恥ずかしいことではありません。事業が思うように伸びない、体力の限界を感じる、事業に飽きてしまった…。こうした悩みを抱える経営者は決して少なくないのです。大切なのは、一人で抱え込まないことです。周囲の支援を求め、適切なアドバイスを受けることが重要です。

そのまま経営を続けるか、事業を譲渡するか、廃業するか。選択肢はいくつかあります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、慎重に判断することが求められます。自社の状況、業界の動向、自身の人生設計など、様々な角度から検討しましょう。

その際は、専門家に相談するのがおすすめです。弁護士や税理士、M&A仲介会社など、様々な専門家が経営者をサポートしてくれます。一人で問題を抱え込むのではなく、専門家の知見を借りることが賢明です。

「経営者をやめたい」と思ったときは、まずは一歩踏み出して、相談することから始めてみませんか。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。