M&Aの準備について解説!スムーズに進めるための必要書類や期間など

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M&Aは、企業の成長戦略の一つです。M&Aを成功に導くためには、事前の準備が鍵を握るといっても過言ではありません。本記事では、必要書類や期間をはじめ、スムーズな進行に欠かせないポイントを紹介しますので是非参考にしてください。

目次

M&Aの準備は身の回りからスタート

M&Aの準備について、まずは以下の流れで準備しましょう。

    1. M&Aの理由や背景を整理する
    2. M&Aについて知識を習得する
    3. M&Aに必要書類を確認しておく
    4. スケジュールの設定
    5. 事業の業績調整・取引先の整理

M&Aの事前準備1:M&Aの理由や背景を整理する

M&Aを検討する際、まずはM&Aの理由や背景を明確にすることが重要です。成長加速や新市場への進出、コスト削減、または経営資源の効率化など目的は多岐にわたります。

これらの理由を整理し、明確化することでM&Aの方向性が定まり、成功に向けた第一歩を踏み出せます。この過程では自社の強みと弱み、市場環境の分析も含め、戦略的な視点からの検討が不可欠です。

M&Aの事前準備2:M&Aについて知識を習得する

M&Aの準備の次のステップは、基礎から応用までM&Aについての知識を習得することです。M&Aのプロセスや市場の動向、法律、税制、評価方法、交渉のテクニックなど多岐にわたる知識が必要となります。

専門書の閲覧やセミナーへの参加、アドバイザーとの相談などを通じて、M&Aプロセス全般にわたる知識を深めることが重要です。これらの知識を身につけることで、M&Aの成功に向けた戦略を立て、適切な判断を下すことが可能になります。

M&Aの事前準備3:M&Aに必要書類を確認しておく

M&Aをスムーズに進行させるためには、事前に必要となる書類の準備が重要です。財務諸表や契約書類、企業登記簿謄本など、交渉や評価の過程で必要となるさまざまな書類を確認し、整理しておく必要があります。

また、従業員のリストや資産の明細、特許や商標などの知的財産権の記録も欠かせません。これらの書類は、M&Aの価値評価やデューデリジェンス(買収対象の調査)の基礎となります。事前に準備を進めておくことで、スムーズな取引を実現します。

M&Aの事前準備4:スケジュールの設定

M&Aの成功には、適切なスケジュール設定が不可欠です。M&Aのプロセスは複雑で、事前準備から実施・統合完了までには半年から1年程度かかることが一般的です。しかし、M&Aの案件や規模によっては1か月という短期間で終わる案件もあります。スケジュールを適切に管理することで、M&Aを成功へと導けます。

デューデリジェンスや契約交渉、クロージングまでの各フェーズを丁寧に計画し、期間を見積もることで、スケジュール全体の見通しを明確にします。とくに、デューデリジェンスの期間は、事業の規模や複雑さに応じて変動するため、柔軟なスケジュール調整が必要になることもあります。

M&Aの事前準備5:事業の業績調整・取引先の整理

M&Aの前段階での事業の業績調整と取引先の整理は、非常に重要です。業績を安定させ、成長軌道に乗せることで、買収価格の向上や交渉力の強化につながります。また、不採算部門の見直しや主要取引先との関係強化を行うことで、事業の魅力を高められます。

取引先の整理ではリスクの高い取引を減らし、安定した収益基盤を築くことが求められます。これらの準備を進めることで、M&Aにおいてよりよい条件を引き出し、成功に導きましょう。

M&Aに必要な準備

M&Aを行う際に必要な準備には、以下のものがあります。

    • 財務情報・ビジネス情報の整理
    • 労務管理の整理
    • 契約書の整理
    • 必要な書類を準備

M&Aに必要な準備1:財務情報・ビジネス情報の整理

M&Aを行うには財務諸表や税務記録、資産リストなどの財務情報と、事業計画や市場分析、競合情報などのビジネス情報を明確にし、整備することが求められます。これらの情報は、デューデリジェンスの基礎となり、買収側に対して企業価値を正確に伝えるために重要です。

また、情報の透明性と正確性は信頼関係の構築にも寄与し、スムーズなM&A交渉につながります。事前にこれらの情報を整理し、M&Aの準備を進めましょう。

M&Aに必要な準備2:労務管理の整理

従業員名簿や労働契約、給与明細、社会保険の手続き記録など、従業員に関わるすべての文書を最新の状態で適切に管理しましょう。また、過去の労働紛争や現在進行中の労務問題がないかを確認し、必要に応じて解決策を準備することも大切です。

これらの情報は、デューデリジェンスの過程で重要視されます。労務管理の適正さが企業価値に直接影響を及ぼすため、正確な整理と管理が求められます。しっかりと労務管理を整理することで、M&Aの際の信頼性を高めることにつながります。

M&Aに必要な準備3:契約書の整理

M&Aの準備段階での契約書の整理は不可欠です。重要な取引関係を示す契約書や業務委託契約、租借契約、非開示契約など、企業活動に関わるすべての契約書を集め、最新の状態に更新しておきましょう。

これには有効期限や更新条件、解約条件など、契約の具体的な条項も含まれます。これらの文書を整理し、アクセス可能な状態に保つことで、デューデリジェンスの過程での質問に迅速に対応できます。また契約上のリスクを事前に把握し、対策を講じることが可能になります。

M&Aに必要な準備4:必要な書類を準備

M&Aに必要な書類として、以下のものが挙げられます。

    • 秘密保持契約書
    • アドバイザリー契約書
    • 基本合意書
    • 株式譲渡契約書

秘密保持契約書

M&Aの初期段階で極めて重要なのが、秘密保持契約書(NDA)の締結です。この契約書により、交渉中の両当事者間で共有される機密情報の保護が確約されます。企業評価やデューデリジェンスの過程で交換される財務データやビジネスプラン、技術情報などが漏洩するリスクを防ぎます。

また買手企業の立場からみても、売手企業に対して十分に秘密開示をするよう求められるため、思わぬトラブルを防ぐことにつながります。秘密保持契約書の締結は、信頼関係の構築にも寄与し、安心して情報を共有できる土台となります。

アドバイザリー契約書

M&Aを進める際、専門的な知識と経験を持つアドバイザーのサポートが不可欠です。このため、アドバイザリー契約書はM&Aにおける重要書類の一つに数えられます。

この契約書にはアドバイザリーの役割や責任範囲、報酬の条件、契約期間、秘密保持義務などが明記されています。アドバイザリー契約書にもとづき、M&Aの各フェーズでの専門家の支援を確実に受けられ、効率的かつ効果的に進行することが可能になります。

基本合意書

基本合意書は、M&Aの進行に向けた初期の合意を固めるために用いられます。基本的な方針を合意するために用いられ、取引の目的や対象資産、評価方法、期限など、重要な取り決めが含まれています。後の詳細な交渉、デューデリジェンスの基盤となります。

あくまで最終契約の締結に向けた書面であり、この段階ではまだ法的な拘束力はありませんが、明確な合意形成は取引の透明性を確保し、当事者間の信頼関係構築に貢献します。

株式譲渡契約書

株式譲渡契約書には、株式の譲渡条件や譲渡価格、支払い方法、実行日など、譲渡に関わる具体的な条件が記載されます。また、保証や表明、責任の範囲に関する条項も含まれ、双方のリスクを最小限に抑えるための取り決めが詳細に定められています。

M&Aが円滑に進行するための基盤となり、後日発生するかもしれない紛争の防止にもつながります。この段階で専門家のアドバイスを取り入れることが多いです。

M&Aの準備後の手続き・流れ

M&Aの準備後、具体的な手続きと流れは以下のとおりです。

デューデリジェンス
買収対象企業の財務、法務、ビジネスなどを詳細に調査し、リスクを評価します。
契約書の作成と交渉
双方が合意に達した条件をもとに、契約書を作成し、詳細な交渉を行います。
契約の締結
条件に合意し、契約書に署名します。
クロージング
契約条件に基づき、資金の移動や資産の譲渡を行い、M&Aを完了します。
統合プロセス
M&A後は、事業の統合プロセスを進め、相乗効果の実現を目指します。

この一連の流れは計画的に進められ、各ステップで必要な書類や手続きが求められます。

M&Aの準備にかかる期間は?

M&Aの準備にかかる期間は、プロジェクトの規模や複雑性により大きく異なります。一般的には、数か月から1年以上かかることが多いです。初期段階の市場調査やターゲット選定から始まり、秘密保持契約、基本合意締結、デューデリジェンス、条件交渉、クロージングまでの各ステップにおいて綿密な計画、実行が求められます。

とくに、デューデリジェンスは情報収集と分析に時間を要するため、M&A全体のタイムテーブルに大きく影響します。スムーズな進行を目指すためにも、初期段階での丁寧な準備とアドバイザーの選定が重要になります。

秘密保持契約〜基本合意締結まで

秘密保持契約の締結から基本合意の締結までの期間は、プロジェクトの規模や複雑さにより異なりますが、通常数週間から数か月を要することが一般的です。

秘密保持契約は、両社間での情報交換を始める前の初期段階で締結され、その後詳細な交渉を経て、基本合意に至ります。この期間は、慎重な情報収集と分析、両者の要求や条件の調整が行われる重要なフェーズであり、スムーズなM&A実施のために十分な時間を確保することが重要です。

秘密保持契約

秘密保持契約(NDA)を結ぶタイミングは、事業に関する機密情報を交換し始める前、すなわち具体的な交渉や詳細な情報の共有が行われる前です。このタイミングで契約を締結することにより、双方の企業は安心してビジネス上の話し合いを進められます。

NDAは財務状況や技術データ、ビジネス戦略など、交渉過程で共有される可能性のあるあらゆる機密情報の安全を確保するために不可欠です。したがって、初期の意見交換や予備的なディスカッションの段階で早急に結ぶべきといえます。

基礎情報開示・事前交渉

基礎情報の開示と事前交渉のタイミングは、秘密保持契約が締結された直後です。このフェーズでは、企業が互いに基本的な財務情報や事業概要、市場状況などを共有し、M&Aの可能性を探るための初歩的な話し合いを行います。

具体的なビジネスの価値評価や交渉に進む前の重要なステップであり、双方の意向が一致すれば、より詳細なデューデリジェンスや本格的な契約交渉に進みます。この段階での情報交換は、M&Aの方向性を決定づけるため、迅速かつ慎重に進める必要があります。

基本合意締結

一般的に6か月から1年程度とされるM&Aの流れの中で、基本合意の締結はプロセスの中盤に位置します。具体的には、買手候補との詳細な説明や意向表明書の提出、トップ面談を経て、基本条件の交渉が行われ、その結果として基本合意書が締結されます。

この一連の流れには、通常、数か月を要することが多いですが、個々のケースにより期間は前後することがあります。

デューデリジェンス

デューデリジェンスは、買い手が売り手のビジネスを詳細に調査する段階で、基本合意書が締結されたあとに行われます。デューデリジェンスには、法務デューデリジェンスと財務デューデリジェンスがあります。

法務デューデリジェンスは、対象企業や対象事業法的リスクを評価し、取引の成功と安定性を確保するための情報を収集・分析することです。財務デューデリジェンスは、企業価値や買収額など、M&A実行に関する意思決定を行うための情報を入手することで、買収対象企業や買取対象事業の財務状況や資金状況、経営者の経営状況などを調査します。

法務デューデリジェンス

法務デューデリジェンスのタイミングは、基本合意書締結後、具体的な取引条件の詰めの前です。このフェーズでは、買収対象企業や買取対象事業の取引契約、訴訟関係、許認可などを調査し法的な側面でリスクを洗い出し、取引の安全性を確保するために重要な情報が集められます。

法務デューデリジェンスを実施することで、契約違反や未解決の訴訟、知的財産権の問題など、取引に影響を与える可能性のある法的問題を事前に特定し、対策を講じられます。法務デューデリジェンスは独占交渉期間中に行われ、通常1~2か月を要します。

財務デューデリジェンス

財務デューデリジェンスは、基本合意書の締結後、法務デューデリジェンスと並行、またはその直後に行われます。その目的は、買収対象企業や買収対象事業の財務状態、収益性、決算書に記載されていない簿外債務の有無、負債状況、資産の実在性とその評価、税務リスクなどを詳細に調査し、買収後のリスクを最小限に抑えることです。

財務デューデリジェンスは、取引価格の最終決定に直接影響を与えます。そのため非常に重要なプロセスで、通常数週間から2か月ほどの期間がかかります。

M&A条件交渉〜クロージング

M&Aの最終段階である条件交渉から、クロージングまでのタイミングを説明します。この段階では、下記の流れでクロージングまで進みます。

    1. 条件交渉

譲渡価額や従業員の雇用の継続などの諸条件、また譲渡時期を交渉します。

    1. 最終契約締結

M&Aに関する当事者間の最終的な合意事項を定めたもっとも重要な契約を締結します。

    1. クロージング

最終契約締結のあと、M&Aでの経営権の移転を完了させる最終的な手続きを行います。

条件交渉

条件交渉は、デューデリジェンスが一通り完了したあと、具体的な取引の詳細に関して合意を目指す段階で行われます。このフェーズでは、買収価格や支払条件、引渡し時期、保証・担保条件など、取引の主要な条項について詳細な交渉が行われます。

そして、財務デューデリジェンスの結果を踏まえ、買収対象企業の評価を再確認し、双方にとって受け入れ可能な条件を模索します。条件交渉はプロセス全体の中でもっとも時間を要する可能性があり、数週間から数か月に及ぶことも珍しくありません。

最終契約締結

最終契約締結は条件交渉が終了し、両当事者間で合意が形成されたあとに行われます。この段階では、買収に関するすべての条項と条件が最終的な契約文書に反映され、正式な署名が行われます。

最終契約の締結は、M&Aプロセスの最後の法的手続きの一つであり、この時点で取引が正式に成立します。一般的には、数か月から1年程度を要することが多いです。最終契約の締結に至るまでには、両方の当事者が契約内容に完全に同意する必要があります。

クロージング

最終契約の締結後、クロージングが行われます。合意された条件にもとづいて取引が実際に完了し、所有権の移転、支払いの処理などが行われます。クロージングは、すべての必要な手続きが完了し、最終的な文書が署名された後に行われるM&Aプロセスの最終段階です。

通常、最終契約締結からクロージングまでの期間は、数日から数か月程度ですが、複雑な取引の場合はより長くなることもあります。

M&Aの期間が短くなる・長くなる要因

M&Aの期間は、通常6か月~1年です。しかし、その期間は売買の規模や事業内容、交渉の進行具合などにより変動します。ここからはM&Aが短期間でスムーズに進む要因と、逆に期間が長くなってしまう要因を解説します。

M&Aの期間が短くなる要因

M&Aの期間が短くなる要因には、明確な目的と戦略の存在、当事者間の強い合意意志、事前準備の徹底、関連情報の迅速な共有と透明性、専門家チームの有効活用などがあります。とくに、双方が事前に詳細なデューデリジェンスを実施し、交渉中の迅速な意思決定が可能な場合は大幅に加速されます。

また、法的規制や承認手続きがスムーズに進行することも、期間短縮につながります。これらの要素が揃うことで、M&Aは効率的に進行し、期間を大幅に短縮することが可能になります。

M&Aの期間が長くなる要因

M&Aの期間が長くなる要因はいくつかあります。まず、売手企業の規模が大きい場合、その複雑性から期間が長引くことがあります。また、未解決の法的問題や財務上の問題の発見とその解決も長引く一因とされています。

さらに、特定の業界や事業で必要な許認可の新規取得や契約の承継が必要な場合も、M&Aの期間を延ばす要因のひとつです。これらの要因を考慮に入れ、M&Aの準備には平均で約9か月、6か月~1年程度の期間を見込むことが一般的です。

まとめ

M&Aをスムーズに進めるには、事前準備から始まり、必要な書類の整理やデューデリジェンス、条件交渉、最終契約締結、クロージングなど、各フェーズにおいて正確で丁寧な進行が必須です。いたずらにスピーディに進めるのではなく、ひとつ一つを確実にこなしていきましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。