事業承継時に起こり得るトラブルは?|具体例や対策方法などを紹介
事業承継をする際には、さまざまなトラブルが発生する恐れがあります。
中小企業を対象としたアンケートでは、約80%の企業が後継者問題に悩んでいることがわかります。
他にも、事業承継時に株式を引き継ぐ費用が足りなかったり、相続争いが発生して悩んでいる企業も多いです。
本記事では事業承継を行う際に起こりうるトラブルの具体例や対策方法について、ケースに分けて紹介するので参考にしてください。
事業承継に悩んでいる企業の現状
2023年度の「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」によると、会社の存続を考えている中小企業の約20%は後継者が決まっておらず、そのうち約57%は自分の代で事業をやめようと考えています。
2019年度の調査では、会社の存在を考えている中小企業の22%が後継者問題に悩んでおり、多くの企業が抱えている問題となっています。
調査に回答した経営者の方々が、事業承継時にトラブルが起こりそうと考えているポイントには以下のようなものがありました。
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- 後継者の経営能力
- 相続税、贈与税の問題
- 取引先との関係維持
- 技術・ノウハウの承継
- 株式や事業用資産の買い取り
このように、複数のトラブルが発生するかもと考えており、後継者が決まっている企業でも約7割は不安を抱えているようです。
事業承継の現状について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
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後継者に関するトラブル
後継者に関しては、次のようなトラブルが起こりやすいです。
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- 組織風土や文化を十分に伝えきれなかった
- 適切な後継者に事業継承できず経営悪化してしまった
- 子どもに事業承継を拒否された
3つのトラブルに関して詳しく紹介しますので、事業承継時に問題が起きないように参考にしてください。
組織風土や文化を十分に伝えきれなかった
組織風土や文化が後継者に伝えきれていない場合、ブランドの方向性が固まらなかったり、従業員との関係性が構築できなかったりする恐れがあります。
たとえば、後継者を連れて社外へのあいさつや自社株の対応のみに優先した結果、組織風土や文化を後継者に伝えきれないことがあります。
組織風土や文化を満足に伝えられていない場合、後継者は自社にあった判断軸を十分に理解できず、経営者として正しい判断ができなくなる恐れがあるので注意しましょう。
また、事業の肝となる判断基準が理解できいないと、手探りの経営を行わなければならず、経営不振に陥ってしまうことも考えられます。
組織風土や文化を伝えることは事業承継時の重要な業務なので、後回しにせず時間をかけて行い経営不振を回避しましょう。
適切な後継者に事業継承できず経営悪化してしまった
後継者選びを間違えてしまうと、会社の根幹となる考えを伝えられない場合、社歴が長い方や幹部候補が退社し、経営が悪化する恐れがあります。
社内に適任の従業員がいない場合、後継者がなかなか決まらず、焦ってしまう方もいるでしょう。
引退前から後継者探しをしていても、見つからずに妥協で選んでしまうと能力が足りず、現場を無視した判断をし、経営悪化や人材流出といった問題が起こる可能性があります。
たとえば、急逝した場合には、満足な準備ができていないにもかかわらず代替わりを行わなければなりません。
急いで事業承継を行うケースも想定し、探すだけでなく常に後継者候補をリストアップし、育てていくという選択も必要です。
最近では転職を繰り返すことが当たり前になっているため、後継者が見つかりにくくなっていることを理解し、早い段階から代替わりの準備をしておきましょう。
子どもに事業承継を拒否された
子どもに事業承継をしようと考えている場合、拒否されてしまうことによって後継者がいなくなってしまうこともあります。
後継者探しをせずに子どもに事業承継しようと考えていても、受け入れてくれるとは限りません。
事業承継には5~10年かかるので、子どもに継がせたい場合は、引退を考え始めた頃から徐々に継いでほしいという意志を伝え、説得をしましょう。
現在、親族承継を考えているのであれば、代替わり後の経営についても考え、後継者に負担を残さないようにしましょう。
先代経営者によるトラブル
後継者が問題なく見つかったとしても、次のような先代経営者によるトラブルが発生する可能性もあります。
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- 先代経営者が実権を握ってしまい後継者が信頼を得られなかった
- 相続争いが発生してスムーズな事業承継ができなかった
2つのトラブルについて解説するので、事業承継時に思わぬところで支障がでないように参考にしてください。
先代経営者が実権を握ってしまい後継者が信頼を得られなかった
後継者に事業承継をしたにもかかわらず、先代経営者が実権を握ってしまうケースがあります。
長く経営した企業への愛着があり、後継者や従業員に対して不安を感じ、口を出してしまう先代経営者もいるようです。
先代経営者が経営に口を出し、実権を握ってしまうと、後継者が従業員から信頼を得られずに経営がうまくできなくなる原因になります。
代替わりをした意味がなくなるだけでなく、後継者や従業員にストレスが溜まってしまい、人材流出のリスクにもなってしまいます。
トラブルの原因とならないように、代替わりをした際には後継者や従業員を信じて見守るようにしましょう。
相続争いが発生してスムーズな事業承継ができなかった
先代経営者が後継者を指名していない状態で急逝したり、後継者不在のまま引退したりした場合、相続争いが発生してスムーズな事業承継ができない可能性があります。
遺言をはじめとした方法で後継者を指名していれば、相続争いに発展する可能性は少ないでしょう。
しかし、後継者が指名されていない場合は従業員だけでなく親族も含めたトラブルに発展することもあるので注意が必要です。
高齢が原因で代替わりを検討している場合、相続争いが起こらないように、遺言の作成や後継者の指名などの準備をしておきましょう。
株式に関するトラブル
事業承継時には、株式に関するトラブルが発生する可能性があります。
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- 多額の費用が発生して事業の継続が困難になった
- 株式が分散して経営の意思決定に支障が出た
これら2つのトラブルの具体例について詳しく紹介します。
多額の費用が発生して事業の継続が困難になった
先代経営者が会社の株式を大量保有しており、株式譲渡による事業承継を行う場合、後継者は多額の費用が必要なケースがある点には注意しましょう。
事業承継時に自社株の評価額が高いと、高額になってしまい、後継者が支払えずに事業の引き継ぎができないといったトラブルに陥ることもあります。
費用を抑えるためには、株式を買い取るのではなく、相続や贈与といった手法を取ることも可能です。
ただし、相続すれば相続税が発生し、贈与すれば贈与税の支払いが必要となる点には注意が必要です。
株式の購入や税金の支払いに耐えられず、事業承継に失敗することがないように、あらかじめ資金を用意しておきましょう。
株式が分散して経営の意思決定に支障が出た
事業承継時に株式が分散することで、意思決定に支障が出る恐れがあることも理解しておきましょう。
社内から後継者を選んだものの、子どもにも一定数以上の株式を相続してしまうと、経営と無関係な親族が発言権を持ってしまうこともあるリスクもあります。
経営に影響がないかを意識し、均一ではなく後継者がもっとも株式を保有できるようにしましょう。
社内で起こるトラブル
事業承継時には、社内でも次のようなトラブルが発生する可能性があります。
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- 取引先が減り経営が悪化した
- 社員が納得せず社内の人間関係が悪化した
後継者に経営を任せてから社内のトラブルが発生しないように、対策をしましょう。
取引先が減り経営が悪化した
事業承継によって既存の取引先が離れてしまい、経営が悪化することがあります。
後継者に対して取引先との関係性や過去の取引内容などを引き継ぎをしていなかったり、事業承継後に経営方針が変化してしまったりすると取引先が離れてしまいます。
後継者のためにできるサポートは、事業承継前に取引先との関係性や過去の取引内容を説明し、あいさつ回りをするとよいでしょう。
後継者を紹介し、関係構築ができてから事業承継をすれば、取引先が離れてしまうリスクを最小限に抑えられます。
社員が納得せず社内の人間関係が悪化した
事業承継を行った場合、社員が後継者を認めず、人間関係が悪化したり人材が流出したりする恐れがあります。
従業員経験のない方が後継者となった場合、既存社員から受け入れられないだけでなく、反感を買ってしまうこともあるでしょう。
社内の人間関係が悪化すると会社としてのまとまりがなくなる、人材が流出してしまうなどの理由で経営不振に陥る可能性もあります。
事業承継でトラブルを防ぐ5つの防止策
事業承継で発生するトラブルを防ぐ方法には、次の5つがあります。
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- 事業承継を計画的に進める
- 時間をかけて後継者を選ぶ
- 後継者教育を前もって行う
- 事業承継税制の利用を検討する
- 相続争いの対策を行う
5つの防止策について詳しく紹介するので、事業承継後のトラブルを防ぎたい方は参考にしながら実践してください。
1.事業承継を計画的に進める
事業承継をトラブルなく進めるためには、細かく計画を練ってから行いましょう。
事業承継は1~2年程度でできるものではなく、5~10年といった長期スパンで時間をかけて進めるものです。
後継者に求める能力を洗い出し、いつまでに見つける、育てるといった事業承継計画書を作成するとスムーズに進められます。
また「いつまでに何をする」も明確にして、事業承継に向けてコツコツと準備していきましょう。
2.時間をかけて後継者を選ぶ
事業承継の重要なポイントは適切な後継者を選ぶことなので、妥協せずに時間をかけて行いましょう。
理想通りの後継者はなかなか見つからないので、時間が経つにつれて焦ってしまう方もいます。
しかし、時間がないからと妥協をして後継者を選ぶと、経営不振に陥る可能性があります。
後継者には、リーダーシップやマネジメント能力、コミュニケーション力などの能力に加え、会社のことや経営方針を理解できる能力が必要です。
妥協せずに時間をかけ、自分や後継者が納得できる人を選び、従業員との関係構築も行いましょう。
3.後継者教育を前もって行う
後継者の候補がいる場合には、時間をかけて教育しましょう。
たとえば子どもに承継したい場合、引退を意識し始めたタイミングで入社させ、5~10年かけて経営や事業について教えていくとよいでしょう。
通常業務や経営に関する考え方を教え、従業員とのコミュニケーションも増やしていくと徐々に後継者として育っていきます。
社内教育だけでなく、取引先に紹介し関係性を構築する社外教育も行うと、事業承継後のトラブルを減らせます。
4.事業承継税制の利用を検討する
事業承継には多額の資金が必要となるため、場合によっては事業承継税制の利用も検討しましょう。
事業承継税制を利用すると、事業承継にかかる税金の納税猶予や減免を受けられます。
事業承継税制には一般処置と特例措置があり、それぞれの対象や適用期間などは次の表の通りです。
一般措置 | 特例措置 | |
対象株式 | 発行済議決権株式総数の3分の2まで | 全株式 |
適用期間 | なし | 2027年12月31日まで |
納税猶予割合 | 贈与100% 相続80% | 贈与100% 相続100% |
後継者 | 筆頭株主の後継者1人のみ | 後継者3人まで |
このように、贈与税・相続税の負担が軽減できるので、利用したいと考える場合はぜひ調べてみてください。
5.相続争いの対策を行う
事業承継時に相続争いが起こると、経営悪化のトラブルに発展する恐れがあるので、あらかじめ対策をしておきましょう。
先代が急逝した場合をはじめ、急な代替わりを行う際のために、生前贈与や遺言書の作成がおすすめです。
生前贈与や遺言書を行っておけば、トラブルなく後継者を決められるので、相続争いが発生するリスクを抑えられます。
遺言には費用をかけずに手軽に作れる自筆証書遺言、公証人に作成してもらう公正証書遺言などがあるので、適切なものを選びましょう。
事業承継のトラブル対策は専門家に相談しよう
事業承継時には、後継者や株式譲渡をはじめ、さまざまな要因でトラブルに発展する恐れがあります。
自社で発生しそうなトラブルがある場合には、事業承継前にあらかじめ事業承継計画書の作成や後継者育成などの対策をしておきましょう。
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事業承継を行う際、さまざまなトラブルが発生し、代替わり後に経営が悪化する恐れがあります。
本記事ではケース別にトラブルを紹介し、対策方法を紹介していきます。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。