会社分割したら従業員はどうなる?労働契約や対応方法、注意点を紹介
会社分割を行う場合、従業員への対応をどうすればいいかわからない方もいるでしょう。
会社分割をする際には、さまざまな観点に留意しなければ、トラブルに発展してしまう可能性があります。
本記事では、会社分割の概要や従業員への通知方法、労働契約などを詳しく紹介するので、会社分割を検討している方は参考にしてください。
目次
会社分割とは
会社分割とは、企業が事業を切り出して新規会社を設立したり、他企業の事業を吸収して会社を設立したりすることを指します。
会社分割を行う手順は以下の通りです。
-
- 分割契約(吸収分割)・分割計画(新設分割)を作成する
- 株主総会の承認を得る
- 債権者への異議申述の公告・催告を行う
- 異議を述べた債権者への弁済・担保の提供する
- 分割の登記する
会社分割の際、分割された事業の従業員は同意なしでも分割事業の従業員となります。
勤めていた企業の雇用条件は再編先企業に移ってからも維持され、給与をはじめとした条件が改悪されることはありません。
会社分割に関して詳しく知りたい方は、下記の記事も参考にしてください。
関連記事:会社 分割
会社分割に伴う従業員の扱い
会社分割に伴う従業員の扱いを次の3つの観点から紹介します。
-
- 基本的に労働契約は承継される
- 会社分割で労働条件は変更できる場合もある
- 正当な理由がなければ解雇はできない
紹介する3つを理解せずに会社分割をすると、従業員とのトラブルに発展する恐れがあります。
基本的に労働契約は承継される
労働契約承継法3条では、会社分割後の労働契約に関して、分割される事業に従事し分割契約等がある従業員は、労働条件が引き継がれると定められています。
また、従業員を保護し、会社分割で必要となる手続きを会社に義務付ける法律である労働契約承継法があります。
ここでは、次の2つにわけて従業員がどのように守られているのかを詳しく紹介するので、参考にしてください。
-
- 労働契約承継法とは
- 主従事労働者とは
労働契約承継法とは
会社分割の際に、特定の従業員に対して労働契約をはじめとした複数項目にて、従業員に不利益が起きないように守る法律が労働契約承継法です。
分割される事業組織や労働契約で定められている権利・義務などの内容は、維持されていなければならないとされています。
事業規模の縮小や労働条件の変更を伴う会社分割を行う場合は、労働契約承継法の対象外です。
また、労働契約承継法7条では、会社分割の際に従業員全体の理解と協力を得るための努力義務を課しています。
関連する法である商法等改正法附則第5条1項では、分割事業が従業員の権利や労働契約を保護するために、個別に協議しなければならないと定めています。
主従事労働者とは
主従事労働者とは、分割契約や分割計画を締結した時点で、分割先事業で働いている従業員を指します。
主従事労働者に対する留意点は次の通りです。
-
- 複数事業を行っている場合、各事業で働く時間や役割を考慮して判断する
- 繫忙期の応援勤務で他の事業に勤務しているが、一定期間経過後に分割先事業に戻る場合は、主従事労働者となる
- 人事や経理などバックオフィス系でも、分割先事業で働いている者は主従事労働者になる
主従事労働者となるかは事業単位で決まるため、一定の判断基準を満たさない場合は主従事労働者にはなりません。
会社分割で労働条件は変更できる場合もある
会社分割で労働条件を変更する際の対応方法や従業員の権利などを次の2つにわけて紹介します。
-
- 会社分割によって労働条件を変更する場合の対応方法
- 労働者には異議の申し出の権利がある
会社分割をした際の対応方法を詳しく知りたい方は参考にしてください。
会社分割によって労働条件を変更する場合の対応方法
会社の分割後は、従業員の労働条件を統一しなければなりません。
会社分割を行った場合、人件費を抑えるタイミングとしてちょうどいいと考え、労働条件を変更したいと考える方もいるでしょう。
労働条件を変更する場合、従業員に相談せず、会社が勝手に労働条件を下げることはできません。
労働契約法9条によって従業員は守られているので、会社が勝手に変更すると違法行為となります。
変更する際には、原則として従業員全員の同意を得なければいけませんが、労働条件を引き下げることが正当である場合は、就業規則の変更や周知で変更できます。
労働者には異議の申し出の権利がある
労働契約承継法4条と5条によって、異議の申し出が可能な従業員が定められています。
分割される事業主として働いており、労働契約を引き継ぐと定められていない場合は、異議の申し出によって分割事業への異動が可能です。
分割される事業で働いていないが、分割契約等により労働契約を引き継ぐと定めがある方は、異議申し出によって分割事業に残留できます。
これらの規定は従業員を保護し、担当している事業から強制的に切り離すことを防ぐためのものです。
正当な理由がなければ解雇はできない
会社分割によって余剰人員が発生した場合、人員削減を検討する方もいますが、正当な理由がなければ解雇ができません。
労働契約法16条によって、解雇に相当する合理的な理由が必要とされており、会社が自由に従業員を解雇することはできません。
解雇に相当する理由には、次のようなものがあります。
-
- 行為の内容や回数
- 故意や過失の有無
- 会社が被った被害の程度
「会社分割で余剰人員が出た」は、解雇できる理由にはなりません。
企業は従業員を解雇をせず、配置転換や希望退職、退職勧奨を行うなど、解雇を回避するための努力が必要です。
会社分割時は従業員と労働組合へ通知を送る
会社分割時には、従業員と労働組合へ通知を送る必要があります。
ここでは、次の2つにわけて紹介するので参考にしてください。
-
- 従業員への通知
- 労働組合への通知
従業員への通知
従業員への通知に関して、以下の3点から紹介します。
-
- 通知対象
- 通知事項
- 通知日・通知期限日等
会社分割時にトラブルが発生しないように理解しておきましょう。
通知対象
会社分割をする際に通知のすべき対象は次の通りです。
-
- 承継される事業に主として従事する労働者
- 上記以外の労働者であって、承継会社などに承継される労働者
会社分割を行う日に分割される事業で働いている従業員全員が対象となるため、正社員だけでなくアルバイトや契約社員も対象となります。
通知事項
分割事業は通知対象に対して、定められた期日までに以下の通知事項を書面で通知しなければなりません。
|
引用:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要
会社分割により、従業員が不安を抱くことがないように、債務履行ができることを伝え、納得させることが重要です。
通知日・通知期限日等
従業員への通知は、通知日や通知期限日が定められており、株式会社と合同会社によって次のように異なっています。
株式会社 | 合同会社 | ||
株式総会が必要な場合 | 株式総会が不要な場合 | ||
通知日 | 以下のいずれか早い日と同じ日が望ましい。 ・ 分割契約等の内容その他法務省令で定 める事項を記載し、又は記録した書面又 は電磁的記録をその本店に備え置く日 ・ 株主総会招集通知を発する日 | 以下と同じ日が望ましい。 債権者の全部又は一部が会社分割について異議を述べることができる場合に、当該分割会社が、会社法に掲げられた事項を官報に公告し、又は知れている債権者に催告する日 | |
通知期限日 | 分割契約等を承認する株主総会の日の2週間前の日の前日 | 分割契約等が締結又は作成された日から起算して2週間を経過する日 | 分割契約等が締結又は作成された日から起算して2週間を経過する日 |
引用:会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)の概要
通知日や通知期限日は、分割時の状況や会社形態によって異なるので、理解したうえで対応しましょう。
労働組合への通知
会社分割時には、労働協約を締結している労働組合に対しても書面での通知が必要です。
労働組合へ通知すべき事象は次の通りです。
-
- 承継される事業の概要
- 会社分割後の分割会社と承継会社の商号、住所、事業内容及び雇用することを予定している労働者の数
- 分割の効力発生日
- 分割後の、分割会社、承継会社の債務の履行の見込みに関する事項
- 承継会社の従業員となる者の範囲、この範囲を示してもどの人か労働組合にとって明らかにならない場合には、承継会社の従業員となる者の氏名
- 承継会社が承継する労働協約の内容
通知の期限は従業員に対する通知と同じですが、内容は異なります。
会社分割時に従業員を転籍・出向する際の注意点
会社分割のタイミングで従業員を転籍や出向する際には、いくつか注意をしなくてはいけません。
会社分割の際に、従業員を分割対象にせず、個別に同意を得てから転籍させる転籍合意という手法がありますが、転籍合意によって分割事業へ転籍させる場合でも従業員や労働組合への通知と手続きを省けない点には注意が必要です。
転籍合意をしたとしても、労働条件が維持されない、異議の申し出ができない場合には効力を発揮しません。
転籍と同じく、労働契約を締結し出向させる場合でも、通知や手続きを省くことはできません。
会社分割における労働契約に関する留意点
分割分割における労働契約に関する留意点には、次の3点があります。
-
- アルバイトや嘱託社員の扱い
- 有給休暇の日数や退職金の取扱い
- 福利厚生の取扱い
労働契約でトラブルが発生しないように理解しておきましょう。
アルバイトや嘱託社員の扱い
会社分割に関する通知は、分割された事業で雇用するすべての労働者が対象です。
正社員に限らず、アルバイトや嘱託社員、契約社員など、雇用形態を問わず対象となります。
労働契約に関する点だけでなく、全社員が同等に扱われるため、労働契約の承継における協議・通知・異議申出も同じ扱いです。
有給休暇の日数や退職金の取扱い
会社分割では、労働契約がすべて引き継がれるため、有給や勤続年数は分割前から変更せずに残す必要があります。
会社分割が行われても、従業員と事業主の間には権利義務関係があるので、勤続年数も引き継がなければなりません。
分割によって、2つの社内制度が存在している場合、統一したいという考えもあるでしょう。
条件や制度がよい方に合わせるのであれば問題ありませんが、不利益を被る方がいる条件に統一をする場合には、労使間の合意を得なければなりません。
福利厚生の取扱い
会社分割を行う場合、福利厚生はそのまま分割事業でも引き継がれなければなりません。
労働条件ではなく、会社が用意し提供しているもの、会社規模から運用が難しい制度があり、変更せざるを得ない場合もあります。
分割事業でも運用することが困難な場合は、従業員との協議を行い、十分な説明をしながら代替措置の検討をしましょう。
会社分割時の従業員対応に困ったら専門家に相談しよう
会社分割時には、従業員の労働契約が承継され、不利益な変更ができません。
会社分割を行う際には、従業員や労働組合に対して通知を送る必要があり、正社員以外も対象となります。
会社分割時の従業員対応に困っている方やM&Aを検討している方は、当社が運営する「TSUNAGU」にご連絡ください。
戦略立案や適切なパートナーの選定、法務・税務アドバイスなどを無料で実施しているので、お気軽にご相談ください。
Description
会社分割をする際には、従業員への対応方法も理解しておく必要があります。本記事では、労働契約承継法や従業員への通知方法、注意点などを詳しく紹介します。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。