M&Aにおける買手・売手の目的|目的を達成した成功事例も紹介

M&Aを実施するうえで、漠然としたイメージで進めるのではなく、目的を明確にすることが大切です。

M&Aの目的は買手・売手それぞれで異なり、多岐にわたります。譲受企業・譲渡企業それぞれの状況や狙いによって変わるため、目的の設定は重要です。

本記事では、M&Aにおける目的を買手・売手に分けて詳しく解説します。当初の目的を達成したM&A事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

M&Aを検討するうえで、目的以外にもメリット・デメリットや手順などの全体像を知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。

内部リンク:M&A

M&Aにおける買手・譲受企業の主な目的

M&Aの目的は、取り組む企業によってさまざまです。買手・譲受企業と売手・譲渡企業で目的が異なるため、M&Aをはじめる前の目的設定を行う前に、主な目的を理解しておく必要があります。

M&Aにおける買手・譲受企業の主な目的は、以下の通りです。

    • 新規事業の展開
    • 既存事業の成長・拡大
    • スケールメリットの獲得
    • シナジー効果の創出
    • 海外進出

どのような目的で買手・譲受企業がM&Aを実施しているかを知り、自社における目的へのイメージを膨らませましょう。

新規事業の展開

自社で新規事業を立ち上げるためには、時間やコストがかかり、展開の仕方によっては思うような成果を得られないリスクがあります。

M&Aは新規事業への参入や事業の多角化を目的にする場合があり、新規事業展開におけるコストやリスクを抑えられるのが特徴です。

自社で展開したい事業をもつ企業へM&Aを行うと、すでに軌道に乗っている事業を自社で展開できます。事業にかかわる技術やノウハウなども引き継げるため、ほかの事業の成長も目指せるでしょう。

既存事業の成長・拡大

M&Aは、自社の既存事業を成長・拡大させるために実施するケースがあります。売手・譲渡企業がもつ技術やノウハウ、人材などを手に入れられ、既存事業にこれまでは自社になかった強みを反映できるのがM&Aの利点です。

自社の事業との関係性が強い同業をM&Aした場合には、より成長を期待できます。親和性の高い技術やノウハウは新たな強みをもたらし、もう一歩進んだ事業を展開できるでしょう。

既存事業の成長にかかわって、マーケットシェアの拡大にもつながります。関連事業を自社に取り込むことによって、市場でのシェアを高め、より強固な事業基盤を築けるでしょう。

スケールメリットの獲得

スケールメリットとは「規模のメリット」という意味をもつ和製英語で、M&Aはスケールメリットの獲得を目的にする場合があります。

M&Aは、売手・譲渡企業の資産や人材などを取り込めるため、企業の規模を拡大できるのが特徴です。

企業の規模拡大は、ブランド力や信用の強化につながります。さまざまな企業や類似する商品・サービスがある中で、企業規模による信用が決め手になることもあるでしょう。国内での地位確立や海外への進出を見据えたときには、M&Aによるスケールメリットの獲得は効果を発揮するはずです。

シナジー効果の創出

シナジー効果とは、複数の要素が組み合わさることで得られる相乗効果のことです。M&Aは、売手・譲渡企業と自社の複合によるシナジー効果の創出を目的にする場合があります。

自社に不足している部分を売手・譲渡企業の強みで補い、売手・譲渡企業の弱点を自社の強みで補完できれば、互いにM&Aのメリットを実感できます。

たとえば、自社で業界内でも独自性のある商品を展開できているものの、物流に課題がある場合には、物流網をもつ企業とのM&Aで弱点を克服できるでしょう。

海外進出

M&Aは海外進出を目的として実施する場合があり、海外企業の買収や合併によってグローバル展開を目指します。

海外進出は、国内にとどまらないシェア拡大を期待できるものの、現地での手続きや拠点の確保、人材採用などがハードルになります。

M&Aによって海外企業の買収や合併を行うと、すでに海外での事業基盤があるため、スピーディーなグローバル展開を実現できるのがメリットです。人件費や原材料費などコスト面でもメリットがあり、海外進出に伴う費用を抑えられるでしょう。

M&Aにおける売手・譲渡企業の主な目的

M&Aにおける売手・譲渡企業の主な目的は、以下の5つです。

    • 後継者問題の解決
    • 従業員の雇用確保
    • 既存事業の整理
    • 経営基盤の強化
    • 創業者利益の獲得

経営課題の解決を目的にする場合が多いため、自社の課題と照らし合わせながら主な目的を理解しましょう。

後継者問題の解決

中小企業の中には後継者の確保に苦戦する企業が増えており、後継者問題の解決を目的に、M&Aを選択する事例が増加しています。

親族や従業員への事業承継が難しい場合には、第三者への事業承継が現実的な選択肢になっており、M&Aは効果的な方法です。

後継者が不在で廃業を検討しなければならない中でM&Aを実現できれば、これまで培ってきた技術を引き継いだり、買手・譲受企業での事業成長を託したりするなど、希望に沿った事業承継をかなえられるでしょう。

従業員の雇用確保

自社を他社へ売却しようとしたときに、従業員の処遇はとくに気をつけたいポイントです。M&Aは買手・譲受企業に従業員を引き継ぐ条件を含める場合が多いため、従業員の雇用確保を目的に実施される場合があります。

廃業すると従業員を路頭に迷わせるリスクがありますが、M&Aでは新たな環境での雇用を確保できるのがメリットです。

従業員だけではなく、取引先との関係を確保するのも目的のひとつといえます。M&A後に買手・譲受企業での取引継続を条件に含められれば、取引先へ迷惑をかける心配も少なくなるでしょう。

既存事業の整理

M&Aは、会社全体の買収や合併だけではなく、事業単位での譲渡も可能なため、既存事業を整理する目的で選択されるケースがあります。

複数の事業を展開している場合、商材や市場の違いから成長に差が生まれやすく、利益が出にくい事業にリソースやコストを割いている場合があるでしょう。

不採算事業でも他社から見たときに魅力的に見える場合があり、事業譲渡を実現できれば、リソースやコストを主力事業に集約できます。事業の整理や集中に着手したい場合、M&Aは効果を期待できる経営戦略です。

経営基盤の強化

中小企業は大企業に比べると経営資源が限られるため、生き残りを目的とし、M&Aで経営基盤を強化するケースがあります。

買手・譲受企業による買収や合併などで大企業の傘下に入ると、自社にはなかった豊富な経営資源が手に入ります。経営基盤の強化で安定的な経営を見込めるだけではなく、大企業のブランド力や信用を活かした事業展開も可能になるでしょう。

創業者利益の獲得

M&Aで自社を売却すると、経営者は譲渡益を得られます。創業者利益を目的としたM&Aは、経営者がもつ選択肢のひとつで、利益を得ながら経営から離れる際に選択されています。

譲渡益を元手に新たな事業を立ち上げたり、経営からリタイアして譲渡益を老後資金に充てたりするなど、創業者利益の活用方法はさまざまです。

金銭的な利益はもちろん、経営から離れることによって精神的な負担が軽減される場合もあります。責任やプレッシャーから解放されたり、仕事から離れて自分の時間ができたりするなど、ゆとりが生まれるのもメリットです。

M&Aの目的を設定する2つのポイント

M&Aにおいて、目的設定は重要なステップです。目的が曖昧なままM&Aをはじめると、想定していたメリットを得られずに、交渉が難航するケースもあります。

成果につながるM&Aを実施するためには、以下2つのポイントが重要です。

    • 自社の経営課題を明確にする
    • 自社を取り巻く人や取引先に目を向ける

2つのポイントを押さえて、自社の状況に合った目的を設定しましょう。

自社の経営課題を明確にする

M&Aを実施する目的は企業によってさまざまですが、どの事例にも共通するのは経営課題の解決を目指している点です。

今後の戦略や、弱点の克服などを進めるためM&Aを実施しているので、まず自社の経営課題を明確にする必要があります。

「既存事業のニーズが高まっているが、自社にリソースやノウハウが不足しているため、M&Aをしたい」「後継者が不在であるため、技術や従業員を引き継ぐためにM&Aをしたい」といったように、M&Aで解決を期待できる経営課題を慎重に検討しましょう。

自社を取り巻く人や取引先に目を向ける

売手がM&Aの目的を設定するうえで、自社に所属している従業員、取引している企業に目を向ける必要があります。

M&A成立後は、買手・譲受企業の方針に従うため、目的設定が曖昧だと十分な交渉ができず、従業員や取引先に影響を与えるおそれがあります。

M&Aによって自社にかかわる人や取引先にどのような影響があるかを事前に想定し、離職や取引停止などネガティブな影響が出ないように、目的設定から準備を進めましょう。

M&Aのメリット・デメリット

M&Aの実施で目的が達成されれば、買手・売手はメリットを得られます。一方で、M&Aにはデメリットもあるため、あらかじめ対策が必要です。

買手・売手のメリット・デメリットは、以下の通りです。

 メリットデメリット
買手・事業規模を拡大できる
・新規事業をスピーディーに展開できる
・既存事業を強化できる
・海外進出のハードルを下げられる
・経営統合や組織再編に手間と時間がかかる
・簿外債務が発生する場合がある
・のれん代の減損が起きる可能性がある
売手・第三者に事業を承継できる
・買手のブランド力や信用を活用できる
・買手の技術やノウハウを自社に活用できる
・創業者利益を得られる
・必ず買手が見つかるとは限らない
・企業価値が低く見積もられるケースがある
・基本的に買手の方針に従う必要がある
・従業員や取引先への影響がある

M&Aのメリット・デメリットは以下の記事でも解説しているため、詳しく知りたい方はぜひ参考にしてください。

内部リンク:M&A メリット

メリット

M&Aにおける買手・売手のメリットは、以下の通りです。

買手売手
・事業規模を拡大できる
・新規事業をスピーディーに展開できる
・既存事業を強化できる
・海外進出のハードルを下げられる
・第三者に事業を承継できる
・買手のブランド力や信用を活用できる
・買手の技術やノウハウを自社に活用できる
・創業者利益を得られる

買手は、M&Aによって売手の資産や事業などを承継できるのがメリットです。売手の事業を組み込むことで、マーケットシェアを拡大したり、リスクやコストを抑えて新事業を展開したりできます。海外企業をM&Aした場合には、拠点や人材などの活用によってグローバル展開を行いやすいでしょう。

売手は、経営課題の解決にM&Aを活用できます。たとえば、後継者が不在な場合には、第三者へのM&Aによって技術やノウハウなどを引き継ぐことができるのがメリットです。自社よりも規模の大きい企業の傘下に入れば、ブランド力や信用を活用して、自社事業の成長を実現できます。

デメリット

M&Aで注意したい買手・売手のデメリットは、以下の通りです。

買手売手
・経営統合や組織再編に手間と時間がかかる
・簿外債務が発生する場合がある
・のれん代の減損が起きる可能性がある
・必ず買手が見つかるとは限らない
・企業価値が低く見積もられるケースがある
・基本的に買手の方針に従う必要がある
・従業員や取引先への影響がある

買手は、売手を買収や合併する過程で、経営統合や組織再編に取り組む必要があります。手間と時間がかかるだけではなく、うまく進められないと混乱が生じるため、あらかじめプロセスを策定しなければいけません。簿外債務によってM&A成立後に損失が出たり、のれん代の減損で資産が減少したりする点にも注意が必要です。

売手は、買手が見つからない場合があったり、企業価値が低く見積もられたりするケースに気をつけなければいけません。マッチングに時間をかけ、将来的な利益拡大を期待できる状態にするのがポイントです。また、買手の方針に従うのが基本であり、経営権が制限されたり、従業員や取引先に影響が出たりするおそれがあります。

M&Aの成功事例3選

最後に、M&Aの成功事例を3つ紹介します。

    • ソフトバンクグループによるWeWorkの支援および株式取得
    • 日本電産による三協精機の買収
    • キリンホールディングスによるメルシャンの完全子会社化

ソフトバンクグループによるWeWorkの支援および株式取得

ソフトバンクグループによるWeWorkの支援および株式取得は、2019年に始まった一連の救済策であり、WeWorkの財務危機と経営不振に対応するための大規模な再建プロセスとして行われました。WeWorkは、シェアオフィス事業で急速な成長を遂げていたものの、過剰な支出と資金不足に直面し、2019年のIPO(新規株式公開)の失敗によって経営危機に陥りました。

当時、ソフトバンクグループは既にWeWorkの主要な投資家であり、2017年から約80億ドルを同社に投入していました。しかし、WeWorkの経営危機が深刻化したことで、ソフトバンクはさらに追加の支援を提供することとなりました。2019年10月、ソフトバンクはWeWorkに対して約100億ドルの救済措置を講じ、その結果、同社の約80%の株式を取得し、WeWorkを実質的にコントロール下に置きました。

WeWorkの経営陣にも大きな変革がもたらされ、創業者でありCEOであったアダム・ニューマンは辞任し、ソフトバンクの支援を受けた新たな経営チームが組織されました。この経営再建の過程で、WeWorkは成長戦略を見直し、コスト削減や収益性の向上に焦点を当てた新たな経営方針を打ち出しました。オフィススペースの利用効率の改善や、不採算事業の整理などが進められました。

このM&Aは、ソフトバンクのビジョンファンドを活用したものであり、WeWorkのような「不動産テック」企業に対する投資戦略の一環として位置づけられていました。ソフトバンクは、不動産市場における技術革新とシェアリングエコノミーの成長を期待しており、WeWorkをその中核企業の一つと位置付けました。

引用元:https://japan.cnet.com/article/35144336/

日本電産による三協精機の買収

2010年、日本電産は精密機械部品メーカーの三協精機を買収しました。このM&Aは、日本電産の精密機械事業の拡大と、特にベアリング製品市場でのシェアを強化するために行われたものです。

三協精機は、ベアリングをはじめ、ステッピングモーターやスピンドルモーターなどを製造する企業で、特にハードディスクドライブ(HDD)向けのベアリング技術において高い技術力を持っていました。日本電産はこの技術力を活用し、HDD用モーターの性能向上や、新たな精密機械製品の開発を加速させました。

この買収により、日本電産は自社のモーター技術と三協精機の高度なベアリング技術を統合し、産業機械、自動車、家電分野などにおける競争力を強化しました。

特に、自動車市場においては電動化が進む中で、エネルギー効率の高いモーターや精密部品の開発に注力し、新たな市場機会を創出しています。買収後、日本電産は三協精機の設備や人材への投資を行い、研究開発を強化することで、技術革新と製品多様化を進めています。

このM&Aは、日本電産のグローバルな市場拡大戦略において重要な一環であり、特にベアリング市場でのシェア拡大を実現しました。三協精機の技術力を活かして、日本電産はより高精度で高効率な製品を提供し、精密機械産業におけるリーダーシップをさらに強固なものにしています。

引用元:https://www.nikkei.com/article/DGXNASDD240L0_U2A420C1TJ0000/

キリンホールディングスによるメルシャンの完全子会社化

2011年、キリンホールディングスは、日本のワイン業界で長年の歴史を持つ大手企業「メルシャン株式会社」を完全子会社化しました。キリンは、2006年にメルシャンの株式の約50%を取得し、当時から両社の協力関係を深めていましたが、2011年にメルシャンの残りの株式を取得し、完全子会社化に踏み切りました。この買収の目的は、キリンが成長戦略の一環として、ワイン市場におけるシェア拡大を図ることにありました。

メルシャンは、日本国内でワイン生産における高い技術力を持ち、「シャトー・メルシャン」という高級ワインブランドを展開していることで知られていました。メルシャンが有する醸造技術やブランド力は、キリンにとって大きな価値を持つものであり、キリンが多角化を進める酒類事業全体において、重要な戦略的資産となりました。

この完全子会社化により、キリンはワイン事業を強化するとともに、ビールや焼酎など他の酒類製品との相乗効果を追求しました。キリンはメルシャンの持つ生産技術や流通ネットワークを活かし、国内のワイン市場での競争力を高め、同時に国際市場への進出を強化しています。特に、アジア市場においては、ワイン消費が増加しているため、メルシャンのブランドを活用した海外展開が進められました。

キリンの完全子会社化により、メルシャンの事業はさらに拡大し、国内外での販売網を拡充することが可能となりました。また、ワインだけでなく、スピリッツやリキュールなどのカテゴリーにも力を入れることで、酒類事業全体のポートフォリオを強化しています。

この買収は、キリンにとって日本国内でのワイン市場における確固たる基盤を築くとともに、国際市場でのプレゼンスを高めるための重要な一手となりました。

引用元:https://pdf.irpocket.com/C2503/pTWD/IXLt/xRxw.pdf

M&Aの目的を理解して自社に合った方法を選択しよう

M&Aは、明確な目的を設定することで交渉を進めやすくなり、希望に沿った事業承継や譲渡を実現しやすくなります。

買手・売手で目的は異なるため、自社の経営課題を明確にしたうえで、従業員や取引先への影響も考慮して最適な目的を設定しましょう。

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【メタディスクリプション】

本記事では、M&Aの主な目的を買手・売手に分けて詳しく解説します。M&Aのメリット・デメリットや目的を達成した事例も紹介するため、ぜひ参考にしてください。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。