跡継ぎ問題の解決策と中小企業の選択肢は?M&Aの必要性についても解説

事業や財産などを他の人に引き継ぎたいけれど、なかなか跡継ぎが見つからずに悩んでいる経営者は珍しくありません。跡継ぎ問題が解決できない場合、働いている従業員は不安になります。また、事業を存続できず廃業になる恐れもあります。

跡継ぎ問題を解決するためには、現代の跡継ぎ問題の状況と解決策についての理解を深め、M&Aなどを含めた適切な対策の検討が大切です。

そこで今回は

  • 跡継ぎ問題の現状や解消する方法
  • 跡継ぎ問題を解決するためにできること
  • 跡継ぎ問題に悩んだ時の相談先

について解説します。跡継ぎ問題を解消する方法として、注目が集まるM&Aのメリットについてもわかる内容になっています。

跡継ぎとは?

跡継ぎとは、相続すべき財産や事業、権利関係などを引き継ぐことを意味します。

たとえば

  • 老舗の旅館を長男が引き継ぐ
  • 土地や不動産を長女が引き継ぐ

などのケースがあります。

家督相続の名残もあり、これまで跡継ぎは長男が優先されていました。しかし家督相続は廃止され、長男以外が跡継ぎとなるケースが増えています。

「跡継ぎ」と似た言葉に「後継者」があります。どちらも「後を継ぐ人」という意味合いを持ちますが、以下の違いがあります。

  • 跡継ぎ:相続すべき財産や事業、権利関係などを引き継ぐ人
  • 後継者:地位を引き継ぐ人

引き継ぐ内容に財産や権利関係が含まれず、単に前任者の地位に次に就く人を指す場合は、「後継者」という言葉を使う方が適切でしょう。

跡継ぎとして必要な能力・スキル

跡継ぎとして活躍するためには、様々な能力やスキルが必要です。特に、以下の3つが求められます。

  • 業界・事業に関する深い知識と理解
  • リーダーシップと決断力
  • コミュニケーション能力

業界・事業に関する深い知識と理解が求められる理由は、業界や事業の知識が不足していると、経営状況を正確に把握したり適切な判断を下したりすることが困難になるためです。また、取引先や従業員からの信頼を得ることも難しくなります。

組織を運営していくためには、従業員をまとめ、目標達成に向けて導くリーダーシップが不可欠です。また、事業運営においては、様々な問題や課題に直面するため、迅速な決断力も必要となります。

コミュニケーション能力が求められる理由は、経営者として取引先や従業員、顧客といった様々な人と接する機会が多くなるためです。適切なコミュニケーションを取ることで、信頼関係を築き、円滑に事業を進められます。

跡継ぎ問題の現状

跡継ぎ問題の現状は、以下の3つが挙げられます。

  • 親族内に跡継ぎがいない
  • 跡継ぎを外部から招集できない
  • 跡継ぎがいないため黒字廃業が増加している

ここでは、跡継ぎ問題の現状について解説します。

親族内に跡継ぎがいない

親族内に跡継ぎ候補がいない理由としては、以下が考えられます。

  • 少子化:子供の数が減っているため、後継者候補となる親族が少なくなる
  • 晩婚化:結婚する年齢が遅くなっているため、子供が独立するまでに時間がかかり、後継者となるタイミングが遅くなる
  • 職業選択の多様化:様々な職業選択が可能になり、家業を継ぐことに魅力を感じない人が増えている

かつては、親族内から跡継ぎを選ぶのが一般的でした。しかし、現在は少子化や晩婚化の影響で、親族内に跡継ぎ候補がいないケースが増えています。

帝国データバンクの調査によると、2023 年の全国・全業種約 27 万社において、後継者不在(後継者が「いない」、または「未定」)率は53.9%と、約2社に1社が後継者不在の状態です。特に建設業は60.5%、サービス業は58.2%と深刻化しています。

出典:帝国データバンク「全国「後継者不在率」動向調査(2023年)

跡継ぎを外部から招集できない

親族内に跡継ぎが見つからない場合、外部から人材を探します。しかし、魅力的な人材を引きつけるのは簡単ではありません。

地方の中小企業の場合、跡継ぎを外部から召集できない理由は、以下が考えられます。

  • 給与水準が低い:大企業と比べて給与水準が低いため、優秀な人材を引きつけにくい
  • 仕事量が多い:中小企業は人手不足のため、1人当たりの仕事量が多くなる
  • 若い世代の人材が少ない:若い世代は地方から都市部に移住する傾向にある

また、中小企業庁の委託調査(企業経営の継続に関するアンケート調査)によると、後継者候補がいる小規模事業者においても、親族外承継の割合は19.2%と、外部人材の登用が難しいことがわかります。

出典:中小企業庁「中小企業白書 2017 第2章事業の承継

跡継ぎがいないため黒字廃業が増加している

後継者不足は企業の廃業にもつながります。東京商工リサーチによると、2023年1-11月の「後継者難」倒産は397件と、前年同期に比べて7件増加しています。

高齢になった経営者が体力的な理由で事業継続を断念し、跡継ぎがいないため黒字廃業を余儀なくされています。

出典:東京商工リサーチ「11月の「後継者難」倒産は39件 2023年は年間最多を更新も

跡継ぎ問題を解消する方法

跡継ぎ問題を解消する方法は、以下の3つが挙げられます。以下の方法で跡継ぎ問題が解決できない場合、廃業するしか道がなくなります。

  • 親族内への事業承継を行う
  • 親族外(役員等)への事業承継を行う
  • M&Aで事業継承を行う

ここでは、それぞれの方法について解説します。

親族内への事業承継を行う

最もスムーズな事業承継といえるのが、親族内への承継です。息子や娘だけでなく、娘婿や孫など、親族内で広く検討すると良いでしょう。

親族内への事業承継を行うメリットは、

  • スムーズな事業承継ができる
  • 従業員が安心しやすい
  • 人材育成コストを抑えられる

などがあります。

一方、

  • 親族が経営者に向いているとは限らない
  • 親族間で対立するリスクがある

などのデメリットもあります。

長男に限らず、本人に意思があれば長女でも跡継ぎになるケースは珍しくありません。跡継ぎに必要とされている能力について説明し、それを満たしていれば性別関係なく跡継ぎになれる可能性があります。

親族外(役員等)への事業承継を行う

親族内で跡継ぎが見つからない場合、親族以外から探す方法があります。この役員や従業員へ引き継ぐことを、MBO(Management Buyout)やEBO(Employee Buyout)と言われます。親族外(役員等)へ事業承継するメリットは、

  • 能力や経験のある人材を選べる
  • 事業承継を目標にする従業員のモチベーションが向上する
  • 社内外から幅広い人材を採用できる

などがあります。

しかし、

  • 後継者に会社の株式を購入する財力が無く、ファンド等から調達する必要がある
  • 後継者が会社の借入等の個人保証に抵抗がある
  • 後継者にリーダーシップが欠如していることが多い

などのデメリットがあります。

親族外で候補者を選ぶ場合は、在籍している役員及び従業員をはじめ、ファンドの紹介や求人サイトや人材マッチングなどで探すことも可能です。

M&Aで事業継承を行う

M&Aとは、企業の合併・買収を意味します。株式を第三者に有償譲渡する方法で、株式の売却益は経営者(株主)が取得できるため、会社の存続と利益の獲得の両立が可能です。

自社に適した企業に事業を譲渡することで、事業の継続と発展を目指し、後継者不足問題の解決を同時に実現できる可能性がある方法です。M&Aのメリットについては後述します。

跡継ぎ問題を解決するためにできること

跡継ぎ問題は多くの企業が抱える深刻な課題です。跡継ぎが見つからず、事業継続が危ぶまれるケースも少なくありません。ここでは、跡継ぎ問題を解決するためにできる、以下4つの方法を解説します。

  • 後継者とのマッチングサイトを利用する
  • 企業の強みを言語化・発信する
  • 専門家に事業継承の相談をする
  • 後継者確保の準備を計画的に進める

後継者とのマッチングサイトを利用する

後継者とのマッチングサイトは、事業譲渡したい企業と、事業継承したい人材をつなぐ役割を担っています。従来の後継者探しにおいては、人脈や人からの紹介に頼ることが多かったため、候補者の範囲が限られてしまうという欠点がありました。

しかし、マッチングサイトを利用すれば、全国各地、さらには海外から幅広い候補者探しができます。多くのサイトでは業種や地域、希望年収などの条件で検索できるため、効率的に後継者候補を見つけることが可能です。

マッチングサイトは、後継者探しの選択肢の一つとして有効な手段です。ただし、費用がかかる場合もあるので、事前に確認しておきましょう。

企業の強みを言語化・発信する

親族外から募集する場合は、企業価値評価の内容を踏まえ、自社の魅力や自社で働くメリットを明確に伝えられるようにしておくと良いでしょう。

後継者候補は自分が継承する企業について、

  • 事業内容
  • 収益性
  • 将来性
  • 企業文化
  • 労働環境

を知りたいと考えています。

これらを分かりやすく言語化し、積極的に発信することで、魅力的な企業であることをアピールできます。また、自社の魅力が伝わりやすくなれば、他の地域などからも跡継ぎ候補を呼び込みやすくなります。

専門家に事業継承の相談をする

事業承継は税理士や弁護士、M&A仲介会社などの専門家に相談すると良いでしょう。跡継ぎ選定・育成や経営資源の引き継ぎなどには、通常1〜5年かかるため、早めの準備が必要です。経営陣だけで跡継ぎ問題を解決しようとすると、日常の業務に支障が出る可能性があります。

また、専門知識や経験がないまま事業継承を進めると、トラブルや失敗につながる恐れがあるため注意が必要です。

後継者確保の準備を計画的に進める

跡継ぎ問題の解決には時間がかかるため、早めの準備が重要です。具体的な準備内容としては、

  • 後継者候補となる人材をリストアップする
  • 後継者育成計画を作成する
  • 自社の事業内容や経営理念を明確にする
  • 事業承継に関する知識を身につける

などが考えられます。

計画的に準備を進めることで、スムーズな事業継承を実現することが可能です。

跡継ぎ問題に悩んだ時の相談先は?

跡継ぎ問題を一人で抱え込むと、解決策が見つからず時間だけが過ぎてしまうこともあります。跡継ぎ問題に悩んだ際は、

  • 弁護士や税理士といった仕業の専門家
  • 金融機関
  • 事業引継ぎ支援センター
  • M&A仲介会社・仲介比較会社

などに相談できます。

ここでは、それぞれの相談先の特徴について解説します。

弁護士や税理士といった仕業の専門家

事業承継の相談先は、企業の顧問税理士への相談が一般的です。弁護士や税理士は、法律や税務に関する専門知識を持っているため、法的・税務的なアドバイスが受けられます。

特に、

  • 事業承継に伴う法的な手続き
  • 相続税対策
  • 株価評価

などの問題を抱えている場合に有効です。弁護士や税理士は客観的な視点から問題点を分析し、最適な解決策を提案してくれます。また、必要に応じて他の専門家を紹介してくれる場合もあります。

しかし、事業承継の経験がない税理士や弁護士もいるため、事業承継を専門にしているかどうかを事前に確認しましょう。

金融機関

金融機関は、事業資金の融資や経営相談など、事業承継に関する様々なサービスを提供しています。

特に

  • 事業承継に必要な資金調達
  • 補助金制度の活用

などの問題を抱えている場合に有効です。金融機関では、専門のコンサルタントが事業計画の策定を支援してくれる場合もあります。

また、後継者についても、金融機関の独自ルートで探してはもらえるものの、マッチングが本業ではないため適任者が見つからない可能性があります。

事業引継ぎ支援センター

事業引継ぎ支援センターは、国が設置する公的相談窓口です。後継者が決まっていない中小企業に対して、

  • 事業承継・引継ぎにかかる問題解決に向けた助言
  • 情報提供・マッチング支援

を実施しています。

2021年4月に、事業承継ネットワークと統合して、事業承継・引継ぎ支援センターに改組されました。全国47都道府県に設置されており、事業承継に関する相談ができます。

出典:事業承継・引継ぎ支援センター

出典:中小企業庁「事業承継・引継ぎ支援センター

M&A仲介会社・仲介比較会社

M&A仲介会社は、事業の売却や譲渡を希望する場合に、買い手となる企業を探してくれます。M&A仲介会社は売り手と買い手の間に入り、中立的なサポートの実施を基本としています。

M&A仲介を利用するメリットは、

  • 自社に適した買収先を見つけられる
  • M&Aの交渉をサポートしてくれる

です。

M&A仲介会社は、全国に対応している場合や、特定の業種や地域を専門としている場合があります。M&A仲介会社を選ぶ際は、これまでの実績や手数料を慎重に確認し、することが大切です。

跡継ぎ問題を抱える中小企業でM&Aが増加

多くの中小企業が跡継ぎ問題に直面するなかで、M&Aを実施するケースが増加しています。ここでは、

  • M&Aを行うメリット
  • M&Aによる事業継承の方法

について解説します。

M&Aを行うメリット

M&Aを行うメリットは、

  • 事業を第三者に引継ぐことで、会社や従業員の雇用を守ることが出来る
  • 事業の譲渡により利益を得られる

の2つです。

M&Aを活用することで、社内だけでなく社外からも広く候補者を募集できます。その結果、より多くの候補者の中から能力や経験などをもとに最適な人物を選ぶことが可能です。

親族内に株式を譲渡する場合、贈与や相続がほとんどです。贈与や相続で株式を譲渡する場合、株主は利益を得られません。しかし、M&Aをすることで株主は保有している株式を売却でき、事業の譲渡による利益を得られます。

M&Aによる事業継承の方法

M&Aによる事業継承には、主に以下の3つの方法があります。

  • 役員等へ承継
  • M&Aによる第三者承継

役員等へ承継は、MBOやEBOと呼ばれ、親族以外の役員や従業員に承継する方法です。従業員は事業への理解と愛着を持っているため、スムーズな承継が期待できます。

M&Aによる第三者承継は、外部の第三者に事業を譲渡する方法です。経営資源やノウハウを活かした事業展開が期待できます。しかし、譲渡先の企業との文化や価値観の違いによって関係が悪化する恐れもあります。

まとめ

親族内に跡継ぎがいないなどの理由から、跡継ぎ問題に悩む経営者は増えています。跡継ぎがいないために黒字倒産する企業も珍しくありません。

跡継ぎ問題は、

  • 親族内への事業承継を行う
  • 役員等へ事業承継を行う
  • M&Aで事業継承を行う

の実施で解消可能です。

事業承継は時間がかかるため、事前に税理士や弁護士、M&A仲介会社などの専門家への相談が大切です。

また、中小企業のM&Aが増えています。専門知識や経験がないまま事業継承を進めると、トラブルや失敗につながる恐れがあるため注意が必要です。M&A仲介会社を選ぶ際は、これまでの実績や手数料を慎重に確認するようにしましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。