【調査分析】浜松のM&Aの市場動向について徹底解説!

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近年、中小企業の経営者の高齢化が進む中、事業承継が大きな課題となっています。特に後継者不在に悩む経営者にとって、M&Aによる事業承継は有力な選択肢の一つです。しかし、M&Aに関する情報不足や手続きの複雑さから、躊躇する経営者も少なくありません。

そこで本記事では、浜松市を含む静岡県内のM&A市場の現状を分析しつつ、円滑な事業承継に向けたポイントを解説します。

M&A・事業承継の状況

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帝国データバンクが2023年に実施した調査によると、静岡県の後継者不在率は51.9%と過去最低を更新し、後継者問題は改善傾向にあると言えます。事業承継の適齢期である60代の後継者不在率も34.6%まで低下し、3社に1社の割合となりました。

事業承継の方法としては、「同族承継」が43.5%でトップですが、「M&Aほか」や「内部昇格」など非同族への承継も増加傾向にあります。後継者候補でも「親族」「非同族」の割合が拡大し、「ファミリー承継」からの脱却が進んでいます。

ただ、全国を基準とすると、まだまだ後継者不在率は高い水準にあります。特に不動産業や建設業などで後継者問題が深刻化しています。

一方で、サービス業や小売業では、比較的後継者が見つかりやすい傾向にあります。事業の特性上、必ずしも親族内での承継にこだわる必要がないことや、M&Aによる事業拡大の可能性が高いことなどが背景にあると考えられます。

業種ごとに事業承継の課題は異なりますが、いずれにせよ早期の取り組みが欠かせません。特に後継者問題が深刻な業種では、M&Aを含めた多様な選択肢を検討し、円滑な事業承継に向けた準備を進めることが重要です。

「株式会社帝国データバンク」「特別企画:静岡県「後継者不在率」動向調査(2023 年) 」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s231201_42.pdf(2024年3月28日閲覧)

休廃業・解散の動向

帝国データバンクが2023年に実施した調査によると、静岡県の休廃業・解散件数は2年連続で増加し、3年ぶりに1,600件を上回りました。休廃業した企業の45.5%が黒字でしたが、その割合は過去最低でした。一方、「資産超過」かつ「黒字」の企業の割合は21.2%と、2年連続で2割を超えました。

また、休廃業時の経営者の平均年齢は71.6歳で、4年連続で70歳を超え、右肩上がりに上昇しています。高齢になるほど事業承継が困難になり、廃業を選択せざるを得ないケースが増えていることがうかがえます。

業種別では、「建設業」の休廃業が280件で最多となり、前年比15.7%増加しました。職人の高齢化や若手の離職など、構造的な問題を抱える建設業界の厳しい実情が浮き彫りになっています。

全体的な傾向として、2024年も休廃業・解散は高水準で推移する可能性が高く、自力再建か円満な廃業かの岐路に立たされる企業が増えるとみられます。早めの事業計画の見直しと、専門家を交えた出口戦略の検討が欠かせません。「あきらめ廃業」を防ぎ、次の一手につなげる支援の拡充が急務と言えるでしょう。

「株式会社帝国データバンク」「静岡県内企業「休廃業・解散」動向調査(2023 年) 」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s240101_42.pdf(2024年3月28日閲覧)

人手不足状況

帝国データバンクが2024年1月に実施した調査によると、静岡県の正社員の人手不足企業の割合は45.9%に上ります。業種別では、「2024年問題」が懸念されている「運輸・倉庫」が73.1%、「建設」が64.1%で上位となっています。慢性的な人手不足に悩む業界の実情が改めて浮き彫りとなった格好です。

非正社員の人手不足割合は25.3%で、業種別では「農・林・水産」が50.0%でトップ、「サービス」が45.5%、「運輸・倉庫」が36.4%と続きます。パートやアルバイトなど非正規労働力の確保難も深刻化しており、企業の人材戦略の再考を迫られています。

特に、2024年4月から時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」の影響が大きい建設業と物流業(道路貨物運送業)では、正社員の人手不足割合がそれぞれ64.1%、68.4%と6割を超えています。残業削減に向けた働き方改革と、人員補充のための採用活動が喫緊の課題となっています。

人手不足は、企業の成長力を削ぐだけでなく、従業員の長時間労働や職場環境の悪化を招く恐れがあります。生産性の向上と働き方改革を両輪で進め、持続可能な経営基盤を築くことが求められます。行政や業界団体と連携した人材育成・確保策の強化も急務でしょう。

人手不足解消の手段としてのM&Aの可能性

人手不足の解消に向け、静岡県企業の78.5%が「労働力の定着・確保」を目的に2024年度の賃金改善を見込んでいます。賃上げによる人材確保が主流ですが、一方でM&Aによる人材獲得も注目されています。

同業他社や関連業界とのM&Aにより、即戦力となる人材を獲得できる可能性があります。単なる人員の補填にとどまらず、ノウハウの継承や事業の拡大にもつながるメリットが期待できます。

人手不足に悩む企業にとって、M&Aは賃上げと並ぶ有力な選択肢と言えるでしょう。ただし、人材の融和やモチベーションの維持など、統合後の課題にも注意が必要です。従業員とのコミュニケーションを密にし、不安を払拭しながら進めることが重要です。

M&Aは、人手不足の解消だけでなく、事業承継や業界再編など、中小企業の様々な課題解決に資する可能性を秘めています。経営戦略の一環として、M&Aを柔軟に活用することも一案でしょう。専門家の知見を得ながら、自社に最適なM&Aの在り方を探ってみてはいかがでしょうか。

「株式会社帝国データバンク」「人手不足に対する静岡県内企業の動向調査(2024 年 1 月)」https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/s240302_42.pdf(2024年3月28日閲覧)

浜松でのM&A成約事例

以下は、浜松で起きたM&A事例を紹介いたします。

1. サーラ住宅による宮下工務店のM&A

サーラ住宅は、宮下工務店を買収し、M&Aを実施しました。宮下工務店は地域密着型の工務店で、住宅の設計・建設を行っています。

このM&Aにより、サーラ住宅は宮下工務店の地域での事業基盤を強化し、住宅建設におけるノウハウやネットワークを拡充します。両社の連携により、住宅市場での競争力を高め、顧客により質の高いサービスを提供することが期待されています。

引用元:https://data.swcms.net/file/sala/ja/irnews/auto_20190530440944/pdfFile.pdf

2. 遠州鉄道が静岡県中部自動車学校を譲り受け

遠州鉄道は、静岡県中部自動車学校を買収し、運転教育事業を強化しました。このM&Aにより、遠州鉄道は地域での運転教育サービスの提供を拡大し、運転技術の向上や安全運転啓発に注力することを目指しています。買収によって、既存のバス・鉄道事業と連携し、地域社会への貢献をさらに高め、総合的な交通インフラの提供に寄与することが期待されています。

引用元:https://www.entetsu.co.jp/release/20160202_entetsu.pdf

浜松でのM&A・事業承継の進め方

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ここからは、中小企業庁の事業承継ガイドライン第3版を参考に、M&Aや事業承継の具体的な進め方を解説します。事業承継は一朝一夕にはいきません。計画的かつ段階的に取り組むことが何より重要です。以下の5つのステップを踏まえながら、円滑な事業承継の実現を目指しましょう。

ステップ1:事業承継に向けた準備の必要性の認識

まずは、事業承継の必要性と重要性を認識することから始めましょう。概ね60歳に達した頃には事業承継の準備に取りかかることが望ましいとされています。60歳を超えている場合は、すぐにでも身近な支援機関に相談し、準備に着手すべきでしょう。

事業承継は一朝一夕にはいきません。早めの準備が円滑な承継につながります。特に、後継者教育やバトンタッチのタイミング、株式の移転方法など、時間を要する課題が少なくありません。

現経営者の高齢化が進む中、事業承継の先送りは最大のリスクと言えます。「まだ先の話」と考えず、今すぐ行動を開始することが重要です。支援機関の力を借りながら、計画的に進めていきましょう。

ステップ2:経営状況・経営課題等の把握(見える化)

事業承継の準備には、自社の経営状況や課題を正確に把握することが欠かせません。会社の経営状況や経営資源、知的資産等を「見える化」し、客観的に評価することが重要です。

具体的には、財務分析や事業の棚卸しから着手しましょう。強みを活かし、弱みを克服するための方策を探ります。また、事業承継に向けた課題の洗い出しも必須です。後継者候補の有無、親族内株主や取引先等の理解、将来の相続発生も見据えた準備状況等、事業承継上の課題を明確にしておきましょう。

自社の強みと弱み、機会とリスクを整理することで、より適切な承継方法の選択につながります。客観的な視点を取り入れるためにも、外部の専門家の知見を活用することをおすすめします。

事業承継の成否は、円滑な引継ぎを可能にする体制づくりにかかっています。現状分析を踏まえた課題の見える化と、解決に向けたアクションプランの策定が何より重要です。

ステップ3:事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)

事業承継を円滑に進めるには、承継前の経営改善が欠かせません。本業の競争力強化、経営体制の総点検、財務経営力の強化等により、より良い状態で後継者に引き継げるよう、磨き上げに取り組みましょう。

具体的には、商品・サービスの見直しや販路拡大、業務効率化などにより、本業の収益力を高めることが重要です。また、組織体制の整備や人材育成にも力を入れ、後継者を支える基盤を築いていきます。

財務面では、資産と負債のバランスを改善し、キャッシュフローを安定させることが課題となります。過剰債務等の問題がある場合は、金融機関等と相談しながら、事業再生に着手することも検討しましょう。

承継前の「磨き上げ」が、承継後の企業価値向上に直結します。時間的な猶予があるうちに、経営改善に全社一丸で取り組むことが何より大切です。

ステップ4:M&Aの工程の実施

M&Aによる事業承継を選択した場合、具体的な工程を進めていく必要があります。譲渡意思決定後、仲介者選定、企業価値評価、マッチング、交渉等のM&Aプロセスを着実に進めていきましょう。

その際、経験豊富なM&A仲介会社や金融機関、専門家等との連携が欠かせません。自社の規模や業種、M&Aの目的等を考慮しつつ、最適なパートナーを選ぶことが重要です。適切なアドバイザーを見つけることが、M&Aの成否を左右すると言っても過言ではありません。

特にM&Aは高度な専門性が求められる分野です。リスクを最小限に抑えつつ、最大限のメリットを引き出すためにも、経験と知見のある専門家の助言を参考にすることをおすすめします。

ステップ5:事業承継の実行

いよいよ事業承継の実行段階です。M&A手続き等に沿って、資産移転や経営権移譲を進めていきます。書類作成や各種手続きなど、煩雑な実務が続きますが、士業専門家等の協力を得ながら、一つひとつ丁寧に進めることが重要です。

事業承継後も、経営者と従業員、取引先との関係づくりに配慮し、新たな企業文化の醸成に努めましょう。トップの交代という大きな変化を乗り越え、社内外の信頼を得ていくことが何より重要です。

円滑な事業承継は、一朝一夕で実現するものではありません。綿密な計画と粘り強い実行力が求められます。支援機関や専門家との連携を図りながら、一歩一歩着実に前進していくことが大切です。

浜松でのM&A・事業承継に関する相談先まとめ

最後に、浜松地域で事業承継やM&Aに関する支援を行っている主な機関を紹介します。各機関が専門的な知見とネットワークを有しており、課題解決に向けた心強い味方となってくれます。ぜひ、気軽に相談してみましょう。

よろず支援拠点

様々な経営課題に関する相談に対応するワンストップ相談窓口として、中小企業庁が各都道府県に「よろず支援拠点」を設置しています。静岡にも拠点があり、事業承継やM&Aに関する幅広い相談が可能です。

経験豊富なコーディネーターが在籍しており、課題の整理から解決策の提案まで、伴走型の支援を行っています。窓口相談のほか、オンラインでの相談にも対応しているため、利用しやすさも魅力の一つです。

経営安定特別相談室

商工会議所や都道府県商工会連合会が「経営安定特別相談室」を設置し、士業等専門家が各種法的手続きに関するアドバイスを行っています。浜松商工会議所にも相談室があり、事業承継やM&Aに詳しい専門家が在籍しています。

個別の事情に応じたきめ細かな支援が強みで、秘密厳守で相談に乗ってくれます。事業承継やM&Aに伴う税務・法務の課題解決に力を発揮してくれるでしょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

事業承継・引継ぎ支援センターでは、M&Aや経営資源引継ぎの可能性を探るほか、これらが困難と見込まれる場合には廃業についての相談対応を行っています。静岡にも拠点があり、親族内・従業員承継、M&A・事業売却など、様々な形態の事業承継をサポートしています。

豊富なデータベースを活用したマッチングが強みで、最適な承継先・譲渡先探しに力を発揮してくれます。事業価値の算定など、M&Aの実務面でのサポートも期待できます。

中小企業診断士

中小企業診断士は、「中小企業支援法」に基づき、中小企業のホームドクターとして、様々な経営課題への対応や経営診断等に取り組んでいます。事業承継やM&Aに関する専門的な知見を持つ診断士も多く、戦略立案から実行支援まで、総合的なアドバイスが可能です。

全国に約3万人の登録診断士がおり、浜松にも多数の診断士が活躍しています。経営コンサルタントとして、事業承継やM&Aの伴走支援に定評があります。

税理士

税理士は、顧問契約を通じて日常的に中小企業経営者との関わりが深く、決算支援等を通じ経営にも深く関与しています。事業承継やM&Aに伴う税務面での影響や対策について、専門的な立場からアドバイスを得ることができます。

株式評価や相続税対策など、事業承継・M&Aに欠かせない税務の課題解決に力を発揮してくれるでしょう。日頃から税理士とのコミュニケーションを密にし、早めに相談することをおすすめします。

金融機関

浜松の金融機関は、地域経済の活性化に向け、事業承継やM&Aの支援に積極的に取り組んでいます。融資や情報提供、仲介機能の発揮など、多面的な支援が受けられます。

取引先企業の状況を深く理解している分、事業の実情に合わせた提案が期待できるでしょう。

M&A資金の融資や、買収先・譲渡先の紹介など、金融面と業務面の両面からサポートしてくれます。

メインバンクを中心に、日頃から金融機関との関係構築を図ることが重要です。

M&A仲介会社などの専門家

M&Aの実務を専門に手がける仲介会社は、案件発掘からマッチング、クロージングまで、一連のM&Aプロセスをサポートしてくれます。豊富なネットワークと交渉ノウハウを持つ仲介会社を上手に活用することで、望むM&A案件を実現する可能性が高まります。

ただし、仲介会社の選定は慎重に行う必要があります。自社の規模や業種、M&Aの目的等を考慮しつつ、経験と実績のある仲介会社を選ぶことが重要です。成功報酬以外の手数料体系が明確か、守秘義務をしっかり果たしてくれそうかなど、確認すべき点は少なくありません。

信頼できるM&A仲介会社を見つけることが、円滑なM&Aの第一歩と言えるでしょう。

独立行政法人中小企業基盤整備機構

中小企業基盤整備機構は、事業承継の支援体制構築に向けた助言や、支援機関の課題解決に資する講習会の開催など、専門家の育成にも力を入れています。浜松にも中部本部があり、地元中小企業の事業承継やM&Aを、様々な角度からバックアップしています。

同機構の強みは、全国的なネットワークを活かした支援体制にあります。各地の支援機関と連携しながら、事業承継・M&Aの課題解決に取り組んでいます。

事業承継・M&Aに関する各種セミナーの開催情報など、有益な情報も発信しているので、ぜひチェックしてみましょう。

浜松のM&A仲介会社選びのポイント

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最後に、浜松でM&A仲介会社を選ぶ際のポイントをまとめておきます。M&Aは専門性の高い分野だけに、信頼できる仲介会社を見つけることが何より重要です。以下の5つの視点を参考に、自社に最適な仲介会社を探してみましょう。

M&Aの成約実績が豊富か

M&Aは経験と知見の積み重ねが欠かせない分野です。豊富な成約実績を持つ仲介会社なら、様々なケースへの対応力が期待できます。案件数だけでなく、成約率の高さも重要なポイントです。

自社の業界に精通しているか

業界特有の商慣行やビジネスモデルを理解している仲介会社を選ぶことが重要です。自社の業界に強みを持つ仲介会社なら、適切な買収先・譲渡先の選定や、業界事情を踏まえた交渉が期待できます。

M&Aの種類(買収、合併、事業譲渡など)に応じた専門性を持っているか

M&Aには様々な種類があり、それぞれ固有の注意点があります。自社の目的に合ったM&Aの種類に、専門性を持つ仲介会社を選ぶことが重要です。

成功報酬以外の手数料体系が明確か

M&Aの手数料体系は、案件ごとに異なるのが一般的です。成功報酬だけでなく、着手金やデューデリジェンス費用など、様々な費用が発生します。手数料体系が明確で、納得感のある仲介会社を選びましょう。

自社の規模や目的に合ったサービスを提供できるか

M&Aは、企業規模や目的によって、求められる支援内容が異なります。自社の規模感や目的に合ったサービスを提供できる仲介会社を選ぶことが重要です。

以上の5つがM&A仲介会社選びの重要ポイントです。加えて、守秘義務の徹底や、経営者との相性なども大切な視点と言えるでしょう。信頼できるM&A仲介会社を見つけることが、円滑なM&Aの第一歩です。時間をかけて、じっくりと選定を進めていきましょう。

おわりに

本記事では、浜松地域のM&A市場の現状分析と、円滑な事業承継のポイントを解説してきました。浜松でも事業承継の重要性への認識は高まりつつありますが、後継者不足や人手不足など、克服すべき課題は少なくありません。

行政や支援機関、金融機関、専門家等が連携し、事業承継・M&Aを後押ししていくことが求められています。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。