調剤薬局の廃業・閉局手続きとは?廃業以外の選択肢についてもご紹介

はじめに

調剤薬局の廃業を検討する場合は、それにともなう手続きや作業が多いため、最初に全体の流れを頭に入れておくことが大切です。この記事では、調剤薬局の廃業に必要な手続きの流れを詳しく解説しています。また、廃業以外の選択肢であるM&Aや、経営状態の改善法についても紹介します。

調剤薬局における廃業手続きの流れ

調剤薬局における廃業手続きのおおまかな流れは、廃業の準備→調剤薬局の閉店→必要書類の提出→余った医薬品の売却や解体工事、となります。

1.調剤薬局を廃業するにあたって準備を行う

調剤薬局を廃業するにあたって、まずはスケジュールを立てた上で準備を行います。調剤薬局の廃業にはさまざまな手続きが必要なので、スケジュールに余裕を持たせることが大切です。廃業に向けた主な準備としては、賃貸契約の解約や医薬品・備品の整理、従業員への対応などが挙げられます。

不動産賃貸契約の解約

まず必要なのは不動産賃貸契約の解約です。賃貸契約書を確認し、解約する方法のほか、解約希望日の何日前までに連絡が必要かなどを把握しましょう。一般的な借家契約では、立ち退きの3ヵ月前には解約を申し入れます。

書面での通知が必要な場合であっても、まずは電話で管理会社や貸主に解約意思を伝えた上で、期日までに書面を作成します。また、定期借家契約の場合は基本的には契約期間の中途での解約はできませんが、解約金支払いで解約可能な場合もあるので確認しましょう。

医薬品や備品の在庫整理

廃業に向けた準備として、医薬品や備品の在庫整理も欠かせません。分包紙や軟膏壺などの消耗品は、廃業に向けて可能な範囲で在庫を圧縮する必要があります。また、長期間使用しないまま保管されている医薬品や備品の洗い出しも必要です。

ただし、医薬品や備品の在庫整理は、大きな作業負担になります。廃業に関する作業で余裕がない場合は、在庫整理の専任担当者を配置することも検討しましょう。

レセコンや分包機などのリース品の解約

分包機、レセコン、電子薬歴システムなどのリース品がある場合、廃業時はリース会社に解約の相談をします。リース契約には原則として途中解約がありません。期間満了していない場合は、残った期間分のリース額をまとめて支払うか、相当する額の違約金を支払う必要があります。

従業員の解雇に対する対応

廃業を決めたら、従業員の解雇に向けた対応も必要です。解雇は従業員の生活に関わる重大なことであり、十分な対応をしないとトラブルに発展する可能性があります。そのため、基本的には社会保険労務士へ相談するようにしましょう。

従業員への解雇通知は、解雇から少なくとも30日前に予告しなければなりません。予告しない場合は、30日分以上の平均賃金を解雇予告手当として支払う必要があります。

患者に対して閉局の告知

患者への閉局の告知も重要です。遅すぎればトラブルの元になる恐れがあり、早すぎれば想定以上の患者離れにつながる可能性があるため、一般的には、閉局の1ヵ月前くらいから告知が開始されます。薬局によって状況も異なるため、よく検討した上で時期を決めることが大切です。

自立支援の公費を受給している患者は、指定薬局の切り替え手続きが必要です。自立支援の公費受給者に対しては、一般の患者への告知を開始するころに完了させるイメージで早めに告知するとよいでしょう。

2.調剤薬局を閉店させる

廃業に向けた準備のあとは、調剤薬局の閉局を進めます。閉局にあたっては、近隣の医院に対して挨拶と説明が必要です。閉局することや患者への対応方法、患者からの問い合わせに対する案内方法などを医師に伝えておきます。

ただし、閉局することが医師から患者に伝わって来客減になる可能性があるので、医師への通知の時期についても慎重に考える必要があります。後で迷惑のかからないよう、閉局の2~3ヵ月前には伝えるとよいでしょう。

3.保険薬局廃止届などの必要書類の提出

詳しくは後述しますが、調剤薬局の閉局を進めるにあたって、各所に必要書類を提出しなければなりません。それぞれに提出期限があり、最短で閉局後15日以内の提出が必要なものもあるため、確実に準備しておくことが大切です。また、薬局によって要不要が異なるものもあります。添付書類の不足などの思わぬトラブルがないように、事前に各所に相談しておきます。

4余った医薬品の売却や解体工事

調剤薬局を閉局して各種手続きを終えたら、余った医薬品の売却や建物の解体工事を進めます。医薬品の売却に関しては、開封されているものや汚れがあるものは買い取りの対象外となることが多いですが、業者によっては売却できる可能性があるため相談してみましょう。在庫整理の時点で、未開封のものと開封済みや汚れがあるものを分けておくことをおすすめします。

物件の返却時には大型備品の廃棄処理の手数料がかかるので、事前に調べておきましょう。また、原状回復にともない解体工事を必要とする場合は、工事費も予算に入れておきます。

調剤薬局を廃業する際の必要書類

ここでは、調剤薬局を廃業するにあたって必要な書類について解説します。なお、下記は基本的なもので、提出書類・提出期限以外の各項目は管轄により異なり、問い合わせが必要な場合もありますので、詳しくはホームページなどでご確認ください。

保険薬局廃止届

保険薬局を廃業した場合には、「保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第8条」の定めによって保険薬局廃止届の提出が求められます。また、許可証の提出も必要です。

提出期限:薬局の廃止から30日以内

手数料:無料

提出方法:薬局所在地の都道府県の管轄地方厚生(支)局窓口に持参、もしくは郵送

相談先:薬局所在地の都道府県の管轄地方厚生(支)局

受付時間:要確認

保険薬剤師の登録抹消の申出

保険薬剤師が登録抹消をする際には、「保険医療機関及び保険薬局の指定並びに保険医及び保険薬剤師の登録に関する省令第20条第1項」に基づいて地方厚生局に申し出が必要です。

提出期限:登録抹消時には申し出の翌日から1ヵ月以上の予告期間が設けられており、予告期間終了から10日以内に登録票の返納が必要

手数料:無料

提出方法:薬局所在地の都道府県の管轄地方厚生(支)局窓口に持参、もしくは郵送

相談先:薬局所在地の都道府県の管轄地方厚生(支)局

受付時間:要確認

麻薬小売業者廃止届

麻薬小売業者が麻薬の取り扱い業務を廃止した際には、「麻薬及び向精神薬取締法第7条」に基づいて届出を求められます。また、麻薬小売業者の免許証の提出も必要です。

提出期限:麻薬取り扱い業務の廃止から15日以内

手数料:無料

提出方法:薬局の所在地を管轄する保健所の窓口に持参、もしくは郵送

相談先:薬局の所在地を管轄する保健所

受付時間:要確認

所有麻薬届・麻薬廃棄届・麻薬廃棄届

麻薬を取り扱っている薬局を廃止する際には、「麻薬及び向精神薬取締法第36条第1項、第4項」に基づいて所有麻薬届を提出しなければなりません。これは麻薬を所有していなくても必要です。また、麻薬を廃棄する際には、「麻薬及び向精神薬取締法第29条」に基づいて麻薬廃棄届の提出が必要です。

提出期限:

所有麻薬届…薬局の廃止から15日以内

麻薬廃棄届…廃棄しようとする麻薬とともに届出の持参が必要

手数料:ともに無料

提出方法:ともに薬局の所在地を管轄する保健所(健康福祉センターなどの場合もあり)の窓口に持参。所有麻薬届は郵送可もあり

相談先:薬局の所在地を管轄する保健所など

受付時間:要確認

覚醒剤原料所有数量報告

薬局の廃業にあたっては、「覚醒剤取締法第30条の15」に基づいて所有する覚醒剤原料の数量を届出しなくてはなりません。これは覚醒剤原料を所有していなくても必要です。

提出期限:薬局の廃止から15日以内

手数料:無料

提出方法:薬局の所在地を管轄する保健所の窓口に持参、もしくは郵送

相談先:薬局の所在地を管轄する保健所

受付時間:要確認

覚醒剤原料処分届・覚醒剤原料譲渡報告

覚醒剤原料または調剤済みのものを廃棄する場合は、「覚醒剤取締法第30条」に基づいて覚醒剤原料廃棄届の提出が必要です。また、業務廃止によって覚醒剤原料を病院・薬局などに譲渡する場合も、「覚醒剤取締法第30条」に基づいて覚醒剤原料譲渡報告が必要です。

提出期限:

覚醒剤原料廃棄届・・・廃棄後30日以内

覚醒剤原料譲渡報告・・・業務廃止から30日以内

手数料:ともに無料

提出方法:ともに薬局の所在地を管轄する保健所などに提出

相談先:薬局の所在地を管轄する保健所など

受付時間:要確認

高度管理医療機器等販売業・貸与業の廃止届書

高度管理医療機器等販売業と貸与業の認可を受けている場合、「医薬品医療機器等法第40条で準用する法第10条」に基づいて、廃業に際して廃止届が必要です。また、許可証の提出も必要です。

提出期限:廃業から30日以内

手数料:無料

提出方法:薬局の所在地を管轄する保健所などに提出(郵送については要確認)

相談先:薬局の所在地を管轄する保健所など

受付時間:要確認

毒物劇物販売業の廃止届

毒物劇物販売業の登録を受けた事業者は、「毒物及び劇物取締法第10条」に基づいて店舗を廃止する際に毒物劇物販売業の廃止届が必要です。また、登録票の提出も必要です。

提出期限:廃業から30日以内

手数料:無料

提出方法:薬局店舗の地域を管轄する保健所などの窓口に持参など

相談先:薬局店舗の地域を管轄する保健所など

受付時間:要確認

調剤薬局の廃業に関する実態

株式会社東京商工リサーチの調査によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、2020年度から2021年度にかけて調剤薬局の倒産件数は大きく増加しました。2021年度には過去最高である23件を記録しましたが、2022年度には15件と前年度比34.7%の大幅減になっています。

倒産件数が大幅に減少した背景には、コロナ禍による受診控えが落ち着いて患者が増加し、処方箋枚数が増えて調剤医療費が回復したことがあります。

(参照元:「調剤薬局」の倒産、コロナ禍が落ち着き減少へ 今後はオンライン化で淘汰が加速も|東京商工リサーチ

URL:https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1197675_1527.html)

調剤薬局を廃業させないための施策

M&Aを行う

調剤薬局が廃業を回避する手段としては、まずM&Aの実施が挙げられます。調剤報酬の改定・薬価の引き下げや薬剤師の慢性的な不足を背景に、2010年代以降調剤薬局のM&Aのニーズが高まり、大手調剤薬局を中心に活発化しています。

また、近年、厚生労働省が「かかりつけ薬剤師・薬局」を推進していることも、M&Aの増加を後押しする要因の1つです。かかりつけ薬局には一定の要件が求められることから、経営リソースの確保を目的としたM&Aが増加していると見られます。

(参照元:かかりつけ薬剤師・薬局に求められる機能とあるべき姿|日本薬剤師会

URL:https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001068468.pdf)

経営状況の改善

経営状況の改善のためには、業務状況や業績を数値によって可視化し、分析することが欠かせません。売上増のためには処方箋の枚数やほかの料金の把握、支出減のためには在庫や人件費などの把握が必要です。それらを分析した上で改善点を見いだして実行していきます。

さらには、下記のような方策も有効です。

オンライン服薬指導といったICTを導入する

限られた人数の薬剤師で効率的に業務を進めるためにはICTの活用が考えられます。「オンライン服薬指導」は、ICTの活用例の1つです。スマートフォンやパソコンの画面を通して行う服薬指導をはじめ、患者が薬局に出向かなくても医薬品の受け取りを行える取り組みでもあり、今後ますますニーズが高まっていくとみられています。

ほかのICTの例としては電子お薬手帳、電子処方箋、調剤予約システムなどが挙げられます。

健康サポート機能を強化する

健康サポート機能とは、患者の主体的な健康の保持と増進をサポートする機能です。かかりつけ薬局としての機能に加え、健康サポート機能を持つ薬局は「健康サポート薬局」として認定され、その旨を表示できます。健康サポート薬局は医薬品に関する相談にとどまらず、地域住民の健康全般のサポートを担います。

健康サポート薬局は、地域の患者の頼れる存在です。患者の日常的な健康相談や在宅医療への対応、健康イベントの実施などを通して、薬局の利用者増につなげられます。

医療機関や関連施設との連携体制を構築する

今後ニーズが高まると考えられる在宅医療への進出には、医療機関との連携が欠かせません。在宅医療を求めて薬局とコンタクトを取る患者の多くが、医療機関からの紹介を経由していると考えられるからです。

そのため、医療機関や関連施設に積極的に営業を行ったり、勉強会やカンファレンスなどに積極的に参加したりすることが重要です。医療機関との連携が強まることで、利用者の増加が期待できます。

まとめ

調剤薬局の廃業にあたっては、入念な準備や関係者への適切な周知が大切です。また、法令に基づいた各種届出手続きを確実に行う必要があります。

早々に廃業を決断するのではなく、廃業を回避するための方法を探ることも大切です。まずは経営状況の改善に向けて、ICTの導入や健康サポート機能の強化などに努めるのも1つの手段です。

近年では調剤報酬の改定や薬価の引き下げ等への対応として、M&Aのニーズが高まっています。調剤薬局を存続させる方法として、M&Aの実施も検討してみましょう。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。