M&Aにおける投資ファンドの役割とは?買収される企業のメリットや成功ポイント
M&Aをする際に、投資ファンドを使用する会社が増えています。しかし、M&Aと投資ファンドの係わりを理解できていない経営陣も多いかもしれません。
日本企業同士でのM&Aの成功率は50%程度とされていて、決して低い数字ではないものの半数は失敗に終わっているとも捉えられます。
投資ファンドによるM&Aによって立て直しに成功した企業もありますが、きちんとした知識がなければ事業継承に失敗するリスクも高いでしょう。
本記事では、投資ファンドによるM&Aのメリット・デメリットや投資ファンドの種類別に特徴を紹介します。
自社がどのような投資ファンドと取引するとよいかがわかるので、より価値ある企業に成長できるきっかけとなるでしょう。
目次
M&Aにおける投資ファンドとは?
まず、投資ファンドは投資家から集めた資金を運用し、得られた利益を投資家へ還元する仕組みを指します。
集めた資金はファンドマネージャーと呼ばれる運用のプロによって利益を増やします。運用によって増えた利益の一部を投資家に分配することで、資金を循環させながら儲けを得るのが投資ファンドの狙いです。
M&Aにおける投資ファンドとは、ファンドが企業を買収することで投資家から集めた運用資金によって企業を成長させ、業績や売上を再生させたら売却し利益を得るのが目的です。
自社に事業拡大や業績改善のための資金がなくても、投資ファンドの買収・運用によって企業を存続させられる利点があります。
M&Aにおける投資ファンドの5つの種類と特徴
M&Aで使われる投資ファンドは、主に以下の5つです。それぞれの違いと特徴を解説します。
-
- ベンチャーキャピタルファンド
- バイアウトファンド
- MBOファンド
- 企業再生ファンド
- ディストレスファンド
自社にとって、どの種類のファンドと取引するのがよいかの参考にしてみましょう。
ベンチャーキャピタルファンド
ベンチャーキャピタルファンドとは、創設2〜3年程度のベンチャー企業やスタートアップ企業に投資するファンドです。事業立ち上げや、まだ世に出ていない斬新なアイディアを発掘するための資金調達を支援してもらえます。
ベンチャーキャピタルファンドは成長段階途中の企業に投資するため、投資した企業が業績アップに成功した場合はリターンが大きいです。そのため資金の支援だけでなく経営の助言や役員派遣など、企業成長を促すためのサポートも充実し、今後の企業成長が期待できます。
バイアウトファンド
バイアウトファンドは、ある程度成長した企業を中心に投資をするファンドです。株式を過半数以上譲渡するため、経営方針や事業内容が一変する場合が多いです。
経営権を失う場合もあるため経営者が変わったり社員の人事異動が余儀なくされたりするので、リスクの高いファンドとも捉えられます。
バイアウトファンドの投資期間は5年程度に設定することが多く、短期間で利益を出し投資家へ分配するのが特徴です。バイアウトファンドへの売却によって、企業業績の停滞や赤字の回復が期待できます。
MBОファンド
MBОファンドとは、現在の経営陣が事業継続をするために自社企業の株式を購入し投資することです。
他の投資ファンドと違って、MBОファンドは他社の介入がありません。
通常、経営意思決定は会社法によって株主総会の開催を伴うため、多数の株主がいると決断や実行に時間を要します。MBОによって自社経営陣が株を持つことで、意思決定も迅速かつスムーズに進むのが利点です。
他社外部による圧力もないため、従業員の嫌悪感も少ないとされています。
企業再生ファンド
企業再生ファンドとは、経営不振や経営破綻で苦しむ会社を投資で集めた資金で業績回復を図り、株式公開や株式譲渡をすることで収益を得るのが狙いです。
企業再生では、経営組織や事業体制の見直しを図るターンアラウンドと、債務整理や資産の売却、リストラなどによる固定費削減のワークアウトを用いて改善を目指します。
業績が悪化していても回復させられるかや、多額の資金調達元となる地元の銀行や企業などがファンドに投資してくれるのかで買収するかが判断されます。
ディストレスファンド
ディストレスファンドは、財政危機に陥っている会社や倒産した企業を安値で買収し、再び企業価値が改善したら売却することで利益を得る投資ファンドです。
ディストレスファンドに売却することで事業継承が可能ですが、企業価値が低いほど業績回復した際の利益が大きいため安値で買収されます。
また、M&Aでディストレスファンドを選ぶ企業は、財務面での信頼を失っています。負債を抱えるがために取引先との商品の売買や交渉などが悪化し、さらに業績を落とす悪循環に陥っているケースが多いです。
しかし、ディストレスファンドに投資されたと周知されることで、「この企業は回復するかもしれない」と信頼を取り戻しやすいのがメリットです。
投資ファンドでM&Aするメリット
M&Aというと会社を買収されるという悪印象があるかもしれませんが、下記のように譲渡する会社にとっても利点が多いです。
-
- 資金の獲得ができる
- 経営ノウハウの獲得がしやすい
- 売上向上までの時間を短縮できる
- 周囲からの信頼度がアップする
業績拡大のために新事業に踏み込みたい場合や人員を増やしたいときに、資金繰りが厳しく現状維持が精一杯だと売上が伸びない悪循環に陥ります。しかし、投資ファンドによる支援を受けることで、自社では集められなかった資金調達が可能です。
また、投資ファンド側から業績の立て直しや事業再編の専門家が派遣される場合も多く、経営のノウハウを伝授してもらえます。
素早く資金調達ができ専門家のアドバイスをもらえるため、自社で工夫するより短期間の売上向上や黒字回復しやすいのもメリットです。
なお、投資ファンドはM&A先の企業の業績アップによって利益を得るため、将来性を期待できない会社には投資しません。投資ファンドが自社に出資をしたという事実が残れば、今後成長していく企業として周囲からの信頼獲得も期待できるでしょう。
M&Aでの投資ファンドで買収されるデメリット
投資ファンドによってM&Aされた場合には、以下のようなデメリットも発生します。
-
- リストラされる可能性がある
- ノンコア事業は削減される
- 企業文化や歴史が否定される
- 社員の大量離職につながる恐れがある
投資ファンドの意向により人件費削減のため従業員が減らされたり、収益性の低いノンコア事業は削減されたりする場合があります。これまで一緒に仕事をしてきた社員に解雇を言い渡す決断も必要です。
また、創業当時から大切にしてきた企業の文化や、守りたいと思っていた会社のイメージが否定され全く違った社風になる恐れもあります。
社風や経営方針が変わることによって、従業員は不満を溜めがちです。年収ダウンや役職の降格など、働くうえで耐え難いストレスによって社員が大量離職をするリスクもあります。
投資ファンドによるM&Aで買収された会社の行く末と注意点
投資ファンドによるM&Aは、資金調達が楽になり経営ノウハウを学べるという利点がある一方で、会社や従業員は今後どのような状況に置かれるのかを理解する必要があります。
投資ファンドでのM&Aは業績回復後に他の企業に売られるため、将来的には別会社に買収されることを意味するからです。
役職ごとにM&A後に考えられる影響は以下のとおりです。
役職 | 処遇 |
社員 |
|
幹部・役員 | 幹部や役員から外され、買収前より悪条件になることが多い |
社長 | 辞任することが多い |
一般社員は、会社の業績によって給料が前後するため合併による影響は少なめです。一方、幹部・役員クラスは、買収先の会社にポールポジションとして働き続けてきた幹部・役員がいるため、降格させられるケースが多いです。
社長は買収先の会社による社長の続投がほとんどなので、投資ファンドによる投資を受けた場合、事実上の引退を覚悟しましょう。
また投資ファンドは、どんな企業に成長させると高く売れるかと考えるため、ファンドの手法によって企業の未来が変わります。M&A後の従業員へのケアも念頭に置いておきましょう。
投資ファンドでのM&Aで成功する企業の特徴
投資ファンドでのM&Aで、買収後の業績アップに成功する企業の特徴は以下のとおりです。
-
- 譲れない条件を持っている
- 企業価値算定をして適正価格を把握している
- M&Aの専門家に相談している
投資ファンドとの交渉は、自社の経営を改善させたいがために交渉内容に流されて売却後に後悔するパターンがあります。
「少々値が落ちても一括払いを求める」、「買収企業の自社株の支払いは拒否する」といった譲れない条件を決めておくことが大切です。
また、想像以上に低い譲渡価格を提示されるといった、自社にとって不利な条件で進めようとするファンドもあります。
ファンド側の意見を丸呑みにして、自社だけが損をする交渉は避けたいです。顧客や株主、投資家にとって自社がどれほどの価値があるかの企業価値算定をおこない、適正価格を知っておきましょう。
なお、投資ファンドでのM&Aを成功に導くには、ファンド側だけにリードさせないことが最重要です。
専門的な知識があれば疑問点にも瞬時に対応できるため、M&Aの専門家に相談すると満足いく交渉につながりやすいです。
投資ファンドによるM&Aの事例
投資ファンド買収によって会社を存続させた例を紹介します。
-
- 日本投資ファンドによる三興商事買収
- 野村キャピタルによるレスプリ買収
投資ファンドによるM&Aは年間4000件以上おこなわれていると言われ、会社経営において一般的になりつつあります。さまざまな事例を知ることで、成功やリスク回避に繋げましょう。
日本投資ファンドによる三興商事買収
2022年10月、建築資材を取り扱う三興商事は日本投資ファンドとのM&Aをおこないました。
譲渡企業 | 三興商事 |
投資ファンド | 日本投資ファンド |
手法・成約 | 株式の過半数を売却 |
三興商事は静岡に拠点を置く、建築関連の構想提案やマネジメント、資材採集までおこなう多岐に渡るサービスを展開する企業です。
日本投資ファンドに株式を譲渡し、関東全域にも事業を拡大する方針を決定しました。
三興商事は2024年にTOKYOPROMarketに上場し、今後も成長が見込まれます。
野村キャピタルによるレスプリ買収
2022年6月、メンズスタイリング剤やコスメ用品LIPPSを手掛けるレスプリを野村キャピタルが買収しました。
譲渡企業 | レスプリ |
投資ファンド | 野村キャピタル |
手法・成約 | 資本提携 |
近年は男性の美容意識が高まり、リップスはメンズサロンやコスメの企画や販売事業の拡大を目指しています。
野村キャピタルと資本提携を結び、社名もレスプリからリップスに変更して資金や人的なサポートを受け、メンズ事業拡大を目指します。
参考資料:野村キャピタル
投資ファンド以外で会社をM&Aする方法
投資ファンド以外のM&Aとして、オークションも近年注目を集めています。
オークションによるM&Aは、入札時にそれぞれの企業が条件提示をするので、買収を希望する企業の金額や買収後の方針などを一度に比較できるのがメリットです。
しかし、オークションは情報漏れのリスクが高いです。M&Aは売却相手に自社の極秘情報を開示するため、社内でも一部の人員で進められます。ところが、オークションは一度に多数の買収候補に企業情報を公開するため、複数企業に内部事情を知られることになります。
また、投資ファンドは仲介会社を通して進めるのが一般的ですが、オークション型M&Aのサポートを取り扱うサービスは少ないです。専門家の意見を取り入れにくいのもデメリットと言えるでしょう。
ただオークションは、最高値を付けた企業が買収できるのではなく、売却企業の経営方針や社員への対応などの条件も考慮できるのも特徴です。買収する会社も他社には競り負けないように、価格面以外にもM&Aの目的や条件など真撃に向き合ってもらいやすく、気持ちのよい取引をしやすいです。
まとめ 投資ファンドによるM&Aを成功させるには現状把握と専門家への相談が大切
投資ファンドによるM&Aは、事業拡大や新規事業発足のための資金調達ができるうえに、経営ノウハウを学べるなど企業にとってのメリットも多いです。
ただ、M&Aを成功させるには自社の企業価値をあらかじめ算定し、適性な価格で売却するのが大切です。
また、ファンドによるM&Aをしても経営がうまくいかなかった場合は倒産するリスクもあるため、どの投資ファンドと取引するのか慎重に選択する必要があります。
投資ファンドの見極めや交渉や手続きは複雑なので、専門家への相談がM&Aの成功を左右すると言っても過言ではありません。
まずは相性のよい専門家を見つけることから始めてみましょう。
ディスクリプション
後継者不在や業績不振などの理由で、会社の売却を検討する方に向けて投資ファンドとは何かを解説します。M&Aにおける投資ファンドのメリットやデメリット、投資ファンド以外の売却方法も掲載しています。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。