第二会社方式の仕組み、メリット・デメリットを徹底解説!支援制度の利用も可能
現代の厳しいビジネス環境下において、事業再生は多くの企業にとって切実な課題です。その解決策の一つとして、第二会社方式があります。
第二会社方式は、経営資源を効率的に再配置し、価値ある事業を存続させながら企業の再生を図るものです。旧会社の有望な部門を新会社に移し収益性を確保する一方で、不採算部門と過剰債務を抱える旧会社を清算することができます。
一見すると画期的な戦略である第二会社方式には、メリットとともにデメリットも存在します。
本記事では、第二会社方式の仕組みを徹底解説し、税負担の軽減措置や国からの支援制度の利用可能性など、検討するうえでのポイントを明らかにします。さらに、第二会社方式を成功へ導くスキームと注意点を具体的に解説し、企業再生の現実的な手法としての可能性を探っていきます。
第二会社方式とは?
第二会社方式とは、経営難に直面している企業が、有望な事業部門を新たに設立する別会社に移転し、残りの不採算部門とともに過剰債務を抱える旧会社を清算する事業再生の手法です。
この方式は、債務超過の状況下でも価値ある事業を継続させることを目的としており、経営資源の効率的な再配置により企業の再生を図ります。特に、債務超過となった企業が収益性の高い優良事業のみを選別して別会社へ移し、不採算事業が残る旧会社は特別清算の手続きを経て法人格を消滅させます。
この手法は、単に企業を存続させるだけでなく、事業の持続可能性を考慮した上での選択肢です。また、第二会社方式は、適切な事業再生計画として認定されることにより、税負担の軽減措置や必要な許認可の承継など、国からの支援を受けることが可能です。
直接免除方式との違い
直接免除方式は、債務を直接的に免除する方法であり、免除された債務の額が債務免除益として課税対象になります。一方、第二会社方式では、特別清算を行うことで債務免除益が発生しない点が大きな違いです。
繰越欠損金が多額にある場合や、債務免除益が発生しても課税に至らないケースでは直接免除方式が選ばれることがありますが、債務免除益が高額になる場合には第二会社方式を採用することが一般的です。
第二会社方式のスポンサー型
第二会社方式のスポンサー型では、優良部門取得の対価を支払うことができるスポンサー企業に事業を承継させる方法があります。
この方式を採用する主な理由は、スポンサーにとって、不採算部門やその債務を引き継がずに優良事業のみを取得できるメリットがあるためです。また、優良事業がスポンサー企業の事業とシナジー効果を発揮する可能性がある場合、スポンサーの協力を得やすくなります。
第二会社方式における特別清算
特別清算とは、第二会社方式を利用する際に行われるプロセスで、既存の会社の法人格を消滅させることです。この手続きを行う主な目的は、赤字事業を清算し、優良事業を存続させることにあります。
特別清算を行うことで、債務免除益の課税を回避できるため、税制面でのメリットがあります。また、特別清算は、債権者にとっても安全に税務上の損金処理が可能になるため、双方にメリットがある手法と言えます。
第二会社方式の2つのスキーム
経済環境の変化や経営上の困難に直面した企業が再生への一歩を踏み出す際、第二会社方式は有力な選択肢として注目されています。
この方式には主に「会社分割」と「事業譲渡」の2つのスキームが存在し、それぞれに独自のメリットと適用条件があります。これらのスキームを適切に活用することで、企業は債務超過からの脱却や事業の効率化、さらには経営資源の最適化を図ることが可能となります。
ここでは、これら2つのスキームがどのように企業再生に貢献するのか、その概要と具体的な適用方法について解説します。
会社分割
会社分割は、経営戦略における重要な選択肢の一つであり、企業がその構造を再編し、新たな市場や機会へ適応する手段を提供します。
会社分割には、主に「新設分割」と「吸収分割」という2つの方法があり、それぞれが企業に異なる形での事業の再配置を可能にします。
新設分割では、既存の事業の一部から新しい会社が設立され、特定の資産、負債、従業員が新会社に移されます。この方法は、企業が特定の事業部門に焦点を当て、それを成長させるための独立した環境を提供したい場合に適しています。
一方、吸収分割では、事業の一部が別の既存の会社に吸収されるため、より統合された事業運営が可能になります。
会社分割の利点は多岐にわたります。例えば、事業の特定領域に注力できることや、不採算部門を切り離して全体の効率を向上させることができる点などが挙げられます。また、財務面でのメリットとして、資産と負債の明確な分離が可能となり、事業の透明性が高まります。これによって投資家からの信頼を得やすくなり、資金調達の機会が増えることも期待できます。
しかし、会社分割を進める際にはいくつかの課題にも直面します。例えば、事業の分離によって生じる経営資源の重複や、分割プロセスに伴うコスト、さらにはステークホルダーとの関係管理など、細心の注意を払う必要があります。特に、従業員の移動や契約の移管に際しては、関係者の理解と協力が不可欠です。
事業譲渡
事業譲渡は、企業再生の一環として債務超過に陥った企業が選択する方法の一つです。事業譲渡は、収益性のある事業を別の新設会社に移し、不採算部門は旧会社に残します。これにより、有望な事業を継続させる一方で、不採算部門から生じていた負担から解放されることが可能になります。
事業譲渡は、旧会社が保有する事業の中から引き継ぎたい要素を選定し、それらを新会社に個別に譲渡することから始まります。これには、取引先との契約、従業員との契約、および各種資産などが含まれます。事業譲渡の利点は、必要な部分のみを選択的に引き継ぐことができるため、新会社は不要な債務や負担を負うことなく、事業をスムーズに継続できる点にあります。
一方で、事業譲渡には手間がかかるというデメリットも存在します。各契約ごとに相手方の同意を取る必要があり、これがプロセスの複雑化と時間のかかる要因となります。また、新会社で事業を継続するためには、新たな許認可の取得が必要になる場合が多く、これらも時間と労力を要します。
第二会社方式のメリット
第二会社方式は、経営危機に直面した企業が再生を目指す際の有効な手段として知られています。第二会社方式は、優良な事業だけを新設する会社に移し、不採算事業や過剰債務は旧会社に残して清算します。この手法を活用することで、企業は経営の健全化を図ることができ、新たなスタートを切ることが可能になります。
第二会社方式のメリットには主に以下の3点があります。
- 事業再生を実現できる可能性が高い
- 税金面での軽減措置がある
- スポンサーの支援が受けやすい
経営者は、第二会社方式のメリットを十分に理解し、自社の状況に合った最適な再生計画を策定することが求められます。
事業再生を実現できる可能性が高い
経営危機に直面した企業が新たなスタートを切るための有効な戦略として、第二会社方式は重要な選択肢です。この方式では、優良な事業だけを選び出して新会社に移行することで、不採算部門の負担から解放され、事業再生へとつながる可能性が高くなります。
企業は、不要な資産や負債を承継することなく、経営資源を再配分し、効率化と収益性の向上を目指すことができます。第二会社方式においては、特に経営資源の集中と効率化が、事業再生の成功に直結する要素となります。
税金面での軽減措置がある
税金面での軽減措置は第二会社方式の大きなメリットです。金融機関が債権放棄を行う際、これが特別清算や破産手続きの中で処理されることになります。
これにより、金融機関に対する寄付金課税のリスクがなくなり、損金処理が可能になります。また、旧会社においては、特別清算や破産手続きの枠内で処理されることで新会社は債務免除益課税の影響を受けないため、債務免除益に対する課税の心配がなくなります。
スポンサーの支援が受けやすい
第二会社方式では、スポンサーの支援を受けられる可能性が高まります。これは、再生可能な収益性の高い事業だけを選んで新会社に移転し、問題を抱える不採算事業は旧会社に残すことで、新会社がより魅力的な投資対象となるためです。
法的整理手続を用いない私的整理では、金融機関が「任意」で債権を放棄する必要があり、しばしば慎重な判断が求められます。しかし、第二会社方式を利用することで、この債権放棄が特別清算や破産といった法的整理手続の中で行われるため、金融機関は債権放棄を行いやすくなります。これは、債権放棄によって生じる寄付金課税のリスクが法的手続きによって回避できるため、金融機関にとっても大きなメリットです。
加えて、債権放棄を受けた際に生じる債務免除益に関しても、第二会社方式を用いた場合、旧会社がそれに対する税負担を特別清算や破産手続きの中で処理できるため、新会社はその課税について心配する必要がありません。このように、新会社は旧会社の債務やその他の問題から解放されることで、新規の借入れも得やすくなります。
第二会社方式のデメリット
第二会社方式における事業再生は様々な利点がある一方で、複数のデメリットも存在します。
ここでは、主な4つのデメリットについて解説します。
- 新たな許認可の取得に時間・コストがかかる
- 金融機関から新たな融資を受けにくくなる
- 資産の移転や会社設立のコストがかかる
- 良いスポンサーが見つからない可能性もある
新たな許認可の取得に時間・コストがかかる
第二会社方式を選択し、新会社に移管される事業が特定の許認可を必要とする業種の場合、それらの許認可の新規取得には時間とコストがかかります。
旅館営業や建設業などは許認可が必要となる典型例です。許認可が簡単に移転できない性質のものでは、新会社がそれらの許認可を取得するまでの空白期間が発生する可能性があり、それが事業継続に悪影響を及ぼすリスクがあります。
また、許認可取得に向けた準備と申請には、法務や行政手続きに関する専門知識を要するため、専門家への依頼などによる追加費用が発生することも考慮しなければなりません。
金融機関から新たな融資を受けにくくなる
第二会社方式では、債務超過状態に陥った旧会社から有望な事業を切り離し、新会社へと移行することにより、経営再建を目指します。
しかし、第二会社方式を採用しても、金融機関から新たな融資を受けにくくなることがあります。その理由は、債務超過という旧会社の状態は変わらず、債権者から見れば単に事業体が変わっただけでリスクはそのまま残るためです。
新たな資金調達の道を探す際には、従来の金融機関以外の新しいスポンサーや投資家を見つける必要があるでしょう。
資産の移転や会社設立のコストがかかる
第二会社方式は、有望な事業の再生のための有効な戦略ではありますが、資産の移転や新会社設立に伴うコストは避けられません。特に、不動産などの重要な資産を新会社に移転する際には、不動産取得税や登記に関わる登録免許税などの税金がかかります。これらは、新たなスタートを切る上で避けて通れない経費と言えるでしょう。
また、新会社設立に伴うコストも無視できません。登録免許税や手続きに必要な収入印紙代、場合によっては司法書士や弁護士に支払う手数料など、様々な初期費用が必要となります。これらのコストは、会社の規模や移転する資産の性質によって大きく異なるため、事業再生を計画する際にはこれらの出費も含めて慎重な財務計画を立てることが重要です。
良いスポンサーが見つからない可能性もある
第二会社方式においては、新会社は優良事業のみを引き継ぐことで収益性の見通しが良くなるため、一般的にスポンサーや出資者からの支援を得やすいとされています。
しかし、事業の内容や市場の状況、事業承継の条件などによっては、新会社を支援してくれる良いスポンサーを見つけることが困難な場合もあります。特に、再生可能な事業であっても将来性や収益性に疑問符がつくケースでは、出資者を見つけるのが難しいでしょう。
第二会社方式に対する国の支援制度
経営難に陥った中小企業を救済するために、政府は「中小企業承継事業再生計画」をはじめとした支援制度を設けています。これらの制度は、事業再生に積極的な意欲を持ち、かつ将来性のある事業を有している中小企業を対象としています。
中小企業再生支援協議会は、これらの企業に対して、第二会社方式を含む多角的な事業再生支援を行います。この支援には、経営コンサルティングや財務アドバイス、場合によっては資金援助なども含まれます。
国の支援を受けるためには、企業は厳格な認定要件を満たさなければなりません。これには事業計画の提出が必要とされ、その事業計画が実現可能であることを証明しなければなりません。
支援内容
第二会社方式において、国からの支援は、経済的な苦境に立たされている中小企業が事業再生を実現するための大きな助けとなります。
以下では、主要な支援内容を説明します。
営業上必要な許認可の承継
改正産業活力再生特別措置法に基づき、中小企業承継事業再生計画が認定された場合、第二会社は旧会社が保有していた許認可(旅館業許可や建設業許可など)を承継することが可能になります。これにより、新会社の立ち上げがスムーズに進むと共に、必要な事業運営が円滑に行えるようになります。
税負担の軽減措置
国の認定を受けた企業は、第二会社を設立する際にかかる登録免許税や、第二会社に不動産を移転する際にかかる登録免許税が軽減されます。この措置は、再生計画に伴う初期コストの負担を大幅に減少させることができるため、資金繰りにも余裕が生まれます。
再生に必要な金融支援
事業再生に必要な資金、例えば事業取得のための対価や設備資金、運転資金等について金融支援が提供されます。これには日本政策金融公庫による低利の融資制度や、中小企業信用保険法の特例、中小企業投資育成株式会社法の特例が含まれることがあります。
これらの支援は、事業再生への道を歩む企業にとって、新たなスタートを切るための重要な基盤となります。
認定要件
第二会社方式における国の支援を受けるためには、一定の認定要件を満たす必要があります。これらの要件は事業の持続可能性を確保し、事業再生を目指す経営者に対して適正な支援を行うためのものです。
認定を受けるための要件は以下の通りです。
事業の承継後の清算
特別清算または破産手続きを経て、旧会社を事業承継後2年以内に清算します。これにより、新しい経営体制のもとで事業を継続することが認められます。
債権者調整プロセス
公正な債権者調整プロセスを経て、全ての関係者の間で合意形成される必要があります。これには債権者への適切な通知や協議が含まれます。
許認可の保有または取得の見込み
事業継続に必要な許認可について、新会社が保有しているか、または取得する見込みがあるかどうかが求められます。
従業員の雇用継続
承継される事業に関わる従業員の8割以上を新会社でも雇用を継続することが条件となります。
これらの要件を満たすことは事業の承継にあたり、経営者が負うべき責任の一つとなります。また、事業譲渡や自己破産を避け、健全な事業運営を継続するためには、これらの認定要件を遵守することが不可欠です。
第二会社方式で注意すべきポイント
第二会社方式には、いくつかの注意すべきポイントがあります。
特に重要な点は
- 旧会社の代表者は新会社の代表者になれない
- 公的窓口や専門家への相談の上で検討する
- 債権者の利益を不当に害すること
の3つです。これらのポイントに注意し、適切な準備と計画を行うことが、第二会社方式による事業再生の成功につながります。
旧会社の代表者は新会社の代表者になれない
第二会社方式では、旧会社の代表者が新会社の経営に直接関わることは避けるべきです。旧新会社間の実質的同一性を避け、事業再生の正当性を保つために重要であるからです。
旧会社の代表者が新会社の取締役や株主になる代わりに、第三者や親族、従業員が新会社を経営することが一般的です。また、旧会社の代表者が新会社で顧問等として経営をサポートする場合でも、過大な報酬は避けるべきでしょう。
公的窓口や専門家への相談の上で検討する
第二会社方式を検討する際は、公的窓口や専門家への相談が不可欠です。債権者や株主の利害、将来の税金コストを法的・専門的視点から総合的に評価する必要があるためです。
これにより、企業再生を目指す経営者は、事業譲渡や経営者責任、自己破産のリスクを含め、第二会社方式のデメリットを正確に把握し、自社にとっての最適な手段は何かを判断することができます。専門家の意見を取り入れることで、より適切な決断が可能となります。
債権者の利益を不当に害すること
第二会社方式を選択する際、債権者の利益を不当に損なうことは避けなければなりません。事業譲渡や会社分割を進める上で、債権者の同意を得ることが法的要件であり、これを怠ると詐害行為とみなされるリスクがあります。
詐害行為に該当すると、M&A取引自体が無効となる可能性や、訴訟に発展する恐れがあるため、債権者の利益を考慮した上で慎重に手続きを進める必要があります。
旧会社の代表者が自己破産した場合について
第二会社方式を選択する際には、旧会社の代表者が自己破産する可能性があることも十分考慮すべきです。。第二会社方式では、優良な事業部門を新会社へ移転し、旧会社は清算や破産手続きに入ることがあります。
旧会社の代表者が会社の借り入れに連帯保証人として名を連ねている場合、旧会社が破産するとその責任が代表者に及ぶことになります。代表者が借入金の返済を担保できない場合、自己破産を余儀なくされることがあります。
このような状況を避けるためには、第二会社方式を選択する前に、借入金の連帯保証人としての責任や、事業移転後の財務状況について専門家に十分な相談を行うことが重要です。また、事業譲渡や会社分割を行う際には、債権者や株主などの関係者の同意を得ること、さらには税務上のデメリットや自己破産に関するリスクを慎重に検討することも必要です。
まとめ
第二会社方式は、経営危機にある企業が新たに事業を再生させる手段の一つです。メリットとして事業再生の可能性、税制上の軽減措置、スポンサー支援の受けやすさがある一方で、デメリットには許認可の取得コスト、新規融資の困難さ、資産移転コストの発生などがあります。
国からの支援制度も存在し、資金調達の面や税制上の優遇措置など、企業再生を後押しする内容が提供されています。しかし、これらの支援を最大限に活用するには、事前の準備と計画が不可欠です。
成功への鍵は、計画の初期段階から専門家への相談を積極的に行うことにあります。専門家のアドバイスは、メリットとデメリットのバランスを正確に理解し、事業再生のプロセス全体を通じて最適な判断を下すための貴重な判断材料となります。また、専門家は、国の支援制度の詳細や適用条件を熟知しており、その活用方法についても指導してくれます。
専門家の知識と経験を最大限に活用することで、企業は再生への道をより確実なものにすることができるでしょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。