スモールM&Aの定義とは?メリット、デメリット、最適な相談先の選び方を徹底解説!

近年、M&A(エムアンドエー)は企業の成長や競争力の向上を図る手段として注目を集めています。M&Aの中でも、比較的小規模の企業や事業間で実施されるM&Aを「スモールM&A」と呼びます。

日本において大企業はほんの一握りで、大多数が中小企業に分類されます。特に家族や個人で経営しているような小規模企業では、後継者不足の問題を抱えている経営者も少なくありません。こうした企業にとって、スモールM&Aは事業継承の手段として有効となります。

今回この記事では、

  • スモールM&Aのメリット・デメリット
  • スモールM&Aの流れ
  • スモールM&Aの相談先
  • スモールM&Aを進める上での注意点

など全般的にわかりやすく解説します。

スモールM&Aとは?

M&Aは「Mergers(合併)and Acquisitions(買収)」を略した言葉です。その中でも、特に小規模の事業者が実施するM&Aを「スモールM&A」と呼びます。

「スモール」の定義は正式に定められているわけではありませんが、ここではイメージの為売り手と買い手の双方もしくは片方が、下記のいずれかに該当する場合を「スモールM&A」を指すこととします。

  • 小規模事業や個人事業
  • 譲渡金額が1億円以下
  • 売上高1億円以下
  • 従業員20名以下

通常、スモールM&Aは、後継者がいない小さな会社や店舗などで利用されることが多くなっています。

スモールM&Aの案件事例

スモールM&Aの典型的な例としては、個人で運営する店舗やWebサイトの売買が挙げられます。一般的には、個人経営の飲食店やサロン、学習塾など、近所の顧客をメインターゲットにした店舗が該当します。

また、デジタル市場の発展により、Webサイトやネットショップの売買も増えています。こうした業務形態では実店舗を有しませんが、譲渡額1億円を下回ることが多いため、スモールM&Aに当てはまると言えます。

スモールM&Aの成約事例

以下にスモールM&Aの成約事例を紹介いたします。

事業を始めようとしている皆様はこちらを是非参考にしてください。

1. 地域の個人経営パン屋とフランチャイズベーカリーチェーン

長年にわたり地域で愛されてきた個人経営のパン屋は、後継者が見つからず、廃業を検討していました。しかし、地域の評判と特定のパンメニューがフランチャイズベーカリーチェーンの目に留まり、M&Aが成立しました。買収後、店舗は改装され、チェーンの標準メニューが加わりましたが、地元で人気のあったパンは残され、地域の顧客層が引き続き利用するようになりました。また、従業員もそのまま雇用され、パン屋としての伝統は守られました。

2. 家族経営のクリーニング店と同業のライバル企業

後継者がいない家族経営のクリーニング店は、地域での競争も激しくなり、経営が厳しくなっていました。同地域内で展開するクリーニングチェーンが、この店の立地や地域の評判に注目し、事業買収を決断しました。買収後、店舗のオペレーションはチェーンの標準化されたシステムに移行し、最新のクリーニング技術が導入されました。売り手の家族は事業譲渡によって経営から退きましたが、従業員は引き続き働いており、サービスの品質も向上しました。

3. 個人経営美容サロンと全国展開の美容フランチャイズ

人気のあった個人経営の美容サロンは、オーナーが引退を検討し始めたタイミングで全国展開のフランチャイズから買収提案を受けました。オーナーは顧客が引き続きサービスを受けられることを条件にM&Aに応じました。買収後、サロンはフランチャイズの支援を受けて最新の設備と技術が導入され、顧客満足度も向上しました。サロンの従業員は新たな研修を受け、サービスの提供方法も改善され、事業はさらに発展しました。

4. 家族経営の飲食店と地域チェーン

地元に愛されてきた家族経営のレストランは、オーナーが健康上の問題から事業を継続することが難しくなり、地域のチェーンに事業を譲渡しました。買収後、チェーンはメニューを拡充し、従業員の待遇を改善することで、顧客層を広げることに成功しました。オーナーは退職しましたが、レストランの味や雰囲気は大きく変わらず、顧客からも好評を得ています。

5. 小規模工務店と地元の建設会社

個人経営の工務店は、長年にわたって地元で活躍していましたが、後継者がいないことから廃業を検討していました。地元の中規模建設会社がその技術力と顧客基盤に注目し、M&Aを実施。買収後、工務店の従業員は引き続き同じプロジェクトに従事し、新たな設備とリソースを提供されたことで、工事の効率が向上しました。これにより、地域での事業拡大にもつながりました。

スモールM&Aが増加している背景とは?

近年、スモールM&Aが増加している背景としては、次のようなものが挙げられます。

  • 中小企業の後継者問題
  • 成長戦略・規模拡大・生産性向上

以下、それぞれ詳しくみていきましょう。

中小企業の後継者問題

近年、中小企業における経営者の高齢化が深刻な問題となっています。

中小企業庁がまとめた「2023年版中小企業白書」によると、2000年時点の経営者年齢のピークは「50〜54歳」だったのに対し、2020年には60〜74歳まで幅広く分散しています。団塊世代の年齢上昇に伴い、経営者が次々に引退し始めていることが考えられています。ただし、60代の経営者で後継者が決まっているのは48.7%と半数に止まっています。

なお、黒字でありながら廃業を選択する中小企業は2022年で54.9%と半数を上回ります。こうしたデータから、後継者不足により黒字でも廃業の選択に至る企業も多いと考えられます。

参照元:中小企業庁「2023年版中小企業白書」

成長戦略・規模拡大・生産性向上

近年、M&Aの目的の多様化に伴い、プラスのイメージが高まっています。中小企業庁は、成長志向型の積極的なスモールM&Aも重要な選択肢となるとしています。

成長志向型のM&Aとは、売り手側がさらなる成長を目的に戦略的に行うものです。小規模の事業者が持つ経営リソースには限りがあり、自力での事業拡大には限界がありますが、M&Aで大手企業の傘下に入れば、経営の安定化を図ることが可能となります。

実際、中小企業庁のM&A推進計画により、中小企業のM&Aは増加傾向にあります。これには成長志向型のM&Aの増加も寄与していると考えられます。

スモールM&Aのメリット

中小企業の経営者がスモールM&Aを実施する主なメリットとしては、次の3つが挙げられます。
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  • 後継者問題を解決できる
  • 個人保証や担保が引き継げる
  • 起業の手間やコストを省略できる

後継者問題を解決できる

中小企業の経営者の高齢化に伴い、事業承継を検討する経営者が増えています。しかし、個人経営や家族経営の企業では、身内や従業員の中に後継者を見つけられないことも少なくありません。

後継者が見つからないまま廃業となってしまうと、これまでに培ってきた経営ノウハウや取引先、顧客などを失うことになります。雇用している従業員も、廃業に伴って失業してしまいます。

こうした企業では、廃業に代わる選択肢としてM&Aを検討できます。M&Aによって、より幅広い範囲から後継者を探し出し、事業を引き継いでもらうことで、経営資源を無駄にせずに済みます。

個人保証や担保が引き継げる

小規模企業では、金融機関からの借入などにおいて、経営者個人が個人保証や担保を背負っていることがあります。M&Aによって事業を承継すれば、個人保証や担保を買い手企業に引き継ぐことが可能です。経営者は重い個人負担から解放されることになります。

また、運営する事業の価値が高ければ、創業者利益を得られる可能性があります。創業者は事業や株式の売却によって得た利益をリタイア後の生活資金にしたり、他の事業の操業資金に当てたりできます。

起業の手間やコストを省略できる

買い手企業にとっては、スモールM&Aにより、起業の手間やコストを省略できるメリットがあります。通常に比べて買収額を抑えられることもあり、起業を考える個人が買い手となるケースも少なくありません。

一般的に新たに事業を立ち上げる際には、1からノウハウや取引先、顧客を築き上げていく必要があるため、多大な時間とコストがかかります。特に、新たな市場や業界に参入する場合、失敗のリスクが高くなり、それに伴って起業のハードルも一段と高くなります。

既存事業をM&Aによって承継すれば、すでに利益が出ている黒字事業や経営ノウハウ、顧客を引き継ぐことが可能です。

スモールM&Aのデメリット

一方、中小企業の経営者がスモールM&Aを実施する主なデメリットとしては、次の3つが挙げられます。

  • 買い手企業を見つけることが難しい
  • 仲介会社へ支払う手数料の負担が大きい
  • 事業承継後は買い手企業へ経営権が移転する

買い手企業を見つけることが難しい

スモールM&Aは通常のM&Aよりも規模が小さいため、売り手側だけでなく、買い手側も規模の小さな事業者や個人である可能性が高まります。このため、買い手側の視点から見ても、金額面でのハードルは低いと言えるでしょう。

ただし、売り手側が希望する条件によっては、買い手企業を見つけることが難しかったり、時間がかかったりする場合があります。譲渡金額や譲渡後の従業員の雇用引き継ぎなど、条件面での擦り合わせがうまくいかず、M&Aが破談になるケースも少なくありません。

仲介会社へ支払う手数料の負担が大きい

M&Aは企業の機密情報をやりとりする必要があるため、M&A仲介会社や専門家などに仲介を依頼する経営者がほとんどです。ただし、M&A仲介会社では、M&Aが成立したときの成功報酬(譲渡金額の数%)に加え、仲介業務に関する月額報酬や成約しなくても発生する着手金など、複数の手数料を設定していることが多くあります。

スモールM&Aは譲渡金額が通常よりも小さいため、譲渡金額に対する手数料の負担が相対的に大きくなってしまうデメリットがあります。

事業承継後は買い手企業へ経営権が移転する

スモールM&Aに限らず、M&Aを実施することで、事業の経営権は売り手から買い手に移行します。原則として、事業の経営方針や従業員の待遇などについては、買い手に決定権が移ることになります。

これにより、売り手は事業のやり方に口出しすることが難しくなります。M&A後に意見の相違に気づくようなことがないよう、買い手企業の情報収集や選定、引き継ぎには慎重になる必要があります。特に、意見の擦り合わせには時間をかけ、お互いの条件をしっかりと理解した上でM&Aを実施するようにしましょう。

スモールM&Aのスキーム

スモールM&Aでよく使われるスキームは「株式譲渡」と「事業譲渡」の2種類です。ここでは、それぞれのスキームの概要、実施する際のメリットとデメリットについて解説します。

株式譲渡

株式譲渡とは、売り手企業の株主が保有する株式を買い手企業へ譲渡するM&Aのスキームです。買い手企業は株式の対価として金銭を支払います。

株式譲渡のメリットとデメリットは次の通りです。

メリット デメリット
  • 手続きが簡便
  • 会社は原則そのまま存続する
  • 個人株主が得た所得には所得税
  • 不要な債務を引き継ぐリスクがある
  • 株主をまとめるのに時間がかかる
  • シナジー効果が得にくい

一般的に株式譲渡では、事業の一部ではなく、売り手の会社そのものを買い手に引き継ぐことになります。売り手会社は原則としてそのまま存続するため、比較的簡便な手続きで済みます。

売り手側には株主の所得税を抑えられるメリットがありますが、買い手側には不要な債務まで引き継いでしまうリスクがあります。M&A後も売り手企業の法人格が残るため、シナジー効果が得にくいこともデメリットとして挙げられます。

事業譲渡

事業譲渡とは、売り手側の事業の全部または一部を買い手側に譲渡するM&Aのスキームです。買い手企業は対価として金銭を支払います。

事業譲渡のメリットとデメリットは次の通りです。

メリット デメリット
  • 必要なもののみ引き継げる
  • 不要な債務を引き継ぐリスクがない
  • 契約や資産ごとに手続きが必要

一般的に事業譲渡では、売り手が運営する事業の必要な部分のみを選定して、買い手に引き継ぐことになります。個別の事業、資産、契約など、買い手の経営に必要な部分を選ぶことができるため、不要な債務を負ってしまうリスクがありません。

ただし、引き継ぐ部分については、個別に債権者や取引先の同意を得て、契約を結び直す必要があります。このため、株式譲渡よりも手続きは煩雑になってしまいがちです。

スモールM&Aの流れ

ここからは、実際にスモールM&Aを実施する際の基本的な流れについて解説します。

  • 1.案件を探す
  • 2.秘密保持契約の締結
  • 3.トップ面談〜基本合意書の締結
  • 4.デューデリジェンス
  • 5.条件交渉〜最終契約

1.案件を探す

案件の探し方としては、売り手と買い手の直接交渉のほか、仲介会社に依頼する方法とプラットフォームを活用する方法があります。M&Aを実施すること自体が重大な機密情報となるため、一般的には仲介を通して案件を探すことが多いでしょう。

売り手側は事業概要やM&A条件を記載した「ノンネーム」を作成し、条件にマッチする買い手を探していきます。買い手側がノンネームに興味を持てば、具体的な交渉に進んでいきます。

2.秘密保持契約の締結

売り手側の「ノンネーム」に興味を持った企業があれば、秘密保持契約を締結し、さらに詳細な情報の公開に進みます。秘密保持契約(NDA)は機密情報の漏洩を事前に防ぐ役割を持っています。

M&Aの実施を検討していること自体が重大な機密情報となるため、契約が破談になった場合でも、むやみに外部に公開されないよう慎重な対応が必要です。事前に秘密保持契約を結んでおけば、相手が情報を流出した際に損害賠償を請求することができます。

3.トップ面談〜基本合意書の締結

秘密保持契約を締結したら、トップ面談を実施します。トップ面談では、売り手と買い手双方のトップが実際に顔を合わせて、お互いの経営方針や優先順位を話し合います。

マッチング相手が決まったら、基本合意書を結ぶ前にトップ面談を実施します。ここで初めて、書面上のやりとりではなく、実際に顔を合わせることになります。トップ面談はあくまで「顔合わせ」であり、お互いの信頼関係を築く目的で行います。

トップ面談を経て、具体的な条件交渉に入っていきます。お互いが条件に合意できれば、基本合意書を締結します。基本合意書には法的拘束力はありませんが、今後のスケジュールや約束事を明確するために必要なステップです。

4.デューデリジェンス

最終契約に進む前に、買い手側が売り手側に対してデューデリジェンス(DD)を実施します。デューデリジェンスとは、買収監査とも呼ばれ、売り手企業が抱える問題点やリスクを洗い出す作業を指します。

買い手企業はM&A後も事業を継続していくことになるため、売り手企業の企業価値や経営実態を正確に把握しておく必要があります。ただし、デューデリジェンスは売り手と買い手の双方に負担がかかるため、あらかじめ基本合意書で調査範囲や期間を決めておくと良いでしょう。

5.条件交渉〜最終契約

デューデリジェンスの結果を踏まえ、買い手企業は最終的なM&Aの実施可否を検討します。ここで最終的な条件を交渉し、お互いの条件を擦り合わせていきます。双方が合意すれば最終契約に進むことになります。

最終契約では、M&Aの対象となる事業内容や譲渡価格、M&A後の対応などについて詳細に記した「最終契約書」を締結します。最終契約書は法的拘束力を持ち、これに基づいて実際の権利の移転(クロージング)を実施していきます。

スモールM&Aの相談先・探し方

M&Aは規模を問わず専門的な知識が必要となるため、あらかじめ専門家と相談しながら進めていくと安心です。ここでは、スモールM&Aにおける3つの相談先と探し方をご紹介します。

M&A仲介会社

スモールM&Aの相談先のひとつに「M&A仲介会社」があります。M&A仲介会社は、売り手と買い手のマッチングからM&Aの実現までの一連の流れをサポートする専門業者です。M&Aの規模を問わず、多くの企業が利用しています。

M&A仲介会社の利用には手数料がかかりますが、リスクを抑えられるメリットがあります。M&Aに関する専門的なアドバイスを受けたり、詳細なデューデリジェンスを実施したりすることができます。ただし、手数料の設定やプランは会社によって異なるため、あらかじめよく比較検討するようにしましょう。

専門家(公認会計士・税理士・弁護士)

スモールM&Aの実施には、税務・法務の知識が必要です。こうした知識が企業価値やリスクの評価、最終的な条件交渉を左右することもあるため、なるべく専門家を頼ることをおすすめします。

専門家としては公認会計士や税理士、弁護士などが挙げられます。税務や法務に関する業務について質の高いサポートを受けることができます。

ただし、士業の業務は幅広く、M&Aが本業ではない場合もあります。M&Aの知識と実績が豊富な専門家を選ぶようにしましょう。

事業承継・引継ぎ支援センター

スモールM&Aでは国が設置する公的な窓口を利用する手もあります。「事業承継・引継ぎ支援センター」では、スモールM&Aの相談を受け付けています。ただし、M&A仲介会社のように、手続きの代行や条件交渉までは網羅していません。

事業承継・引継ぎ支援センター公式ホームページ(には、多様な業界にまたがって複数の実績が掲載されています。選択肢のひとつとして確認しておくことをおすすめします。

参照:事業承継・引継ぎ支援センター

M&Aマッチングサイトに登録する

案件ごとの譲渡額が低くなりがちなスモールM&Aでは、M&Aマッチングサイトの利用を検討しましょう。M&A仲介会社よりも手数料が低く設定されていることが多く、取引で得た利益を最大限手元に残すことができます。

M&Aマッチングサイトの中には、個人での売買案件を中心に掲載されているサイトもあります。売り手と買い手の希望が比較的マッチしやすいため、まずは登録しておくことをおすすめします。

スモールM&Aを進める上での注意点

スモールM&Aを成功させるためには、次の3つの点に注意する必要があります。

  • 実績が豊富なアドバイザーに相談する
  • 相手企業の情報収集・選定を慎重に行う
  • 従業員の雇用環境が変わることへの理解

以下、ひとつずつ詳しく説明します。

実績が豊富なアドバイザーに相談する

M&Aにはさまざまな種類があり、スキームや規模によって手続きや必要な知識は異なります。特に、大手企業同士の大規模なM&AとスモールM&Aでは、留意するポイントや進め方が違うため、アドバイザーの過去の実績をよく確認しておきましょう。なるべくスモールM&Aに特化したアドバイザーを選び、希望する業界での実績が豊富かどうかも確認しておくと安心です。

また、法務や税務における専門知識の有無も重要なチェックポイントです。必要に応じて、公認会計士や税理士、弁護士などの資格を保有しているアドバイザーを選ぶと良いでしょう。

相手企業の情報収集・選定を慎重に行う

M&Aでは売り手・買い手ともに相手企業の選定が非常に重要です。一般的には、M&A仲介会社やアドバイザーに複数の候補を出してもらい、比較検討していく流れになります。

スモールM&Aは譲渡額が比較的低いため、マッチング候補の選定から成約までかなりスピーディーに進むことがあります。しかし、相手の言葉を鵜呑みにして軽率に進めてしまうと、M&A後に問題が出てくる可能性があります。

相手企業を選定する際には、信頼性やM&A後の経営方針などをよく確認しておきましょう。売り手側はM&A後には事業運営に意見しにくくなります。一方、買い手側は売り手側の意向を汲み取りつつも、事業継続に適した運営をしなければなりません。お互いの事情を把握しながら、慎重に意見を擦り合わせるようにしましょう。

従業員の雇用環境が変わることへの理解

M&A後は経営の舵取りをするトップが入れ替わるため、従業員の労働環境も大きく変わる可能性があります。特にスモールM&Aでは、事業規模が小さいことが多く、従業員の働き方にも影響が出てしまいがちです。売り手・買い手ともに従業員の取り扱いには留意する必要があります。

後継者問題の解決などを目的としたM&Aである場合、売り手が従業員の承継を希望することが多いでしょう。従業員を引き継ぐことが決まったとしても、M&A後の取り扱いは慎重に決定すべきです。M&A後に従業員がストレスを抱えて大量に離職するような事態にならないよう、あらかじめ働き方や評価制度などを従業員に浸透させておくことをおすすめします。

まとめ

スモールM&Aを実施することで、売り手は後継者問題や個人保証の負担から解放され、買い手は企業の手間やコストを省略できるメリットがあります。一方、マッチングが難航する可能性があるほか、仲介会社へ支払う手数料の負担も大きくなってしまいがちです。

M&A後は売り手の経営権が買い手に移転するため、事業リスクの洗い出しや従業員の取り扱いなどについては特に慎重な判断が必要です。判断に迷う場合や専門的な知識に不安がある場合は、スモールM&Aの実績が豊富なアドバイザーに相談することをおすすめします。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。