株式譲渡にかかる税金はいくら?課税の仕組みや計算方法を解説
中小企業のM&Aにおいて、株式譲渡は最も一般的な手法の1つです。株式譲渡では、譲渡企業の株式の半数以上を譲受企業が取得すると、経営権が移行します。
株式譲渡により、譲渡側の経営者は譲渡所得を得ることができます。多くの経営者は、最善のリタイア手段としてこの方法を利用しています。
ただし、株式を売却して得る譲渡所得には税金がかかります。本記事では、株式譲渡に伴う税金の種類とその計算方法について詳しく説明します。
株式譲渡における税金の対象
株式投資によって得られる利益には、配当金と譲渡益の2種類があります。配当金は会社から保有株数に応じて配分されるもので、譲渡益は株式を売却した際に得られる利益のことです。これらはどちらも課税対象になります。
株式譲渡について具体的に見てみると、譲渡価格から取得費や手数料といった必要経費を差し引いた金額が譲渡益にあたります。この譲渡益に対し、個人の場合と法人の場合で、それぞれ該当する種類の税金が課せられるのです。
個人の場合は所得税、住民税に加え、2037年までの間は復興特別所得税が上乗せされます。法人の場合は法人税等が課されます。また、親族間での株式譲渡など、相続や贈与と見なされる場合には、別途相続税や贈与税の対象となる場合もあります。
いずれにしても、株式譲渡によって得た譲渡益に対しては複数の税金が課せられることを覚えておきましょう。
株式譲渡にかかる税金の種類
株式譲渡にかかる税金には、次の5つがあります。
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
- 相続税・贈与税
- 法人税等
これらの税金は、株式譲渡によって得られる所得に対して算出され課されるものであり、譲渡時に注意すべき重要なポイントです。
所得税
所得税は、株式譲渡で譲渡益を得る個人を対象に課される国税です。
譲渡益に対して15%の税率が適用されますが、一定の条件下では非課税となる場合もあります。所得税は年末調整や確定申告の際に計算・申告し、所得に応じた税率で納められます。
住民税
住民税も、株式譲渡で譲渡益を得る個人が対象で、所得税とは異なり、地方税に分類されます。ただし、所得金額が一定以下の場合は、非課税となる場合があります。
住民税は、確定申告の際に所得金額を申告し、年度ごとに自治体に納めます。住民税の税率は5%なので、所得税と合わせて20%と覚えておくとよいでしょう。
復興特別所得税
復興特別所得税は、東日本大震災の復興財源として導入されました。この税金は2013年から2037年までの間、課される予定です。具体的には、所得税の2.1%が復興特別所得税として上乗せされます。このように、復興特別所得税は東日本大震災からの復興支援を目的としているため、期間や税率が特別に設定されているのです。
出典:国税庁
相続税・贈与税
相続税は、遺産を受け取る際に生じる税金で、贈与税は贈与を受ける際に課される税金です。これらの税金は、財産の移動に伴って課されるものなので、所得税とは別に支払わなければなりません。相続税や贈与税は、財産の公平な再分配を目的としており、遺産や贈与の額に応じて税率が段階的に変動します。また、相続税及び贈与税には基礎控除額が設定されており、一定以上の額の相続や贈与を受けない限り、税金を支払う必要はありません。
法人税等
法人税は、企業が得た利益に対して課される税金です。つまり、企業が事業を通じて得た所得に対して支払わなければなりません。また、法人税以外にも、法人事業税や法人住民税が課税されます。株式譲渡にかかる法人税の税率は30~35%と、個人よりも高くなります。
株式譲渡にかかる税金の計算方法
株式譲渡にかかる税金は、譲渡所得を対象に課されます。株式譲渡による所得は、譲渡価額から取得価額を差し引いて算出されます。具体的には、まず譲渡所得を算出し、その後個人の場合は所得税と住民税を計算します。株式の譲渡益は分離課税のため、所得金額にかかわらず税率は一定になります。
株式取得費の計算方法
株式取得費とは、株式を取得した際の価格、すなわち取得価額を指します。取得価額は、取得した株式の数とその時点での1株あたりの価格を掛け合わせることで求められます。
例)
- 企業Aが企業Bの株式の50%を取得することを計画
- 企業Aは、企業Bの株式購入代金として1,000万円を支払うことに合意
- 証券会社の手数料として50,000円、法律顧問費用として20,000円が発生
この場合、株式取得費は以下のように計算されます。
- 株式購入代金:1,000万円
- 証券会社の手数料:50,000円
- 法律顧問費用:20,000円
- 株式取得費合計:1,000万円 + 5万円 + 2万円 = 1,007万円
このように、取得時に証券会社に支払う手数料も考慮に入れます。
これらを全て加算したものが、株式取得費なのです。株式取得費は、将来株式を売却する際に譲渡益を計算するための重要な要素であるため、正確に把握しておくようにしましょう。
株式所得税の計算方法
株式所得税は、売却益(譲渡益)に税率を掛けることで求められます。まず、売却益は株式の売却価額から取得費を引いたもので、この金額に対して課税されます。
次に税率ですが、株式の譲渡益に対する税率は個人の場合は20%(所得税15%+住民税5%)が一般的です。ただし、2037年までは復興特別所得税も課せられることを忘れないようにしましょう。また、法人の場合は個人とは税率が異なる点にも注意が必要です。
このように、売却益に税率を掛けることで、株式所得税が計算できます。ただし、株式譲渡所得が一定額以下の場合は、非課税措置が適用されることもあるので、注意が必要です。
上場企業・非上場企業の税率に違いはある?
上場企業と非上場企業のどちらであっても、基本的には税率自体に違いはありません。ただし、非上場企業の株式は流動性が低く、評価額の算定が難しいため、取引時における価格設定や税務処理に違いが生じます。
いずれにしても、上場企業でも非上場企業でも、課される税金の額には差があまりないことを覚えておくことが重要です。どちらの企業に投資する場合も、税金対策を考慮しつつ、適切な判断を行いましょう。
株式譲渡に関する税金の特例制度
ここまで株式譲渡にかかる税金について詳しく見てきました。譲渡益が課税対象であることはわかりましたが、できることならば節税したいと考える人も多いでしょう。
そこでここでは、株式譲渡に関する税金の特例制度として以下の2点を紹介します。
- 事業承継税制:事業を相続・贈与する際の税金を軽減・免除する制度。家族企業の継承や経営の持続性を支援
- 取得費加算:譲渡時の譲渡所得税の算出において、株式を相続した際に支払った相続税額を取得費に加算する制度
事業承継税制
事業承継税制は、事業をスムーズに承継させるための税制です。この制度を利用するには、以下の4つの要件を満たす必要があります。それぞれについて、具体的に見てみましょう。
- 会社: 制度の対象となる企業であること
- 前経営者:承継前の経営者が一定の要件を満たすこと
- 後継者:承継後の経営者も一定の要件を満たすこと
- 制度適用後:5年間および5年経過後に定められた要件を満たしていること
これらの要件を全て満たすことで、事業承継税制のメリットを享受することができます。
取得費加算の特例
相続によって得た株式を譲渡する場合には、取得費加算の特例の適用を受けることができます。具体的には、譲渡する株式を相続した際に支払った相続税額を、証券会社の手数料や法律顧問費用などと同様に取得費に含めることができるという制度です。
これにより、株式の売却価格に対して差し引かれる取得費が増え、譲渡所得を抑えることができます。課税対象である譲渡所得を抑えることで、結果として納税額を減らすことができるのです。
ただし、この特例の適用を受けるためには、相続税の申告期限の翌日から3年以内に株式を譲渡する必要があります。また、確定申告も必要なため、要件をよく確認するようにしましょう。
株式譲渡の税金に関する注意点
株式譲渡に関する税金には、さまざまな注意点があります。まず、株式譲渡に伴う利益は譲渡所得として課税されます。また、所得税のほかに、住民税も課されることがあります。確定申告が必要なケースもあるため、税金に関するルールや制度を正確に理解し、適切な申告を行うことが大切です。
譲渡損失の3年間の繰越控除
譲渡損失の3年間の繰越控除とは、譲渡によって発生する損失を最大で3年間繰り越すことが可能な制度です。ただし、毎年の確定申告が必要となります。また、非上場株式の譲渡における損失の繰越は不可能です。
この制度を利用して譲渡損失を繰り越すことで、その年に控除できない金額を将来の譲渡所得から控除することができ、納税額の軽減につながります。ただし、制度の利用には一定の要件があるため、詳細を確認し、適切な申告を行いましょう。
海外に住んでいる場合
海外に住んでいる場合、株式を売却した際の税金は、居住している国のルールに基づいて課されます。各国には独自の税法があり、その国の税務当局が課税の規定を設けています。例えば、アメリカでは、長期・短期キャピタルゲイン税が適用されることが一般的です。
ただし、日本人が海外で株式を売却した場合でも、日本の税法によって課税の対象となるケースがあります。具体的には、日本の株式を売却した場合や、日本に居住していた期間が一定以上の場合などが該当します。
したがって、海外に住んでいる人が株式を売却する際は、居住国の税法だけでなく、日本の税法も確認することが重要です。
株式譲渡の税金に関するよくある質問
株式譲渡に係る税金については、多くの質問が寄せられます。例えば、譲渡益の計算方法や、非課税控除額、譲渡損失の繰越控除の方法などです。また、特定口座やNISA(少額投資非課税制度)における税金の取り扱いや、海外株式の譲渡における税金に関する質問もよく寄せられます。税金に関する疑問や不安がある場合、税理士や専門家のアドバイスを求めることがおすすめです。
ここでは、株式譲渡の税金に関する質問を3つ紹介します。
株式譲渡の基礎控除額はいくら?
基礎控除額は48万円のため、株式譲渡によって得た利益を含めた所得が48万円以下の場合には申告が不要となっています。基礎控除は給与所得者か個人事業主かを問わず適用され、事業の規模や業種も問われません。
ただし、基礎控除が48万円となるのは年間の合計所得が2,400万円以下の人に限られます。それ以上は年収に応じて段階的に基礎控除額が減額され、2,500万円以上では控除されなくなります。詳細については、税理士や専門家に相談するとよいでしょう。
株式譲渡にかかる税金は確定申告が必要?
株式譲渡にかかる税金について、確定申告が必要かどうか気になりますよね。株式譲渡の際には、基本的に源泉徴収が行われないため、確定申告が必要となります。
株式譲渡の税金は節税可能?
株式譲渡に伴う税金は、節税の機会があります。その1つが、退職金の活用です。これは、中小企業のオーナーがM&Aによって自社を譲受企業に引き継いで引退する際に用いられる方法です。
具体的には、株式譲渡を行う前にオーナーや役員などに退職金を支払い、会社の純資産を圧縮してから譲渡を行います。退職金は累進課税であり、退職所得金額に応じて税率が異なります。そのため、手取りを最大化できる最適な金額を算出し、本来株式譲渡の利益として受け取るはずの金額の一部を退職金として先に受け取ることで、譲渡所得にかかる税率よりも低い税率の適用を受けることができるのです。
また、株式の譲渡に伴う損失を申告することも節税の手段となります。株式を売却した際に損失が発生した場合、その損失額を所得から差し引くことができます。これにより他の収入からの税金を軽減し、総合的な税負担を削減することが可能です。
ただし、注意点もあります。譲渡損の申告には一定の手続きが必要であり、節税のためには計画的な取引や適切な税務アドバイスが必要です。
株式譲渡に課せられる税金には、退職金の活用や譲渡損の申告といった節税の機会があります。詳しくは税理士に相談するとよいでしょう。
まとめ
国内の中小企業のM&Aにおいて、株式譲渡はよく採用される手法の1つです。株式譲渡の際には、税金の取り扱いを忘れてはなりません。多くの場合、M&Aにおける株式譲渡には確定申告の義務が生じます。
この記事で紹介した税金の種類や計算方法を理解し、株式譲渡を円滑に進めることが重要です。特に、税務に関する規則は頻繁に変更されるため、M&Aアドバイザーに相談し、最終的な判断に至る前に税理士に助言を求めることが望ましいでしょう。
▼監修者プロフィール
岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。