廃業と倒産の違いとは?メリットやデメリット・M&Aという選択肢も解説

廃業と倒産を同じようなニュアンスでとらえている方もいらっしゃいますが、実際には異なります。

一般的に倒産とは、経営者の意志にかかわらず業績不振などによってもたらされるものですが、廃業は経営者の意志によって決断・選択されるものであり、それに至る理由は多様です。

また、廃業以外の選択肢も残されていた、というケースが少なくありません。

事業承継の案件に数多くかかわっていらっしゃる専門家である株式会社事業承継通信社の若村 雄介氏に、廃業と倒産の違いについて、さらには廃業以外の選択肢のひとつである事業承継についてうかがいました。

1.廃業とはどういうことなのか?

帝国データバンクの調査によると、2023年度の休業・廃業・解散件数は約6万件でした。少子高齢化の進行に連動し、中小企業の経営者の高齢化が進んでいるため、この数は今後さらに増えることが予測されます。

当然、廃業は何度も経験するものではなく、初めての方がほとんどでしょう。そのため廃業についての知識・経験をもっていらっしゃる経営者は多くはないと思われます。

ここでは廃業とはどういうことなのか、そして廃業以外の選択肢として考えられるのはどういうものなのかを見ていきましょう。

(1) 廃業という言葉の定義

廃業について簡単に説明をすると、会社の経営者が自主的に会社をたたむことです。会社を解散して、精算の作業を完了することによって、廃業となります。具体的な手続きとしては、法務局に登録してある法人登記の抹消が必要です。

廃業する理由としては、会社の後継者がいない、経営者の経営意欲がなくなったなどさまざまなものがあります。

たとえば、有名シェフがいることで人気を集めていた料理店があったとして、そのシェフがなんらかの理由で店を辞めることになったとしましょう。オーナー側としては店をたたまざるを得なくなった、といったケースも廃業の扱いになります。

廃業の理由としてもっとも多いのは、後継者がいないことです。とくに近年は少子高齢化が進んでいることもあり、中小企業の経営者にとって後継者不足は切実な問題となってきています。ここではそうした悩みに直面した時に、どう対処すべきなのか、説明していきます。

その前にまず、廃業と混同されがちな倒産という言葉の定義も確認しておきましょう。

(2) 倒産という言葉の定義

倒産という言葉は法律用語ではないので、明確な定義はありません。一般的には業績不振、赤字拡大などによって、企業の経営が行き詰まり、債務がかさんで返済できなくなり、事業の継続が困難になった状態を表す言葉です。つまり経営破綻した状態が倒産となります。

倒産した場合の法的な手続きは会社の規模や形態、状況などによってさまざまです。たとえば、銀行取引停止処分を受ける、裁判所に会社更生手続きを申請する、裁判所に民事再生手続開始を申請する、裁判所に破産手続き開始を申請する、裁判所に特別清算開始を申請するなどの手続きが必要になります。これらをトータルで倒産手続きと総称することが多いです。

(3) 破産という言葉の定義

倒産と似た言葉で破産がありますが、破産は法律用語で定義されていて、法的整理手段のひとつです。破産は会社だけなく、個人にも使われていて、自己破産、準自己破産、第三者破産という3つにわけられます。

会社の場合は、取引先への支払いができない、従業員への給与の支払いができないなど、すべての資産を投げうっても支払うことが不可能になった状態を破産と呼びます。

会社の倒産イコール破産とは限りません。倒産した場合の選択肢が必ずしも破産だけではないからです。会社が倒産しても、民事再生、会社更生を行うなどの可能性が残されています。

2.廃業・倒産・休業の違い

廃業に似た用語として、倒産や休業があります。

ここでは、廃業と倒産、休業の違いを詳しく紹介していきます。

(1) 廃業と休業の違い

休業は文字どおり会社を休むことで、廃業よりも軽い状態を指しています。届け出が必要になる点は同じですが、条件が揃ったら再開する余地を残しているのが休業です。

健康上の理由で休業したけれど、回復したら再開するなどのケースなどが休業に該当します。

(2) 廃業と倒産の違い

廃業と倒産とのもっとも大きな違いは、要因が外的か内的かになります。

倒産は業績不振・債務増大・マイナスの状況の蓄積など、外的な状況によってやむなくもたらされるものです。

一方、廃業は外的要因ではなく、経営者が自分の意志によって決断するものです。

倒産という言葉と混同し、廃業という言葉に対してマイナスの印象をもっている方もいらっしゃるかもしれませんが、廃業は実際に会社が黒字であるケース、業績が好調であるケースでも決断される場合が多々あります。

実施中小企業委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」(2023年度、(株)帝国バンク)によると、廃業した企業の51,9パーセントが黒字でした。また資産と負債の状況を見た場合にも、資産超過が62.3パーセントとなっていて、必ずしも経営状態が悪いわけではない場合もあるのです。

3.廃業や倒産件数の現状

帝国データバンクの「全国企業「休廃業・解散」動向調査(2023)」によると、2023年に休廃業や解散は5万9105件であり、倒産した企業が8,497件となっています。

休廃業の中でも直前期の決算で当期純損益が黒字だった企業は51.9%となっており、経営難だけが廃業や倒産の理由ではありません。

全国「後継者不在率」動向調査(2023年)」によると、後継者問題を抱えている企業は53.9%となっており、事業継続に影響を与えています。

60歳以上の経営者のうち60%以上が将来的な廃業を考えており、そのうち後継者問題を理由としているのは30%程度です。

債務超過による経営難や後継者問題などによって廃業や倒産を検討している企業が増えてきているため、事業継続のためには対策が必要です。

4.廃業や倒産を検討する理由

実際に廃業の現状がどうなっているのかを見ていきましょう。

(1)後継者不足

2023年の帝国データバンクの調査によると、経営者が廃業を選択する理由でもっとも多いのは後継者がいないことで、その数は34パーセントを占めています。この数は突出していますが、廃業を決断する場合はひとつだけの理由ではなく、いくつかの要因が重なって決断に至ることが多いようです。

後継者候補はいるけれど、将来的な事業の展望が決して明るいものではないと予測している方もいます。結果として、経営者が子どもや親族を後継者にすることをためらい、自分の代で終わりにする決断を下すケースも目立っています。大型店舗の進出、ネット通販の浸透などによって、小売業界を始めとする中小企業にとって厳しい時代が続いていることも、廃業の決断の要因となっているようです。

ちなみに2023年の帝国データバンクの調査によると、廃業時における経営者の年齢は70歳代がもっとも多くなっています。具体的には、70歳代が42.6パーセント、続いて60歳代が21.5パーセント、80歳以上が21.7パーセントとなっています。今後、さらに高齢化は進んでいくと予想されるため、廃業の割合も増えていくでしょう。

(2)廃業しかないと思い込むケースが多い

廃業を考えている中小企業の経営者の多くは、最初から他の選択肢がないと思い込んでいるというのが現状です。

実際に相談に来られてお会いした経営者の方々の中には、後継者候補がいながらも、自分以外には自分の会社は経営できないはずだ、わからないはずだと考えている方がたくさんいらっしゃいました。

また業態にもよりますが、事業承継をするための準備資金が不足している、後継者に資金力がなくて事業承継が難しいなど、経済面から廃業を決断するケースも目立っています。

資金が不足していても、廃業以外にも道が残されている場合があるため、経営者が誰にも相談せず独断で廃業を決めてしまうのはもったいないことです。

廃業以外の選択肢として事業承継、とくに第三者承継(M&A)を今一度考えてもらいたいですね。

(3)親族承継以外を想定していない

廃業以外の選択肢として考えられるのは親族承継、従業員承継、第三者承継の3つがあります。私が相談を受けた中では、都市よりも地方にいくほど、親族承継以外の選択肢を想定していない印象です。

“親の家業は子が継ぐもの”という意識が強く、それが叶わない場合は廃業、と考えていらっしゃる方が多かったです。

お子さんがいらっしゃらない場合、もしくはお子さんに継ぐ意思がない場合、じゃあ、甥っ子はどうだろうかと、親族へと候補者を広げて検討していく場合もあります。

自分の子どもや親族に継がせたいと考えるのは、心情としては自然な流れでありますが、親族承継の場合は、後継者として育成するための時間を見ておかなければなりません。スムーズに経営を譲渡していこうとするならば、十年単位のロングスパンで計画的に進める必要があります。

(4)業種別による廃業の特徴

実施中小企業委託「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」によると、廃業した組織の形態として個人事業者が多く、87.8パーセントを占めているのが現状です。その次に多いのが株式・有限会社で10.5パーセントとなっています。

業種別に見ていくと、もっとも多いのが小売業で25.2パーセント、ついで建設業が22.9パーセント、三番目が製造業で14.2パーセントと続きます。つまり小売業、建設業、製造業の3つで62.3パーセントを占めているのです。

こうした業種の企業の特徴としては、個人が一代で築いた、もしくは親の代から継いだなど、個人経営的な要素が顕著なため、「一代限り」と考えてしまう傾向が強いことが挙げられます。しかし実際には廃業ではなく、事業承継の道もあったのではないかと考えられるケースもたくさんあります。

5.廃業や倒産の具体的な手順

ここでは、廃業や倒産を行う際の手順を紹介します。

それぞれ詳しく紹介していくので、スムーズに手続きができるように理解しておきましょう。

(1)廃業する際の手順

廃業をする際の手順は以下の通りです。

    1. 会社の解散と解散登記・清算人登記
    2. 従業員の解雇
    3. 官報公告、債権者への通知
    4. 売掛金等の債権の回収と在庫等の資産の売却
    5. 税金等を含むすべての債務の支払い
    6. 残った財産の株主への分配
    7. 株主総会による決算報告の承認
    8. 確定申告(解散時と清算結了時等)
    9. 清算結了登記

廃業しようと決めたら、株主総会にて解散決議と手続きを進める清算人の選任が必要です。

株主総会は、発行済株式数の過半数が参加し、3分の2以上の賛成を得る必要があります。

そして、株主総会後は登記を行い、清算人を中心に税務署や労働基準監督署などに書類を提出するといった手続きを進めます。

清算人のみでも行えますが、法的な書類が必要になるため、士業に頼りながら進める方法もおすすめです。

(2)倒産する際の手順

倒産をする際の手順は以下の通りです。

    1. 弁護士への相談、破産申立を依頼
    2. 弁護士から債権者宛に破産申立の予定を通知してもらう
    3. 必要な書類を用意して管轄の裁判所に破産申立
    4. 破産手続開始決定を裁判所が発令、破産管財人の選任を行う
    5. 債権者集会の実施
    6. 裁判所による破産手続終結決定後、破産手続終結の登記

倒産は資金繰りに困っている状態で行うため、弁護士に相談をして破産の手続きを依頼しなければなりません。

弁護士から債権者に破産申立の通知を送ってもらい、裁判所にて破産手続きを進めていきます。

廃業とは異なり手続きを進める際に裁判所がかかわってくるため、複雑になることを理解しておきましょう。

6.廃業や倒産時に必要な費用

廃業や倒産を行う際に必要な費用を以下の3つにわけて紹介します。

    • 廃業をする場合
    • 法人破産をして倒産する場合
    • 事業再生をする場合

それぞれ詳しく紹介するので、手続きを進めるうえで残しておくべき資金を算出する際の参考にしてください。

(1)廃業をする場合

廃業する際には、以下のような費用が発生します。

費用名 金額
解散登記 30,000円
清算人選任登記 9,000円
清算結了登記 2,000円
官報公告掲載 35,893円(10行分)

企業によっては、退職金や未払いになっている給与、事務所の原状復帰費用などが追加で発生します。

また、手続きを進める際に弁護士や司法書士、税理士を利用する際には依頼料も発生することを理解しておきましょう。

(2)法人破産をして倒産する場合

法人破産時をして倒産する際には、以下の費用が発生します。

    • 予納金
    • 申立手数料
    • 依頼料

予納金は法人破産時の負債額や手続きを行う裁判所によって異なります。

たとえば、東京家庭裁判所で法人破産手続きを進める際の予納金は以下の通りです。

負債総額 予納金
~5,000万円 70万円
5,000万円~1億円 80万円
1億円~5億円 150万円
5億円〜10億円 250万円
10億円〜50億円 400万円
50億円〜100億円 500万円
100億円〜 700万円

このように、東京で破産手続きを行うためには、最低でも70万円の予納金が必要となることを理解しておきましょう。

申立手数料とは、破産の申立をする際に発生する費用であり、金額は以下の通りです。

    • 申立印紙代:1,000円
    • 官報公告予納金:13,000円~15,000円

加えて、裁判所が破産通知を送るための手数料も発生するので、債権者の人数によっては高額になります。

破産手続きを行う際に弁護士や司法書士を利用する際には、依頼料も必要となるため、まとまった資金を用意しておく必要があります。

(3)事業再生をする場合

事業再生とは法的再生と民事再生の2つがあり、事業を継続させるために再生を図る方法です。

法的再生を行う場合は、裁判所に申立を行い、債権者との調整を行いながら再生を行うため、費用が発生します。

法的再生を行う際に発生する費用は以下の通りです。

    • 裁判所への予納金
    • 弁護士の依頼料

法人破産と同じように、裁判所を利用するための予納金が必要です。

予納金は負債総額によって以下のようになります。

負債総額 予納金
~5,000万円 200万円
5,000万円~1億円 300万円
1億円~5億円 400万円
5億円~10億円 500万円
10億円~50億円 600万円
50億円~100億円 700万円
100億円~250億円 900万円
250億円~500億円 1,000万円
500億円~1,000億円 1,200万円
1,000億円以上 1,300万円

このように、最低でも200万円の費用が必要となるため、充分な資金が必要です。

法的再生の手続きを行うために弁護士を利用する場合は、依頼料も発生します。

また、事業再生を行った後には、従業員の給与やオフィスの賃料などの費用が必要となるため、手続きを進める前に理解しておきましょう。

7.廃業する3つのメリット

廃業をするメリットには、以下の3つがあります。

    • 倒産よりも手続きが簡単
    • 経営の負担がなくなる
    • 倒産するよりも迷惑をかけにくい

廃業するか悩んでいる方は、これから紹介する内容を参考にしながら判断してください。

(1)倒産よりも手続きが簡単

廃業の大きなメリットは、倒産よりも手続きが簡単である点です。

廃業をする場合、会社の債務を清算できていれば、以下の通常清算手続きを行うことで事業を終わらせられます。

    • 会社の業務を終了させる
    • 債務を完済する
    • 残余財産の分配を行う

手間はかかりますが、裁判所が関与することはなく、自社を中心に動けば廃業ができます。

一方、倒産の場合は裁判所を通して手続きをしなければならず、最低でも70万円以上の費用が発生します。

倒産と比べると廃業は費用だけでなく手続きの手間も省ける点がメリットです。

(2)経営の負担がなくなる

廃業をすると経営の負担がなくなる点も大きなメリットです。

経営を続けている場合、従業員に給与を払い業務を管理するだけでなく、会社のキャッシュフローについても対応しなければなりません。

しかし、廃業をすれば経営に関する対応をしなくてよくなるため、ストレスやプレッシャーから解放されるでしょう。

廃業ではなく休眠を選択した場合、固定資産税や法人住民税の支払いや税務申告の義務が発生するので、税務に関する業務を行う必要があります。

経営のストレスやプレッシャーから解放されたいと考えている方は、廃業によるメリットが大きいでしょう。

(3)倒産するよりも迷惑をかけにくい

廃業は取引先などへの迷惑が倒産に比べて少なくなる点もメリットのひとつです。

倒産した場合、債権が貸し倒れとなってしまう取引先が出てきてしまう恐れがあります。

一方、廃業であれば債務は返済した状態で事業を終了できるので、取引先への迷惑を最小限に抑えられます。

倒産せざるを得ない経営状態になる前に、廃業を選ぶ方法もおすすめです。

8.廃業する3つのデメリット

廃業をするデメリットには、以下の3つがあります。

    • 従業員を解雇しなければならない
    • 連続廃業のリスクがある
    • 資産の売却に影響が出る

それぞれ詳しく紹介するので、廃業を回避するか判断する材料にしてください。

(1)従業員を解雇しなければならない

廃業をする場合は、従業員を解雇しなければならない点は大きなデメリットです。

労働基準法で定められている解雇時のルールに則り、解雇予告を行ったり次の仕事を紹介したりしなければならず、一時的に業務量も増えます。

また、余裕をもって解雇予告をした結果、社内がトラブルに陥ってしまい取引先に迷惑をかけてしまう恐れもあります。

社内の状況を考慮しつつ、労働基準法で定められたルール通りに従業員を解雇しなければならないことを理解しておきましょう。

(2)連続廃業のリスクがある

廃業は債務の返済をすれば取引先への影響を減らせますが、連続廃業のリスクがある点はデメリットです。

たとえば、自社が廃業になった場合、仕入先の利益が減少して業績が悪化し結果として廃業となることもあります。

自社が廃業したことで仕入先が廃業し、さらに先の取引先が廃業するというように、連続廃業を引き起こす可能性があることを理解しておきましょう。

(3)資産の売却に影響が出る

廃業をする場合、資産の売却値に影響が出てしまう可能性がある点もデメリットのひとつです。

廃業に向けて債務返済をするために事業用資産等を売却する際、売却値が下がる可能性があります。

廃業する際の資産売却は、利益よりも売れることを重視しがちなので、売却値が下がりやすいです。

資産売却で債務返済をしようと考えている場合は、売却値の低下によって返済できなくならないように注意しましょう。

9.廃業・倒産以外に事業承継という選択肢

廃業を考えている方にぜひお勧めしたいのは、本当に廃業以外に選択肢はないのか、事業承継の可能性を検討することです。経営赤字を抱えている企業であっても、事業承継が成立するケースはたくさんあります。

ここでは事業承継について詳しく見ていきましょう。

(1)事業承継の3つの形態

事業承継の形態は3つにわけられます。親族承継、従業員承継、第三者承継、いわゆるM&Aの3つです。M&AのMはMergers(合併)、AはAcquisitions(買収)の略で、企業による企業の合併および買収を指し、それぞれにメリットとデメリットがあります。

(2)親族承継

一代で会社を興した創業者であり、オーナーである経営者の中には親族承継の選択を希望している方がたくさんいらっしゃると思われます。親族承継だと、家族であるという信頼感、安心感はありますが、後継者として育成するまで多くの時間を要することになります。外部から自分の子どもや親戚を連れてきた場合、他の従業員の反発を招く危険性もあるので、それなりの配慮と準備が必要です。

(3)従業員承継

従業員承継を選択した場合、つまり会社の役員など、優秀な部下を後継者として指名した場合は権限の委譲もスムーズに進行し、従業員や取引先との関係も円滑な状態を維持することが期待できます。実際に近年、従業員承継の割合が増えています。

ただし、問題点がまったくないわけではありません。社風をよく知っているがゆえに、大きく変革の舵が切れないこともあります。また経営者がオーナーであり会社の株式の多くを所有している場合、事業承継に伴う株式の譲渡に際して、資金が必要となってくるのですが、後継者にその資金力がないというケースも多いです。リスクを取る覚悟とともに資金調達手段も検討しておく必要があります。

(4)第三者承継(M&A)

一般的に、親族承継と従業員承継が無理だと判断して、廃業を選ぶケースが多いようですが、第三者承継、つまりM&Aの可能性を探らないまま、廃業を決断してしまうのは実にもったいないことです。第三者承継には親族承継、従業員承継にはないメリットがたくさんあるからです。

10.第三者承継の具体的な例

具体的な例を出して、説明していきましょう。以前、私どもが事業承継をお手伝いしたケースで、美容系の会社がありました。

(1)赤字が増大して廃業を意識

従業員数は約20名で、毎月赤字が月150万以上出ている状況で、なおかつその赤字は今後さらに増えていきそうでした。

経営者の方は他にもいくつかの事業を抱えていることもあり、この事業を建て直していこうという気力、意欲が減退してきた中、継続するか廃業するかで悩んでいらっしゃいました。

もしそのまま廃業するとなったら、不動産の精算、撤去費用など、かなりの費用がかかることが予測されました。20名の従業員をどうするのか、という問題もあります。

もし仮にこのまま継続したとしても、約150万円の赤字を黒字に変えるのはきわめて難しい状況でした。

(2)事業承継を提案

そこで、事業譲渡の可能性を探ることを提案いたしました。買手を探し、条件をしっかり詰めて、成約することこそが最良の解決法だと判断したからです。その際にもっとも優先したのはスピードでした。このまま方向性が出ないまま三ヵ月継続すると、400〜500万円分、資金が溶けていくことになります。

とにかくスピード優先で私どもが探したところ、950万円で買ってくれるという会社が見つかりました。しかも従業員もそのまま雇用し続けたいとの意向を示してくれました。

譲渡元のオーナーももともと従業員の雇用を守りたいという気持ちを強くもたれていましたので、事業譲渡という選択肢によって、従業員の雇用を守れることになります。売手側はもちろんですが、買手側にとっては、実力のあるエステティシャンを一気に採用もでき、集客リソースも手に入る、時間を考えるとメリットの多い案件となりました。

(3)売手側にとっての事業承継のメリット

このエステの会社の場合は、売手側が廃業を選んでいたら、金融機関への借入金の返済、不動産の整理、物理的・精神的な負担もたくさん抱えることになっていたでしょう。

950万円で事業を譲渡することによって、借入金のカバーもできて、月々の赤字も止まり、現状以上の資産の欠損をまぬがれました。また従業員の雇用も引き受けてもらえて、精神的負担もなくなりました。

この会社のオーナーは毎月150万以上の赤字が出ていたので、廃業するしかないと思い込んでいたのですが、事業譲渡という選択肢を選んだことによって、企業の資産が予想以上に評価されることにもつながったのです。

(4)こんなにも違う廃業と事業承継の評価額

例に出したのはエステの会社ですが、たとえば小売店の場合でも、廃業を前提とした場合と事業を継続する場合とでは、在庫や設備の評価額が大幅に変わってきます。

事業を継続する場合はそのままの評価となり、その資産評価に対して、企業を継続した場合の年間の営業利益の二倍から三倍の金額が営業権の価格としてプラスされていきます。

今回のこの会社の場合は、ホームページもしっかり作り込まれていて、インターネットでの集客方法が確立されていました。これらもそのまま引き継ぐことになり、その実績も資産として評価されて、トータルで950万円という金額が算出されました。もし廃業していれば、ホームページの価値を換金できることもありません。

(5)買手側の事業承継のメリット

契約が成立したのですから、当然、このエステ会社の事業譲渡には買手側にとってもたくさんのメリットのあるものです。

買手側は美容系の業界でシェアを伸ばすために、アクセルを踏んでいる状況だったことも双方にとって、プラスに働きました。ゼロから新たにサロンを開業するとなったら、場所の確保、人材の確保、設備投資など、開業するための費用と時間がかかります。20人のエステティシャンを採用するとなったら、育成する時間やその労力も考慮しなければなりません。経験のあるエステティシャン20名をそのまま引き継げることは、買手側にとっても大きなメリットとなりました。つまり買手側は会社とその営業権、資産、設備だけでなく、時間を買ったことになるのです。

顧客情報もそのまま譲渡されることになるわけで、これも大きなメリットとなります。たとえば、買手側が他の場所でも同じような会社を運営していた場合には、その顧客情報を共有することも可能になるでしょう。また、備品を数多く仕入れることによって価格が安くなるなど、規模が大きくなることのメリットも享受できます。

11.廃業や倒産だけでなくM&Aも検討しよう

廃業や倒産をするためには、さまざまな手続きを行わなければならず、時間やコストが発生します。

さらに従業員を解雇しなければならず、連続倒産のリスクもあることを理解しましょう。

できることなら事業を残したいと考える方には、廃業や倒産ではなくM&Aがおすすめです。

M&Aの専門家に相談すれば、条件に適した買手企業とマッチングし、事業を残せる可能性があります。

M&Aを検討したい方は、M&Aの戦略やパートナーの選定などを無料で実施している「TSUNAGU」に問い合わせてみてください。

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経営が悪化すると廃業や倒産を検討する方もいるでしょう。本記事では廃業や倒産について解説します。廃業や倒産をする際の手続きだけでなく、他の選択肢も紹介するのでぜひ参考にしてください。

▼監修者プロフィール

岩下 岳

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社

新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。