会社相続にかかる税金はどのくらい?計算方法や相続税評価額も

会社の相続において「税金はどのくらいかかるのか」、「税負担を軽減する方法はないか」といった疑問を持つ方は少なくありません。実際、会社の相続には相続税が課されますが、適切な対策を講じることで税額を減らすことが可能です。
この記事では、会社の株式を相続・贈与した時にかかる税金や算出方法、節税対策について解説します。ぜひ参考にしてください。
目次
会社の株式を相続、贈与したときの税金の種類
会社の株式を相続や贈与する際に必要となる税金には、相続税と贈与税、登録免許税があります。以下では、それぞれの概要や税率、そして計算方法などについて解説します。
相続税
オーナー経営者が亡くなった際、その親族が株式を含む財産を継承することで課せられる税金は「相続税」と呼ばれます。この税金は、会社を継ぐ親族、つまり相続人が支払う必要があります。
相続税の対象となるのは、被相続人がもっていたすべての遺産 の金額であり、税率は財産の額に応じて変動します。承継人以外の人が相続する他の資産も考慮に入れてどのくらいの税金が発生するのか、誰に何を承継させるのか事前に検討しておくことが重要です。税率は、10%から始まり、相続財産が1,000万円以下の場合に適用され、財産が6億円を超えると55%の税率が適用される累進課税です。
相続税の計算方法
相続によって得た株式を含むすべての財産から、負債や葬式の費用や基礎控除を引いた金額が、相続税の課税対象となる遺産の合計金額として計算し、「法定相続分に応じる取得金額」、つまり遺産総額を法定相続人が取得する割合で分けた金額に対して税率を適用し、算出されます。
これに各法定相続人にかかる税金を足し合わせることで、最終的な相続税の合計額が求められます。
以下は相続税の速算表ですので、参考にしてください。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税
贈与税は、個人が別の個人から無償で贈与を受けた財産に対して課される税金です。事業の承継においても、後継者が受ける贈与にはこの税が適用されます。
相続時精算課税制度が利用できない状況では、「暦年課税制度」が採用され、毎年受け取った贈与に基づいて税金が計算されます。
一般的な贈与財産に適用される税率は、基礎控除を適用した後の金額に応じて変動し、200万円以下の場合は10%からスタートし、3,000万円を超える贈与に対しては最大55%の税率が適用されます。この一般税率は、兄弟間、夫婦間の贈与や、未成年の子への親からの贈与などの場合に適用されます。
贈与税の計算方法
贈与税の計算は、1年間(1月1日から12月31日)に受けた贈与の総額から、110万円の基礎控除を引いた金額(課税価格)に対して行われます。
この課税価格に適用される税率は、贈与された財産の種類によって異なり、「一般贈与財産」と「特例贈与財産」の2つに分けられます。
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- 一般贈与財産:特例贈与財産に該当しないすべての贈与財産のこと
- 特例贈与財産とは、18歳以上の個人が直系尊属から受けた贈与のこと※
※2022年3月31日まではこの年齢の基準が20歳以上
課税価格が300万円から4,500万円の範囲にある場合、特例贈与財産にはより低い税率が適用され、税負担が軽くなるように設計されています。
以下は贈与税の速算表ですので、参考にしてください。
【一般贈与財産の場合|贈与税速算表】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
300万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円以下 | 20% | 25万円 |
600万円以下 | 30% | 65万円 |
1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
参照元:No.4408贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
【特例贈与財産の場合|贈与税速算表】
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
200万円以下 | 10% | - |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
参照元:No.4408贈与税の計算と税率(暦年課税)|国税庁
登録免許税・不動産取得税
事業承継の際には、株式の相続税や贈与税のみならず、不動産の所有権移転に関する税金もあります。
登録免許税は、土地や建物の購入後、その所有権を登記する際に支払う税金で、土地や建物の固定資産税評価額に基づき、種類に応じた税率を適用して計算されます。
事業承継で不動産を譲渡する場合、その所有権の移転登記には登録免許税がかかり、税額は固定資産評価額の2%です。
また、不動産取得税は、土地や建物の購入や建築に際して、登記の有無に関わらず課される税金です。相続による取得では発生せず、生前の贈与において課されます。事業承継で不動産を取得した場合、その価格(課税標準額)に応じた税率が適用され、住宅用土地や建物は3%、非住宅は特例期間中は4%の税率で計算されます。
会社の株式の相続税評価額とは
株式を相続や贈与した際の相続税や贈与税の計算には、その株式の換金可能な金額、つまり相続税評価額が基準として用いられます。この評価額は、税金を計算する際に最初に必要になります。以下では相続税評価額の具体的な算出方法について解説していきます。
相続税評価額の算出方法
相続税評価額の算出方法は、上場株式か非上場株式かによって変わります。上場株式の場合、市場価格を基にした評価が可能ですが、非上場株式の評価はより複雑で、会社の財務状況や収益性などを考慮した方法が必要になります。
ここでは、上場株式と非上場株式のそれぞれに対する相続税評価額の算出方法を詳しく説明します。
上場株式の場合
上場株式の相続税評価額を決定する際には、以下の4つの価額から最も低いものを選択します。
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- 相続開始日の最終価格
- 相続開始月の最終価格の平均額
- 相続開始前月の最終価格の平均額
- 相続開始前々月の最終価格の平均額
これらの過去の株価を調べる方法としては、インターネットで調べるほか、証券会社に依頼して株式の残高証明書を発行してもらうという手段があります。
非上場株式の場合
非上場株式の評価には、相続人が同族株主等かそうでないかに基づき、異なる方法が用いられます。評価方法は主に「純資産価額方式」、「類似業種比準方式」、「配当還元方式」の3つです。
同族株主等の場合は、原則として「純資産価額方式」か「類似業種比準方式」が適用されます。どちらの方式を使用するかは、会社の総資産額や従業員数などの要因によって決定されます。
「純資産価額方式」では、会社が売却された場合に1株当たりに分配される金額を基準にして価額を算定します。これには、会社の総資産から負債、さらに清算時に発生する法人税相当額を差し引いた額を使用します。
<純資産価額方式の計算式>
1株当たりの純資産価額 = (相続税評価額による総資産価額 - 相続税評価額で計算した負債額 - 法人税額相当額) ÷ 課税時期の発行済株式数
参照元:第1節株式及び出資|国税庁
参照元:取引相場のない株式の評価
類似業種比準方式は、非上場株式の評価方法の一つで、類似の業種に属する上場企業の株価を参照点として使用します。この方式では、評価対象の非上場企業と類似業種の上場企業との間で配当、利益、純資産の3つの要素を比較し、これらを基に非上場企業の株価を算定します。
<類似業種比準方式の計算式>
1株当たりの類似業種比準価額 = 類似業種の株価 × (配当比準割合 + 利益比準割合 + 純資産比準割合) ÷ 3 × 斟酌率(※)
※斟酌率:大企業0.7、中会社0.6、小会社0.5
参照元:(類似業種比準価額)|国税庁
配当還元方式は、同族株主以外が取得した非上場株式の評価に使用される特例的な方法です。配当還元方式では、株式を持つことによって得られると予想される年間配当金額を基に、株式の価値を算出します。
具体的には、予想される年間配当を一定の利率(ここでは10%)で割り引くことにより、株式の現在価値を計算します。その株式に係る年配当金額は1株当たりの資本金額を50円とした場合の金額です。
ただし、計算された年間配当が2円50銭未満の場合は、最低配当額を2円50銭として評価を行います。
会社の株式を相続したときの税金を抑える方法
会社の株式を相続したときの税金を抑える方法は以下のとおりです。
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- 事業承継税制を利用する
- 株式の評価額を下げる
順に解説します。
事業承継税制を利用する
事業承継税制は、非上場会社の後継者が株式を贈与や相続で受け取る際に、重い税負担を軽減するために設計された制度です。2018年の税制改正により、この制度は10年間の期間限定措置として要件が緩和されました。
大きなメリットとしては、贈与税や相続税の納税猶予を受けられることが挙げられます。また、特定の条件を満たすと、猶予された税金の支払いが免除される可能性があります。
納税猶予は期間の定めがなく、「納税猶予の取り消し」が発生するか、株式が次の後継者へ相続や贈与されるまで継続されます。
デメリットとしては、制度の利用や継続に伴う提出書類の多さと、制度の複雑さが挙げられます。多くの条文と細かな規定により、書類作成や添付書類の収集が大きな事務負担となり得ます。
さらに、必要な継続届出書の提出などの要件を満たさなかった場合、納税猶予が取り消され、税額と利子税を全額支払う必要が生じることもデメリットの一つです。
株式の評価額を下げる
相続税の計算では、株式が換金された場合に得られる金額、すなわち自社株の評価額が重要な基準となります。この評価額が低いほど、相続税の負担も軽くなるため、株式の評価額を下げる対策は相続税軽減の有効な手段です。
利益・純資産・配当金を減らす対策としては以下のとおりです。
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- 引退する役員への退職金支給
- 不動産の購入
- 減価償却費の計上
【引退する役員への退職金支給】
引退する役員への退職金の支給は、会社の利益を減少させ、その結果、会社の純資産も減少します。純資産が減るとその会社の株式の評価額も下がるため、相続税対策として有効といえます。
【不動産の購入】
土地や建物のような不動産は、通常、現金と比べて相続税での評価が低めに設定されます。そのため、株式を受け継ぐ前に不動産を買うことは、会社の株価を下げる手法として有効です。
しかし、購入後3年未満の不動産については、その帳簿上の価値で評価されることが決まっているため、計画的に早期に購入しなければなりません。
【減価償却費の計上】
減価償却は、パソコンやコピー機のような時間の経過とともに価値が下がる資産の購入コストを、その利用可能な期間にわたって会計上分割して計上することを指します。
減価償却費の対象資産は、購入時にコストを一括で経費に計上するのではなく、時間をかけて分割して経費に計上することにより、企業の利益を抑えて税金の節約に寄与します。
また、設備や機械の更新が予定されている場合、相続が発生する前にこれを実施することで、税金の負担軽減に有効です。
まとめ
本記事では、会社相続にかかる税金の種類や算出方法、税金を抑える方法について解説しました。会社の株式を相続するには相続税と贈与税がかかります。
税負担を軽減したい場合は、株式の評価額を下げるか事業承継税制を利用する、のいずれかです。自身に適した方法を確認した上で、より良い方法を選択しましょう。
▼監修者プロフィール

岩下 岳(S&G株式会社 代表取締役) S&G株式会社
新卒で日立Gr.に入社。同社の海外拠点立上げ業務等に従事。
その後、東証一部上場のM&A仲介業界最大手の日本M&Aセンターへ入社ディールマネージャーとして、複数社のM&A(株式譲渡・事業譲渡・業務提携等)支援に関与。IT、製造業、人材、小売、エンタメ、建設、飲食、ホテル、物流、不動産、サービス業、アパレル、産業廃棄物処分業等、様々な業界・業種でM&Aの支援実績を有する。現在はS&G代表として、M&Aアドバイザー、及び企業顧問に従事している。